1 / 3
1.
しおりを挟む
.
「何故俺を見ないんですか?」
怜悧な目つきが、整った顔立ちのなかでいっそう際立っている。
男は片手をスッと上げ、先が鋭く尖ったハサミを私に見せつけた。
切っ先が逆光に煌めく。
オールバックの黒髪に黒いスーツだが、態度が葬式帰りではないことを如実に示している。
この男は━━━━━
刺す、打つ(撃つ)、刻む(損壊)が得意な世界の男だ。
そんな男が私を見下ろしているのだ。
果たして、何故こんなことになっているのか。
事の発端は、私が白い山茶花の咲く道を見つけたことから始まった。
仕事帰り、近道ができるのではないかと、たまたま自転車で入った路地だった。
塀の代わりなのか、白い山茶花は道路と敷地を隔てている。
高さは二メートルほど、横幅は五メートルくらい。
純白の清楚なさざんかに心奪われ、今度の休みの日に歩いて通ろうと決めた。
そして今日がその休みの日であった。
さざんかは庭木としてはあまり好まれないという。
チャドクガという毒を持った毛虫が発生するからだ。
触らなくても、側を通っただけで人の皮膚は毒の影響を受けてしまう。
さざんかに罪はないのに敬遠されてしまうとのことだった。
私はチャドクガが発生していないかを確認しつつ眺めて歩いた。
うん、見当たらない。側を歩いても良さげだ。
松の木もすごく整えられているから、もしかして庭師さんが手入れしてるのかもね。
いろいろ想像しながら花を眺めて歩いていると、枝葉の隙間から敷地内が見えた。
人がいる。
決してのぞき趣味ではない。
さざんかの花に見とれていたら、自然に敷地内まで見えてしまっただけ。
お家のご主人かな?
瞬間━━━━━
私はその場にしゃがんだ。
「何故俺を見ないんですか?」
怜悧な目つきが、整った顔立ちのなかでいっそう際立っている。
男は片手をスッと上げ、先が鋭く尖ったハサミを私に見せつけた。
切っ先が逆光に煌めく。
オールバックの黒髪に黒いスーツだが、態度が葬式帰りではないことを如実に示している。
この男は━━━━━
刺す、打つ(撃つ)、刻む(損壊)が得意な世界の男だ。
そんな男が私を見下ろしているのだ。
果たして、何故こんなことになっているのか。
事の発端は、私が白い山茶花の咲く道を見つけたことから始まった。
仕事帰り、近道ができるのではないかと、たまたま自転車で入った路地だった。
塀の代わりなのか、白い山茶花は道路と敷地を隔てている。
高さは二メートルほど、横幅は五メートルくらい。
純白の清楚なさざんかに心奪われ、今度の休みの日に歩いて通ろうと決めた。
そして今日がその休みの日であった。
さざんかは庭木としてはあまり好まれないという。
チャドクガという毒を持った毛虫が発生するからだ。
触らなくても、側を通っただけで人の皮膚は毒の影響を受けてしまう。
さざんかに罪はないのに敬遠されてしまうとのことだった。
私はチャドクガが発生していないかを確認しつつ眺めて歩いた。
うん、見当たらない。側を歩いても良さげだ。
松の木もすごく整えられているから、もしかして庭師さんが手入れしてるのかもね。
いろいろ想像しながら花を眺めて歩いていると、枝葉の隙間から敷地内が見えた。
人がいる。
決してのぞき趣味ではない。
さざんかの花に見とれていたら、自然に敷地内まで見えてしまっただけ。
お家のご主人かな?
瞬間━━━━━
私はその場にしゃがんだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

ルドベキア群生~若頭と私1~
由宇ノ木
恋愛
好きだった風景がまたひとつ消えた。
意気消沈しながら歩いていると、車の運転席から声をかけられた。
誰かと思ってみていると、男性は車から降りてきて━━━━
過去に公開した作品を削除して、書き直したお話です。他のサイトにも公開しています。
※『繚乱ロンド』とは別作品です。
関連作品
花物語『カサブランカ・ダディ』
『コスモスゆれて~若頭と私 2 ~』

コスモスゆれて~若頭と私 2 ~
由宇ノ木
恋愛
『ルドベキア群生~若頭と私~』のその後。
*『繚乱ロンド』とは別作品です。
関連作品
『ルドベキア群生~若頭と私1~』
『さざんかの咲く道~若頭と私3~』
花物語の『カサブランカ・ダディ』
【外伝・完結】神獣の花嫁〜いざよいの契り〜
一茅苑呼
恋愛
こちらは『神獣の花嫁シリーズ』の外伝となります。
本編をご存じなくとも、こちら単体でもお読みいただけます。
☆☆☆☆☆
❖大神社の巫女 可依(かえ)23歳
夢占いが得意な最高位のかんなぎ
✕
❖萩原(はぎはら)尊臣(たかおみ)29歳
傲岸不遜な元国司、現萩原家当主
────あらすじ────
「まさかとは思うが、お前、俺に情けを交わして欲しいのか?」
「お戯れをっ」
───自分の夢占に間違いはない。
けれども、巫女の身でありながら殿御と夜を共にするなど、言語道断。
「わたくしは、巫女でいたいのです」
乞われても、正妻のある方のもとへ行けるはずもなく。
「……息災でな」
そして、来たるべくして訪れる別れ。
───これは、夫婦の契りが儚いものだった世のお話です。
※表紙絵はAIイラストです。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる