上 下
23 / 25

無茶をする侯爵令嬢。

しおりを挟む

「戦況はどうなっているの?」

エミリアはバーシャルを、いや、ダニエルの状態を心配するあまり、父親に詰め寄った。
しかし、手広く商売を行っている父でも、バーシャルの現在の状況は掴めず、不安は増すばかりであった。

もう!
この世界は情報が遅いところが本当に困るんだよね!
そもそも通信手段が少なすぎるんだよ。
かといって、電話すら発明出来ないし・・・
私のバカ。

新しく情報が入るのを待つことしか出来ないエミリアは、どんどん悪い方へと物事を考えてしまう。

こうしている間にも、大量の兵達がバーシャルを襲って、ダニー様がやられてしまうかも。
ルシアン様の援軍が到着するにはまだ時間がかかるだろうし。

バーシャルへは急いでも二日はかかるだろう。
いても立ってもいられず、エミリアは思いたった。

そうだバーシャル、行こう。

エミリアはすぐさま父にバーシャル行きを直訴したが、速攻で却下された。

「パパ!なんでダメなの?ちょっと近くに行くだけでいいの。状況さえわかれば帰ってくるから!」

「駄目に決まっているよね?侯爵令嬢が、そんな危険な場所へ行くのを許す父親がいると思うか?」

「そこをなんとか!あ、あちらにあるパパの商会の支店も気になるでしょ?もしかして、様子を見に行こうとしてるんじゃないの?私もそのチームに入れて!一生のお願い!!」

かくして、エミリアは強引にバーシャル方面へ旅立つこととなった。
自ら戦地へ赴くという、令嬢以前に人として考えられない行為だったが、昔から風変わりなエミリアに、結局は家族も折れたのである。


翌日、エミリアは父の商会の人々とバーシャル近郊へ向けて出発した。
チームのリーダーはシーラの夫なので心強かったが、見送りに来ていたシーラには、「なんて無茶をするんですか!」と叱られてしまった。

最終的にバーシャルの近くまで向かうが、途中にある支店にも顔を出し、流通状況や、在庫について確認をしながら進む為、気は急くが、すぐにはバーシャルへは辿り着けない。
しかし、足を引っ張るにも関わらず、無理に連れてきてくれたことに感謝し、エミリアは出来るだけお手伝いを頑張った。
働いていた方が気も紛れたからである。

王都を出発して五日。
ようやくバーシャルの隣町に到着した。

エミリアは早速聞き込みを開始し、現在の戦況を探った。
すると、人々の表情は明るく、今日中にもこちら側の勝利で戦いは終わりそうだとのことだった。

安堵に包まれたエミリアは、すでに戦勝ムードが漂う隣町を抜け、バーシャルの町へ向かった。
バーシャルは封鎖され、入れないように門が閉まっている。
どうにかして中に入れてもらえないか、衛兵に話しかけようとした時、勝鬨の声が聞こえた。
どうやら、我が国が勝利したらしい。

「うわぁ、おめでとうございます!」

思わず衛兵に言うと、それまで強張っていた顔が緩み、笑みを覗かせている。

あ、今がチャンスなんじゃ?
頼んだら入れてくれるかも。

ノリで頼もうとすると、中から切羽詰まった叫び声が聞こえた。

「大変だ!副団長が斬られた!」

エミリアは急激に辺りの色が失われていくのを感じた。

嘘でしょ?
今、勝ったって言ってたじゃない。

エミリアは衛兵の腕を掴むと懇願していた。

「お願い!中に入れて下さい!私、エミリア・バートンと言います。ダニエル様の婚約者です!!」

衛兵は目を大きくして驚いていたが、エミリアの名前を知っていたのか、特別に入れてくれた。

「ありがとうございます!」

お礼を言うと、エミリアはまだ攻撃の跡が生々しく残る町の中心へと走り出した。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、推しキャラの婚約者の立場を思う存分楽しみます

下菊みこと
恋愛
タイトルまんま。 悪役令嬢に転生した女の子が推しキャラに猛烈にアタックするけど聖女候補であるヒロインが出てきて余計なことをしてくれるお話。 悪役令嬢は諦めも早かった。 ちらっとヒロインへのざまぁがありますが、そんなにそこに触れない。 ご都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

処理中です...