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第3章 裏世界
04
しおりを挟む「ミッケ。ちょっと頼みがあるんだけど……」
その日の夜、夕食から部屋に戻ってきた美玲ちゃんは、いつになくしおらしい態度で話しかけてきた。
お皿にのせたアジフライをぼくの目の前に置いて、もじもじとしている。
どうせまた宿題をやらせたいのだろう。
ぼくは言われるまえに、机に飛び乗り鉛筆を抱え込んだ。
しかし、机にテキスト用紙もノートもない。
「しばらく萌についていてほしいの。なんか、あぶないことしそうになったら、すぐにわたしに知らせて」
言いづらい言葉を、精一杯がんばって吐き出すようにして言った美玲ちゃん。
そこまでして頼む美玲ちゃんに、首を横にふれる訳がない。
ぼくはこくりとうなづくと、アジフライを口にくわえて、部屋の窓から夜の街に飛び出した。
萌ちゃんの家はわかってる。一度、お化け退治に行ってるからね。
逢生橋のたもとで暮らしていた頃は、たまに夜の散歩をしていたから、この街の歩き方にもなれたもんさ。
人間が通れない、猫だけの通り道を歩いて大通りに出る。
このまま豊海町の方向へ歩いて行けば、萌ちゃんの住むマンションが見えてくる。
「それにしても、美玲ちゃんはやっぱりやさしいなぁ。あんなことを言われてもなお、萌ちゃんを心配しているなんて……」
ひとり感心しながら歩いていたら、偶然にも、自動販売機のかげにかくれるようにして立っている、萌ちゃんを見つけた。
「そんなところで、なにしてるの?」
なんて、声をかける訳ないですよ~。ぼく、お化けなんだから。
「お弁当でも楽しみながら、しばらく様子を見るとするかね……」
くわえてきたアジフライをかじりつつ、遠くから萌ちゃんを観察する。
すると萌ちゃんが、じっと一点を見つめていることに気付いた。
「それにしても、アジフライって最高だね。この白身と衣のバランスが……って、ちょいちょいちょいっ!」
萌ちゃんが見ている方向に視線を向けたとたん、ぼくは目を疑ってしまった。
その場所は、昼間に観た動画の交差点だったのだ。
しかも横断歩道のはしには、まるで絵画に墨でも垂らしてしまったかのように、まわりの風景とかけはなれた異質な黒い塊が、ぽつりと置かれている。
まさか、萌ちゃんにも、あの黒い塊が見えているの……?
ふたたび萌ちゃんに目を向けると、もう夏とはいえ夜風が涼しいこの時間に、額から首筋にかけて、たくさんの汗を流していた。
美玲ちゃんとちがって女子力の高い萌ちゃんが、あんなに汗をかくところなんて見たことがない。
ぼくはとっさに萌ちゃんのそばに駆けよった。
「やった、やった……。わたしにも見えた。幽霊が見えた……!」
萌ちゃんは緊張と喜びが混じったような表情で、黒い塊を凝視している。
その手に、ぎゅっと握られているのは、もしかして、廃病院に行ったときにチャーシューが持っていた、お札の残り……?
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