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第3章 裏世界
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とつぜんの急展開に、ぼくの頭はひどく混乱してしまった。
萌ちゃんは、ひとりで幽霊退治をするつもりなんだ! 急いで美玲ちゃんに知らせないと! でも、そのあいだに萌ちゃんが行動を起こしてしまったら……。
「だめだ、萌ちゃん! ひとりで幽霊退治なんて、絶対に無理だよ!」
ぼくは正体がバレるのも覚悟して、萌ちゃんに向かって叫んだ。
そうだ。
ぼくはもともと、ぼくの姿が見える友だちが欲しくて、逢生橋で人間を観察してたんだ。きっと萌ちゃんだって、美玲ちゃんと同じように、ぼくを化け物あつかいするはずがない。
「萌ちゃん! いま美玲ちゃんを呼んでくるから、待ってて!」
しかし、萌ちゃんに、ぼくの声は届かなかった。
交差点にたたずむ黒い塊を、ぎゅっと見つめたままでいる。
「なんでさ! どうでもいい時は、みんなに声が聞こえてしまうのに、本当に伝えたい声は、どうしていつも届いてくれないんだ!」
ぼくは萌ちゃんの背中に飛び乗った。
萌ちゃんが、はっと驚いたように肩をさすった。ぼくの重さを感じたのだ。
そのとたん、萌ちゃんが走りだした。
まるで、ぼくが背中に乗ったことが、覚悟を決めかねていた萌ちゃんの背中を押したみたいに、萌ちゃんは黒い塊に向かって一直線に走って行く。
それからはもう、いくら背中で暴れようと、ぼくの気配は伝わらなかった。
萌ちゃんは黒い塊の背後に、つんのめるようにして立ち止まると、いきおいにまかせて、お札を投げつけた。
黒い塊に、ぺたりとお札が貼り付く。
すると、岩のように動かなかった黒い塊が、ぞわぞわと動き出した。
不気味にうごめく黒い塊。
よく見るとそれは、背中を向けてうずくまる、中年男性のようだった。
着ている服も、首筋からのぞく肌も、すべてが焼け焦げたように真っ黒。
そんな男の後ろ頭が、ゆっくりともたげていく。
ふり返った男の顔面は、目も、鼻も、口も、まるで判別がつかないほど黒く焼け焦げていた。
次の瞬間、萌ちゃんが倒れた。
机に立てた鉛筆を、指で押し倒したときのように、まっすぐに立ったままの状態で、背中からばたりと倒れて気絶したのだ。
萌ちゃんの背中にしがみついていたぼくは、歩道に強く頭を打ってしまった。
気が遠くなる。
失いかけていく意識を、けんめいに奮い立たせ、なんとか目を開ける。
すると、ぼくの目にまぶしい光が飛び込んできた。
その光に向かって、ゆっくりと立ち上がり、歩いていくシルエットは……。
耳をつんざくようなかん高いブレーキ音と、低く鈍い衝突音が響くなかで、ぼくの意識は、深い闇に堕ちていった。
萌ちゃんは、ひとりで幽霊退治をするつもりなんだ! 急いで美玲ちゃんに知らせないと! でも、そのあいだに萌ちゃんが行動を起こしてしまったら……。
「だめだ、萌ちゃん! ひとりで幽霊退治なんて、絶対に無理だよ!」
ぼくは正体がバレるのも覚悟して、萌ちゃんに向かって叫んだ。
そうだ。
ぼくはもともと、ぼくの姿が見える友だちが欲しくて、逢生橋で人間を観察してたんだ。きっと萌ちゃんだって、美玲ちゃんと同じように、ぼくを化け物あつかいするはずがない。
「萌ちゃん! いま美玲ちゃんを呼んでくるから、待ってて!」
しかし、萌ちゃんに、ぼくの声は届かなかった。
交差点にたたずむ黒い塊を、ぎゅっと見つめたままでいる。
「なんでさ! どうでもいい時は、みんなに声が聞こえてしまうのに、本当に伝えたい声は、どうしていつも届いてくれないんだ!」
ぼくは萌ちゃんの背中に飛び乗った。
萌ちゃんが、はっと驚いたように肩をさすった。ぼくの重さを感じたのだ。
そのとたん、萌ちゃんが走りだした。
まるで、ぼくが背中に乗ったことが、覚悟を決めかねていた萌ちゃんの背中を押したみたいに、萌ちゃんは黒い塊に向かって一直線に走って行く。
それからはもう、いくら背中で暴れようと、ぼくの気配は伝わらなかった。
萌ちゃんは黒い塊の背後に、つんのめるようにして立ち止まると、いきおいにまかせて、お札を投げつけた。
黒い塊に、ぺたりとお札が貼り付く。
すると、岩のように動かなかった黒い塊が、ぞわぞわと動き出した。
不気味にうごめく黒い塊。
よく見るとそれは、背中を向けてうずくまる、中年男性のようだった。
着ている服も、首筋からのぞく肌も、すべてが焼け焦げたように真っ黒。
そんな男の後ろ頭が、ゆっくりともたげていく。
ふり返った男の顔面は、目も、鼻も、口も、まるで判別がつかないほど黒く焼け焦げていた。
次の瞬間、萌ちゃんが倒れた。
机に立てた鉛筆を、指で押し倒したときのように、まっすぐに立ったままの状態で、背中からばたりと倒れて気絶したのだ。
萌ちゃんの背中にしがみついていたぼくは、歩道に強く頭を打ってしまった。
気が遠くなる。
失いかけていく意識を、けんめいに奮い立たせ、なんとか目を開ける。
すると、ぼくの目にまぶしい光が飛び込んできた。
その光に向かって、ゆっくりと立ち上がり、歩いていくシルエットは……。
耳をつんざくようなかん高いブレーキ音と、低く鈍い衝突音が響くなかで、ぼくの意識は、深い闇に堕ちていった。
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