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第六話 ガイから見た二人
しおりを挟むガイの今日の予定は、アイクと狩りに行くことになっている。アイクと出会って三年、こうして二人で仕事を任せられることも増えた。まあ、半分くらいは遊び感覚ではあるのだが。準備を整えてガイが待ち合わせ場所に向かって歩いていると前方にファルンの後ろ姿が見えた。
「ファルンー!」
「ああ、ガイか」
ガイはファルンに呼びかけながら小走りに近づくと、ファルンがガイの声に反応して振り返る。一纏めにしている銀髪がサラサラと流れて、日の光を反射する様子が銀細工のように輝いて見える。
「どこに行くんだ?」
「街外れのお婆さんの家に薬を持っていくように頼まれたんだ」
ガイの質問にファルンは穏やかに微笑みながら答える。ファルンはガイの二つ年下の十五歳だが、いつももっと大人かのように落ち着いている。ガイは同じ村で生まれ育ったが、ファルンに対して自分たちよりもっと特別な存在のように感じることがある。特に髪を伸ばしだしてからのファルンは、一層特別な雰囲気を纏い出した。
「へー、神官様のお手伝いか」
「そう言うガイは?」
「アイクと一緒に狩りだよ」
(そういえば、ファルンが髪を伸ばし始めたのはアイクが来てからか)
アイクがこの村に来た頃くらいまでは、ファルンは愛らしくしっかりしているのは今と変わらないけれど、もっと少年らしかった気がする。妹は「まるで蛹から蝶が羽化するようだわ」とキラキラした目をしながら言っていた。ガイにはちょっと馴染みのない表現だが言いたいことは分かる。
妹曰く、ファルンが大広間の窓際で本を読んでる時には、窓から吹き込む風が銀髪を靡かせるだけで皆息を呑んで見惚れてしまうんだそうだ。ガイが見たところ、男子たちも鍛錬をファルンが見学をしていると、いつもより気合が入っている気がする。誰だったかが、「ファルンってなんか、未亡人っぽいよなー」と言っていた。
ガイはファルンが女っぽいとは思わないが、性別を超越した何かを感じはする。大切なものを失った人のような、神聖さと退廃的な色気が混じった雰囲気があるのだ。ファルンは神官を目指しているから聖職者とはこういうものかとも思ったガイだったが、ファルンの父親のことを考えれば違うのだろう。ファルンの父は体格が大きいこともあって、太陽のような印象を受ける明るくて朗らかな人だ。たぶんファルンは早くに亡くなったらしい母親似なのだろう。
「ガイは、アイクと仲がいいな」
そう呟いたファルンは少しだけ寂しげな顔をしたあとに、ガイを見て誤魔化すようにニコッと笑った。ファルンはこういう何かを諦めた大人のような、どこか影がある表情を浮かべることがある。それは大抵がアイクに関係している時だとガイはふと気が付いた。
三年前、アイクが村に来たときに嫌がらせをしていたガイたちを諌めたのはファルンだ。年下に叱られるバツの悪さが当時は多少あったが、いまは取り返しのつかないことになる前に止めてくれたとガイは感謝している。
ガイは母親が「全く!あんたもファルンくんみたいに……無理か」とため息をついていたことまで思い出す。思い出さなくていいことまで思い出して、無意味に気持ちが沈んだガイは思考を目の前のファルンに戻す。
「何言ってんだ?ファルンだって仲良いだろ?」
「まあ、同じ村の同世代で関わらないなんて無理だから……」
ファルンは少し後ろめたそうな顔をして視線を下にそらす。まるで仕方なしにアイクと関わっているような言い方だ。言葉だけ聞くとファルンがアイクを嫌っているかのようにも聞こえるが、ガイはそんなはずはないと思う。
(変なこと言うな。ファルンはアイクのこと、めっちゃ見てるじゃん)
疑問に思ったガイだったが、ファルンはこれ以上会話を広げる気がなかったようで話を逸らされた。そのまま天気の話や妹の失敗談などどうでもいいことを話しながら道を進んでいると、待ち合わせ場所に人影が見えた。
「ガイ!遅いぞ、どこで油売ってたんだよー!」
先に着いて待っていたアイクが大きな声でこちらに呼びかけてくる。普段はちょっと遅れたくらいでアイクはこんな声はかけてこない。おそらくだが、アイクはガイの横にいるファルンを認識して、こうやって声をかければファルンがガイのフォローについてくるだろうと予想してやっている。
(アイクの方だって、ファルンにだけ対応違うもんな)
ガイは二人ともがお互いを、他の同世代より特別に見ていると思っていた。アイクに関しては、ファルンがこの村で最初に優しくしてくれた人のはずなので気持ちは分かる。その頃アイクに積極的に嫌がらせをしていたのが自分なのだが。ガイはまた思考が逸れていることに気付き、目の前の二人の会話に意識を戻す。
「ごめんアイク、私のせいでガイが遅れちゃったかな」
「時間は余裕あるから気にしないで。ファルンはどうしたの?俺たちと一緒に狩りに行く?」
「ははは、私が狩りについて行ってもなんにもならないだろ」
「ファルンが応援してくれたら俺はすごく元気でるけどな」
ニコッと笑うアイクは爽やかで、まるで空の青さがアイクのためにあるように見える……らしい。これも妹が言っていた。ファルンは嬉しそうに小さく笑った後に、ほんの少し眉を寄せてから元の表情に戻った。
(そういえば、こういう表情もアイクと喋っている時だけだな)
ファルンはたまに思わずこぼれたように楽しそうな笑顔を見せて、ハッと気付いたようにいつも浮かべている穏やかな微笑みに戻すことがある。思えばそれは、アイクと話すときにだけ見せている表情な気がする。
「軽口叩いてないで頑張ってきて。私はこのまま街外れのお婆さん家に行くから」
そう言って去っていくファルンを、ガイはアイクと一緒に見送った。隣に立つアイクの顔をチラッと見ると、少し寂しそうな雰囲気だ。アイクがこんな顔を見せるのも、ファルンに対してだけな気がする。
(うーん、この二人よくわかんないよなぁ)
アイクはファルンとは別の意味で子供らしくないとガイは思っている。ノリはいい奴だし、一緒に遊ぶには楽しい。だが、どこか達観しているというか何かに夢中になったりしないのだ。同世代が夢中になるお菓子の取り合いなんかに参加しているのを見たことがない。出会った頃のガイのアイクに対する態度はさんざんだったが怒りもしなかった。当時はそういう雰囲気が村の外から来てスカした奴だと思ってガイは気に食わなかった。
だが今は、そのさっぱりした態度はガイたちを馬鹿にしているわけではなくて、アイクは単にこだわりが少ないだけなのだと知っている。
(血だらけでニコニコしてるアイクを見た時は、直前にファルンに怒られてた時の何倍も怖かったな)
アイクに嘘をついて大怪我をさせ、ファルンに怒られた時のことを思い出す。あの時アイクの家に謝罪に行ったら、どう考えても致死量の血が染み込んだ服から血液をポタポタと垂れ流しながらアイクが出てきた。ガイは、アイクは実は死んでいてゾンビが出てきたのかと思ったくらいだった。何人かは悲鳴を上げていた。そんなガイたちを気にした風もなく、「ごめん、まだ着替えてなくて。謝罪?いいよー、おかげでファルンと話せたし」とアイクはあっけらかんと許したのだ。
お菓子にも侮辱にも自分の大怪我にも特にこだわらない。そんなアイクが、唯一特別に見ているのがファルンなのだろう。
(今まで気にしてなかったけど、アイクとファルンって何かあるのか?)
ガイが頭の片隅で色々考えていても危険がないくらい、順調に狩りは終わった。最近はガイも狩りには慣れてきたし、アイクは十五歳にして村で一番強いくらいなのだ。
「取り分は半々でいいか?」
「いいよ別に。あ、これだけ頂戴。ファルンのお土産にするから」
アイクは研ぐと綺麗な獣の爪だけ別に取り分けた。今日ファルンと会話してから気になっていたことを、ガイはアイクに聞いてみることにした。
「なあ、アイクってファルンと仲良いよな」
「そう見えているなら、俺は嬉しいな」
アイクは特に気負った様子もなくそう答える。ガイの考えすぎだったのだろうか。
「ああ、一番の友達なんじゃないか?」
「うーん、俺は友情で満足できないんだよね」
「へー、そうな……え!?」
(友達で満足でないって……え!?そういうかんじ!?)
何の気なしに会話していると、話が急激に重大なことに発展してガイは戸惑う。一般的に同性恋愛は認められているが、登場人物の片方がファルンではそうもいかない。
神官が同性愛禁止だと、アイクが知らないわけではないだろう。神官は子供がいなかったり継がなかったりしたら、代わりの神官が派遣されるまでには年単位で時間がかかるものらしい。冠婚葬祭から怪我の治療までやってくれる神官が常駐してるか、たまに巡教してくる神官に頼むかでは生活が大きく変わる。ガイを含め村人たちは何の疑問もなく、ファルンが継ぐものだと思っている。
「おいおい、お前らが付き合っているって知られたら村中が大騒動だぞ」
「付き合ってないよ」
「え?両想いじゃないのか?」
「両想いじゃないよ。残念なことにね」
二人の間に恋愛という要素を入れた時、この二人は秘密の恋人関係なのだと思った。今日ガイが気付いたファルンとアイクのお互いだけにだけ違う態度は、そうした関係の片鱗がふとした拍子に出ているのかと思ったのだ。
(でも、まだ付き合ってないなら……)
「アイク、悪いこと言わないからお前にキャーキャー言っている女で我慢しとけって。うちの妹とかどうだ?」
「妹をもっと大事にしなよ。好きな男がいる男と付き合わせようとするなんて可哀想だろ」
アイクのこういうサラッと女性を気遣う言動が女性陣には刺さるらしく、アイクはかなりモテる。あと、単純に強いからというのも大きいけれど。女の子たちの中でもファルンは憧れでアイクは実際の恋愛対象という感じだ。
ガイは別に妹でなくていいので、アイクにはできたらその女子たちの中から相手を選んで欲しい。次世代の神官がいなくなるかもなんてこと、ガイが知ってて黙っていたとなると大人たちに怒られそうだ。
「アイク……、このことは他の人は?」
「ガイだから話したんだ。ナイショだよ?」
アイクは妹たちが見たらキャーキャー言いそうな悪戯っぽい微笑みでウインクした。ガイはそれでアイクにトキメキは全くしないが、こんな言い方をされると告げ口もできない。こういうところがアイクのずるいところだとガイは思う。
(……協力しろとも言われてないし、知らなかったことにしよう)
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