化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏

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第3章 裏世界

05

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 とつぜんの急展開に、ぼくの頭はひどく混乱してしまった。

 もえちゃんは、ひとりで幽霊退治をするつもりなんだ! 急いで美玲みれいちゃんに知らせないと! でも、そのあいだにもえちゃんが行動を起こしてしまったら……。

「だめだ、もえちゃん! ひとりで幽霊退治なんて、絶対に無理だよ!」

 ぼくは正体がバレるのも覚悟して、もえちゃんに向かって叫んだ。

 そうだ。
 ぼくはもともと、ぼくの姿が見える友だちが欲しくて、逢生橋あいおいばしで人間を観察してたんだ。きっともえちゃんだって、美玲みれいちゃんと同じように、ぼくを化け物あつかいするはずがない。


もえちゃん! いま美玲みれいちゃんを呼んでくるから、待ってて!」

 しかし、もえちゃんに、ぼくの声は届かなかった。
 交差点にたたずむ黒い塊を、ぎゅっと見つめたままでいる。

「なんでさ! どうでもいい時は、みんなに声が聞こえてしまうのに、本当に伝えたい声は、どうしていつも届いてくれないんだ!」

 ぼくはもえちゃんの背中に飛び乗った。
 もえちゃんが、はっと驚いたように肩をさすった。ぼくの重さを感じたのだ。

 そのとたん、もえちゃんが走りだした。
 まるで、ぼくが背中に乗ったことが、覚悟を決めかねていたもえちゃんの背中を押したみたいに、もえちゃんは黒い塊に向かって一直線に走って行く。

 それからはもう、いくら背中で暴れようと、ぼくの気配は伝わらなかった。
 もえちゃんは黒い塊の背後はいごに、つんのめるようにして立ち止まると、いきおいにまかせて、おふだを投げつけた。
 黒い塊に、ぺたりとおふだが貼り付く。
 すると、岩のように動かなかった黒い塊が、ぞわぞわと動き出した。

 不気味にうごめく黒い塊。

 よく見るとそれは、背中を向けてうずくまる、中年男性のようだった。
 着ている服も、首筋からのぞく肌も、すべてが焼け焦げたように真っ黒。
 そんな男の後ろ頭が、ゆっくりともたげていく。
 ふり返った男の顔面は、目も、鼻も、口も、まるで判別がつかないほど黒く焼け焦げていた。

 次の瞬間、もえちゃんが倒れた。
 机に立てた鉛筆を、指で押し倒したときのように、まっすぐに立ったままの状態で、背中からばたりと倒れて気絶したのだ。

 もえちゃんの背中にしがみついていたぼくは、歩道に強く頭を打ってしまった。

 気が遠くなる。
 失いかけていく意識を、けんめいにふるい立たせ、なんとか目を開ける。


 すると、ぼくの目にまぶしい光が飛び込んできた。
 その光に向かって、ゆっくりと立ち上がり、歩いていくシルエットは……。


 耳をつんざくようなかん高いブレーキ音と、低く鈍い衝突音が響くなかで、ぼくの意識は、深い闇にちていった。





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