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黒いなにか
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その日は、いつものようにフローレンスと昼食を食べるつもりでいた。フローレンスを迎えに行く為、教室を出ようとした所で、耳障りな猫なで声がジルドナを呼び止めた。
「ジルドナ様、少しだけお時間いただけませんか?先ほどの授業でどうしても教えていただきたいことがあるのです。」
服の裾を引かれたので、渋々振り返ると、目を潤ませたルミリアがいつもの上目遣いで話かけてきた。しかし、それを見て、すっと表情をなくしたジルドナは、冷たく断った。
「すまない。これから婚約者と会う約束をしている。他を当たってくれ。」
「あっ、す、すみません。ですが、少しでいいんです。わたくし・・・ジルドナ様の他に話せる相手がいないのです・・・。ぐすっ・・・。」
(は?もう泣くのか? はぁー・・・。うっとうしい・・・。いつだって、その辺の男子生徒相手に、その上目遣いでたくさん話しかけてるだろう。何が他に話相手がいないだよ。)
「うっ・・・。わたくし、本当に困っているのです。ジルドナ様しか頼れる人がいなくって・・・。」
泣きながら何故かルミリアは、ジルドナの腕にしがみ付いた。
(うっ! なんだこれ!?目が痛い程の・・・。こいつ、香水の匂いが・・・。)
息を止めたジルドナが、その手を振り解こうとしても、彼女は小柄な女性とは思えない程の力でしがみ付いていて、中々解けなかった。
焦ったジルドナが、力づくで引き剥がすと、「キャッ」とよろけた振りをして、今度はジルドナの胸に飛び込んで来た。胸に思いっきり頭突きを受けたジルドナは、一瞬息が止まった。その時、腕の力が抜けると、その隙にルミリアは力いっぱい抱きついて来たのだ。
ドアの開く音が聞こえた。誰かに見られることを恐れたジルドナが咄嗟にドアの方を見た。目が合ったのは、ジルドナが一番誤解を受けたくない相手、フローレンスだった。
「勝手に抱きつかれただけだ。」
本当は、そう言って、これは誤解だと言いたかった。しかし、驚いたフローレンスが小さな声を上げた時、ジルドナの言葉は、何故か口から出てこなかったのだ。
初めてだった。ジルドナの知るフローレンスは、いつも綺麗に微笑んでいた。それは、ジルドナに対する信頼と安心感があってのものだ。しかし、今見たフローレンスは、酷く悲痛に顔を歪ませていたのだ。本当に一瞬の事だった。しかし、自分とルミリアが抱き合っているのを見て、明らかにフローレンスは、嫉妬したのだと分かった。
(あれは、俺のことを好きな証拠だ。フローレンスがあんな顔をするのは、他の奴に俺を取られたくないという独占欲なのか?いつもシオンに勝てなかった俺が、今はちゃんとフローレンスに愛されているんだ。)
ジルドナの中に黒い何かがどんどん沸き上がって来るのを感じた。
(もっと見たい。嫉妬で醜く歪んだ顔をもっと見たい。俺に捨てられる恐怖で泣いているフローレンスが見たい。泣きながら捨てないで、一人にしないでと縋り付いてくる姿が。常に俺の顔色を伺い俺の様子を見に来い。何でも言うことを聞くから傍に居てと悲しそうな顔をしろ!)
未だ、ルミリアと抱き合っている形ではあったが、ジルドナの頭の中は、自分への愛情でどんどん心を病んでいくフローレンスを想像することでいっぱいだった。
結局、逃げるように走って行ってしまったフローレンスを追いかけることはしなかった。無言でルミリアを引き剥がしたジルドナは、その後一人食堂へ向かった。しかし、先ほどからの高揚感に身体か熱くなりすぎて、何も食べる気になれなかった。結局、冷たい紅茶を飲んで、心を静める努力をしたのだが、今頃、フローレンスが一人で泣いてるかと想像すると・・・。あの美しい瞳から、次々溢れる涙が全て自分の為のものだと思うと、何杯紅茶をおかわりしたところで、身体の熱は冷めてはくれなかった。
その日は、授業が終わって寮に戻っても、興奮が治まらなかった。
(今日の様子からいって、フローレンスは間違いなく誤解しただろうな・・・。)
ベッドに転がり、これからどう動くか考えた。何事もなかったかのようにまたフローレンスと行動を共にするのか、それとも、ちゃんと誤解を解いて今までのように愛を囁くのか・・・。しかし、震えるような興奮を知ってしまったジルドナは、この喜びを簡単に手放すことはできなかった。
(どうせなら、あの女を使おう。あいつを利用してフローレンスに自分の気持ちを思い知らせよう。フローレンスが泣いて愛を乞うなら、その時こそ俺の中に閉じ込めていくらでも愛を注いでやればいい。素直に俺のもとに飛び込んで来い。そうすれば、嫌と言う程俺が愛してやる。)
ギラギラした目で天井を見上げたジルドナは、今日のフローレンスの顔を思い出し、心を震わせるのであった。
「ジルドナ様、少しだけお時間いただけませんか?先ほどの授業でどうしても教えていただきたいことがあるのです。」
服の裾を引かれたので、渋々振り返ると、目を潤ませたルミリアがいつもの上目遣いで話かけてきた。しかし、それを見て、すっと表情をなくしたジルドナは、冷たく断った。
「すまない。これから婚約者と会う約束をしている。他を当たってくれ。」
「あっ、す、すみません。ですが、少しでいいんです。わたくし・・・ジルドナ様の他に話せる相手がいないのです・・・。ぐすっ・・・。」
(は?もう泣くのか? はぁー・・・。うっとうしい・・・。いつだって、その辺の男子生徒相手に、その上目遣いでたくさん話しかけてるだろう。何が他に話相手がいないだよ。)
「うっ・・・。わたくし、本当に困っているのです。ジルドナ様しか頼れる人がいなくって・・・。」
泣きながら何故かルミリアは、ジルドナの腕にしがみ付いた。
(うっ! なんだこれ!?目が痛い程の・・・。こいつ、香水の匂いが・・・。)
息を止めたジルドナが、その手を振り解こうとしても、彼女は小柄な女性とは思えない程の力でしがみ付いていて、中々解けなかった。
焦ったジルドナが、力づくで引き剥がすと、「キャッ」とよろけた振りをして、今度はジルドナの胸に飛び込んで来た。胸に思いっきり頭突きを受けたジルドナは、一瞬息が止まった。その時、腕の力が抜けると、その隙にルミリアは力いっぱい抱きついて来たのだ。
ドアの開く音が聞こえた。誰かに見られることを恐れたジルドナが咄嗟にドアの方を見た。目が合ったのは、ジルドナが一番誤解を受けたくない相手、フローレンスだった。
「勝手に抱きつかれただけだ。」
本当は、そう言って、これは誤解だと言いたかった。しかし、驚いたフローレンスが小さな声を上げた時、ジルドナの言葉は、何故か口から出てこなかったのだ。
初めてだった。ジルドナの知るフローレンスは、いつも綺麗に微笑んでいた。それは、ジルドナに対する信頼と安心感があってのものだ。しかし、今見たフローレンスは、酷く悲痛に顔を歪ませていたのだ。本当に一瞬の事だった。しかし、自分とルミリアが抱き合っているのを見て、明らかにフローレンスは、嫉妬したのだと分かった。
(あれは、俺のことを好きな証拠だ。フローレンスがあんな顔をするのは、他の奴に俺を取られたくないという独占欲なのか?いつもシオンに勝てなかった俺が、今はちゃんとフローレンスに愛されているんだ。)
ジルドナの中に黒い何かがどんどん沸き上がって来るのを感じた。
(もっと見たい。嫉妬で醜く歪んだ顔をもっと見たい。俺に捨てられる恐怖で泣いているフローレンスが見たい。泣きながら捨てないで、一人にしないでと縋り付いてくる姿が。常に俺の顔色を伺い俺の様子を見に来い。何でも言うことを聞くから傍に居てと悲しそうな顔をしろ!)
未だ、ルミリアと抱き合っている形ではあったが、ジルドナの頭の中は、自分への愛情でどんどん心を病んでいくフローレンスを想像することでいっぱいだった。
結局、逃げるように走って行ってしまったフローレンスを追いかけることはしなかった。無言でルミリアを引き剥がしたジルドナは、その後一人食堂へ向かった。しかし、先ほどからの高揚感に身体か熱くなりすぎて、何も食べる気になれなかった。結局、冷たい紅茶を飲んで、心を静める努力をしたのだが、今頃、フローレンスが一人で泣いてるかと想像すると・・・。あの美しい瞳から、次々溢れる涙が全て自分の為のものだと思うと、何杯紅茶をおかわりしたところで、身体の熱は冷めてはくれなかった。
その日は、授業が終わって寮に戻っても、興奮が治まらなかった。
(今日の様子からいって、フローレンスは間違いなく誤解しただろうな・・・。)
ベッドに転がり、これからどう動くか考えた。何事もなかったかのようにまたフローレンスと行動を共にするのか、それとも、ちゃんと誤解を解いて今までのように愛を囁くのか・・・。しかし、震えるような興奮を知ってしまったジルドナは、この喜びを簡単に手放すことはできなかった。
(どうせなら、あの女を使おう。あいつを利用してフローレンスに自分の気持ちを思い知らせよう。フローレンスが泣いて愛を乞うなら、その時こそ俺の中に閉じ込めていくらでも愛を注いでやればいい。素直に俺のもとに飛び込んで来い。そうすれば、嫌と言う程俺が愛してやる。)
ギラギラした目で天井を見上げたジルドナは、今日のフローレンスの顔を思い出し、心を震わせるのであった。
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