上 下
22 / 25

忍び寄る不穏な影。

しおりを挟む

エミリアは、まもなく十九歳になろうとしていた。
ダニエルのバーシャルでの警備も三年弱が経過し、そろそろ王都へ帰還出来るのではないかという噂もある。

バーシャルは緊張状態が続きつつも、警備を固めた為か、攻め込まれることは無かった。
ダニエルも元気にしているようで、エミリアも安心していた。

「エミィちゃん、邪魔するよ。元気?」

エミリアは高等部を無事に卒業したが、学校で会えなくなった分、ルシアンはエミリアの様子を見に侯爵家の屋敷まで訪ねてくることがあった。

「ルシアン様、ごきげんよう。元気です。ダニー様も元気みたいですね。」

「ああ、そうみたいだな。あいつら、やたらと鍛錬ばかりしてるみたいだから、帰ってきたらムッキムキになってるんじゃない?」

エミリアのラブレター騒動を知っているルシアンは、結構本気で言っているのだが、まさか自分の手紙が読まれていることを知らないエミリアは、ルシアンの冗談だと思って笑って聞いていた。

「ふふっ、私が大人っぽく変身して驚かせようと思っているのに、ダニー様のほうがムキムキに成長していたら、計画が台無しですね。」

ダニエルの、オレンジのアップリケのシャツがパツパツになっている姿を想像すると、笑いが止まらなかった。

「エミィちゃんは一気に綺麗な女性になっちゃったからね。経過を見られなかったダニエルが不憫で仕方ないよ。あ、面白いから、エミィちゃんは相変わらず小さくて可愛いって伝えてあるから。」

いたずらっぽく笑い、ルシアンがウィンクをする。
エミリアはここ二年ほどで背も伸び、体付きも女性らしくなっていた。
ボンキュッボンとまではいかないが、随分変化したので、ダニエルと再会した時に驚く顔を見るのを楽しみにしているのだ。

ふっふっふ。
胸もそれなりに成長したし、驚くダニー様に、「あら、見惚れて声も出ないんですか?」って言ってやるんだから!
ルシアン様もナイスアシスト!!
さすが、わかってるわ。

二人で悪い笑みを浮かべた後、エミリアはルシアンに今日の訪問の理由を尋ねた。
きっといつものように、顔を見に来ただけだと思っていたが、答えは予想外だった。

「それがね、バーシャルからの報告で、隣国が動きそうなんだ。襲撃に備えて、俺達も合流することになってね。明日発つ。エミィちゃんにも伝えておこうと思って。」

エミリアから一瞬で笑みが消えた。
まさかそんなことになっているとは思ってもいなかったのである。

「そんな!大丈夫なんですか?相手の兵力は?」

思わず訊いてしまうが、まだわかっていることは少ないらしい。

ルシアン様まで赴くなんて。
あともう少しで任務期間も終わりだったのに・・・
バーシャルで戦いなんて、ダニー様にとってはトラウマだろうし。

ダニエルは前回の戦いのせいで父をなくしたのだ。
青ざめてしまったエミリアを元気付けるように、ルシアンがわざと明るい声で話しかける。

「そんな心配しないで。情報の真偽を確認するのに、念の為向かうだけだよ。ダニエルももうすぐ戻ってくるんだから、エミィちゃんは結婚式の準備でもして待っててあげて?」

ルシアンの思いやりはありがたいし、式の招待客やドレスに関しても、実際密かに準備を始めていた。

でも、肝心の本人が無事じゃないと、意味がないじゃない。
杞憂で終わればいいけど。

エミリアは、忙しいだろうにわざわざ伝えにきてくれたルシアンに、感謝した。

「ルシアン様、教えて下さってありがとうございます。ルシアン様も十分気を付けて下さいね。彼女さんも心配しますから。」

ルシアンには、一年ほど前から付き合っている彼女がいるのである。
今回は本気らしく、ふらふら遊ぶのはやめたらしい。

「ありがとう。何かあったら連絡するから。」


ルシアンは翌日、王都を出発した。
しかし、その日の午後、バーシャルが攻め込まれたという報告が王都にもたらされたのである。









しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました

花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。 クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。 そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。 いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。 数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。 ✴︎感想誠にありがとうございます❗️ ✴︎(承認不要の方)ご指摘ありがとうございます。第一王子のミスでした💦 ✴︎ヒロインの実家は侯爵家です。誤字失礼しました😵

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...