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19.クリスマスは七面鳥
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虹子が思い出したと手を打った。
「・・・私、一度こっちに戻って来た時、皆でクリスマス会したじゃない?」
柚雁がジュジュのいる香港に行くことになったので、壮行会も兼ねて。
「で、私、その準備でここんちの庭にいたら、お着物の奥様が来たのよ」
「・・・置物?うちもう置物いらないけど・・・」
これだけ大量に無秩序にあるのに。
「違う、着物!・・・クリスマスだけどすてきーなんて思って。そしたら、私の事知ってたからご挨拶したのよ」
「・・・へえ。瑞臨寺の奥さん?」
ほほう、と青磁は興味を引かれた。
虹子に牽制に来ていたか。
しかも着物まで着て。
そいうところが、グッと来る男と引き潮のように引く男がいるのだろうが。
青磁は後者だった。
まあ、若い頃はちょっと興味があって分かっていてあちこち引っ掛かった事もあるが、虹子にかまけているうちにそんな暇は無くなった。
良い悪いではなく、センスまたは文化が違うのだろう。
実は、首藤夫人には何度か迫られたことがある。
でも、どうしようもなく好きな女いるんで。チェンジで、と断った。
プライドを傷付けられた彼女は、虹子がどんな女だろうと見に来たのだろう。
まあわかる。
自分に自信がある。その努力もして来た。
なのに、違う、いらない、お前じゃないと言われる戸惑いと辛さは実体験で覚えがある。
「奥様にね、何されてるんですかって言われたから、クリスマスの準備してるんですって答えたの。ほら、クリスマスだから七面鳥のロースト。羽根が飛ぶから、庭で毟ってたのね」
「えー、あれ、そこからやってたの・・・?」
「そうよ!七面鳥なんて、日本じゃなかなか手に入らないから、育ててる七面鳥屋さんに生のを送って貰ったの。血抜きもやって大変だったんだから。七面鳥は肝にも胃にも脾にも良いの。確かに疲れが出る年末に食べるべき。クリスマス頃ちょうどいいよね。・・・で、羽根むしって血抜きして七面鳥食べるんですって言ったら変な顔されて。やっぱり、お寺の人は、クリスマスやらないのかな?まあ、少なくとも、クリスマスだから七面鳥だー!なんてミーハーな事はしないんでしょうねえ」
そろそろ本格的におかしくなって来たとぞと青磁は笑いを堪えていた。
「良かったら着物用に、羽根、要りませんかって言ったのよ」
「・・・・はあ・・・?」
「ほら、よくあるじゃない、成人式とかで!フワフワした羽のショールみたいの。七面鳥の羽根ってすごい立派なのよ。だからアレで作ったらすごいだろうなって思って。羽箒にもなるし、お寺のお掃除にも使えそうじゃない?・・・でも、要りませんって言われて、帰っちゃって。・・・それから会ったことない・・・同じ町内なのにねえ、それも不思議よ」
大型の鳥を解体して内臓やら肉片やらで血だらけの虹子に「ワタシ、コイツ食ウ。オマエ、羽根持ッテイクカ」と言われて、首藤夫人は山賊にでも遭遇したようで震えたのだろう。
更に言えば、七面鳥の羽根では、フワフワのショールと言うより、バリバリの北九州市あたりの名物成人式だろう。
青磁は吹き出した。
「・・・ああそっか。・・・そりゃ、恐竜がいたら野良猫は来ないわな・・・」
どうりでぱったりやって来ないと・・・・。
十回に一回に行くか行かないかの檀家の集まりで招かれても、一定以上の距離感を保っているように感じていた。
そうか。虹子の存在がいい魔除けになっていたか。
それでは、紗良が金蘭軒に通うようになったのは誤算であったろうなあと愉快に思う。
ウチのムスメは山賊の宴会場で何やってんのよ、くらい思っていたかもしれない。
虹子としては、薬膳って最近ステキなライフスタイルを目指す女性達にも取り入れられて来てね。モデルさんとか、ヨガやってるような女性とか。薬膳はオシャレで文明的なのよ、なんて言っているが、そのオシャレな女性達が求めているものは、きっと首を落として血を抜いた七面鳥とか、殺したてのスッポンとか、ムカデを思わせるボウルいっぱいのシャコではあるまい。
肌とか足腰にいいからと言って、アヒルの水かきだけ袋いっぱい買って来た時もあった。
それを台所の台に一列に並べて「二十七個・・・。十三羽半か。惜しい!」とか言っていたのもおかしかったが、更にスープやタンタンに何個か持って行かれて取り合いをしていた。
思い出して愉快になる。
ああ、毎日これだもの。たまらない。
「・・・でもさ、飼い猫が何も牽制に来る事ないのになあ・・・」
違う、と虹子は首を振った。
「・・・彼女、飼われてるつもりなんかないのよ。きっと孤高のボス猫なのよ」
頼もし気にそう言う。
「なんだそりゃ。・・・番長みたいな?・・・ああ、なんかおかしいな・・・。やっぱり俺、これ食っちゃうな。うまいもんは、生きてるうちに食っとかないとな、母ちゃん」
青磁は、母親の仏前に供えた蟹の皿を再び取り上げた。
「・・・私、一度こっちに戻って来た時、皆でクリスマス会したじゃない?」
柚雁がジュジュのいる香港に行くことになったので、壮行会も兼ねて。
「で、私、その準備でここんちの庭にいたら、お着物の奥様が来たのよ」
「・・・置物?うちもう置物いらないけど・・・」
これだけ大量に無秩序にあるのに。
「違う、着物!・・・クリスマスだけどすてきーなんて思って。そしたら、私の事知ってたからご挨拶したのよ」
「・・・へえ。瑞臨寺の奥さん?」
ほほう、と青磁は興味を引かれた。
虹子に牽制に来ていたか。
しかも着物まで着て。
そいうところが、グッと来る男と引き潮のように引く男がいるのだろうが。
青磁は後者だった。
まあ、若い頃はちょっと興味があって分かっていてあちこち引っ掛かった事もあるが、虹子にかまけているうちにそんな暇は無くなった。
良い悪いではなく、センスまたは文化が違うのだろう。
実は、首藤夫人には何度か迫られたことがある。
でも、どうしようもなく好きな女いるんで。チェンジで、と断った。
プライドを傷付けられた彼女は、虹子がどんな女だろうと見に来たのだろう。
まあわかる。
自分に自信がある。その努力もして来た。
なのに、違う、いらない、お前じゃないと言われる戸惑いと辛さは実体験で覚えがある。
「奥様にね、何されてるんですかって言われたから、クリスマスの準備してるんですって答えたの。ほら、クリスマスだから七面鳥のロースト。羽根が飛ぶから、庭で毟ってたのね」
「えー、あれ、そこからやってたの・・・?」
「そうよ!七面鳥なんて、日本じゃなかなか手に入らないから、育ててる七面鳥屋さんに生のを送って貰ったの。血抜きもやって大変だったんだから。七面鳥は肝にも胃にも脾にも良いの。確かに疲れが出る年末に食べるべき。クリスマス頃ちょうどいいよね。・・・で、羽根むしって血抜きして七面鳥食べるんですって言ったら変な顔されて。やっぱり、お寺の人は、クリスマスやらないのかな?まあ、少なくとも、クリスマスだから七面鳥だー!なんてミーハーな事はしないんでしょうねえ」
そろそろ本格的におかしくなって来たとぞと青磁は笑いを堪えていた。
「良かったら着物用に、羽根、要りませんかって言ったのよ」
「・・・・はあ・・・?」
「ほら、よくあるじゃない、成人式とかで!フワフワした羽のショールみたいの。七面鳥の羽根ってすごい立派なのよ。だからアレで作ったらすごいだろうなって思って。羽箒にもなるし、お寺のお掃除にも使えそうじゃない?・・・でも、要りませんって言われて、帰っちゃって。・・・それから会ったことない・・・同じ町内なのにねえ、それも不思議よ」
大型の鳥を解体して内臓やら肉片やらで血だらけの虹子に「ワタシ、コイツ食ウ。オマエ、羽根持ッテイクカ」と言われて、首藤夫人は山賊にでも遭遇したようで震えたのだろう。
更に言えば、七面鳥の羽根では、フワフワのショールと言うより、バリバリの北九州市あたりの名物成人式だろう。
青磁は吹き出した。
「・・・ああそっか。・・・そりゃ、恐竜がいたら野良猫は来ないわな・・・」
どうりでぱったりやって来ないと・・・・。
十回に一回に行くか行かないかの檀家の集まりで招かれても、一定以上の距離感を保っているように感じていた。
そうか。虹子の存在がいい魔除けになっていたか。
それでは、紗良が金蘭軒に通うようになったのは誤算であったろうなあと愉快に思う。
ウチのムスメは山賊の宴会場で何やってんのよ、くらい思っていたかもしれない。
虹子としては、薬膳って最近ステキなライフスタイルを目指す女性達にも取り入れられて来てね。モデルさんとか、ヨガやってるような女性とか。薬膳はオシャレで文明的なのよ、なんて言っているが、そのオシャレな女性達が求めているものは、きっと首を落として血を抜いた七面鳥とか、殺したてのスッポンとか、ムカデを思わせるボウルいっぱいのシャコではあるまい。
肌とか足腰にいいからと言って、アヒルの水かきだけ袋いっぱい買って来た時もあった。
それを台所の台に一列に並べて「二十七個・・・。十三羽半か。惜しい!」とか言っていたのもおかしかったが、更にスープやタンタンに何個か持って行かれて取り合いをしていた。
思い出して愉快になる。
ああ、毎日これだもの。たまらない。
「・・・でもさ、飼い猫が何も牽制に来る事ないのになあ・・・」
違う、と虹子は首を振った。
「・・・彼女、飼われてるつもりなんかないのよ。きっと孤高のボス猫なのよ」
頼もし気にそう言う。
「なんだそりゃ。・・・番長みたいな?・・・ああ、なんかおかしいな・・・。やっぱり俺、これ食っちゃうな。うまいもんは、生きてるうちに食っとかないとな、母ちゃん」
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