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第1章 萌の部屋にいたものは
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しおりを挟む港に面した工場地帯が取り壊されて、ウォーターフロントなんて、おしゃれな肩書きで新しく生まれ変わったのは、となり街、豊海町のこと。
雨後のタケノコのように、にょきにょきと建設される高層マンションを横目で眺めながら、下町情緒あふれる街並を大切に守っているのが、美玲ちゃんの住む神杜町だ。
そんな、街の再開発からも、時代の流れからも、ぽつんと取り残された神杜町の逢生橋の上で、ぼくと美玲ちゃんが出会ってから、もう一ヶ月になる。
いまでは、美玲ちゃんの部屋に居候させてもらえるほど仲良しになっているんだ。
「ミッケ、またいつものお願いね! 八時からどうしても観たい番組があるの~」
言うなり美玲ちゃんが、部屋を飛び出していく。
まあ、居候させてくれる理由のひとつに、ぼくに宿題をさせるためってことも、あるんだろうけど……。
ぼくは机に飛び乗ると、いつものように空欄だらけの一枚のテキスト用紙と向き合った。
器用に鉛筆を抱え込んで、ことわざの問題を解き始める。
「わずかな出費で大きな利益を得ること? エビで鯛を釣る……っと」
美玲ちゃん家で生活するようになって、色々とわかったことがある。
まず美玲ちゃんは、美砂小学校に通う、とっても元気な小学五年生の女の子。
しょっちゅう遊びにくるクラスメイトの七海萌ちゃんと、同級生の男の子やアイドルの話で盛り上がったりしている。
黒い服が大好きなこと、お化けが見えること以外は、いたってフツーな、どこにでもいる女の子だ。
パパさんは、それに輪をかけてフツーな人。
いつもやさしそうなまなざしで家族を見ているだけで、みんなの話に加わろうとすることはない。わりと……というか、存在感はかなり薄い。
驚いたのはママさんだ。
美玲ちゃんにそっくりで、とっても元気で明るい人だけど、どうやらママさんには、ぼくの姿が見えているらしい。だけど、そんなそぶりを一切見せないし、美玲ちゃんでさえ、ママさんがお化けが見えることは知らない。
このまえママさんにこっそり話しかけてみたけれど、いっさい聞く耳を持ちません! という感じで無視されてしまった。
でも追い出そうとするわけでも煙たがるわけでもなく、ぼくの存在を許している感じ。
とにかく不思議な人だ。
そんなぼくらの日常に事件が舞い込んできたのは、さらに一ヶ月ほどたった、ある雨の日の午後だった。
美玲ちゃんの親友である萌ちゃんが、とつぜん訪ねてきたのだ。
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