ストーキング ティップ

ろくろくろく

文字の大きさ
58 / 68

テロ

しおりを挟む
ペリッとコンビニ唐揚げの袋を剥がして細長いテーブルの真ん中に置いた。
梶のバイトは本当だったがまだ時間があったからコンビニのフードコードで腹ごしらえをしてから解散しようって事になったのだ。

「買い出しでもして…新しい台所で何か作ってみんなで食べようと思ってたんだけどな」
「まあ俺達が悪いだろ」
 
「そうだけどさ、……蓮って…」

ポツっと口を開いた東に「藤川」と注意したのは梶だ。梶は仲間内の中でも冷静で公平な所があり大人しい割に人気があった。

「外ではそこを気を付けようぜ」
「ああ…そうだなごめん」
「そこまで気を張る必要は無いと思うけどな、それで?何だよ東」
「うん…あれが蓮の本性なのかな…ってさ」
「何だよそれ、蓮を悪く言うなら俺は怒るぞ」
「そうじゃなくてさ、お前らだってあのライブ見たんだろ、俺が言いたいのは中身ってのか、考えている事が実は物凄く鋭利でさ、見た目通りなのかなって…今日は特に思った、あいつは俺達とは違うんだなって……」
「感覚的な話?それともアッチの話?」
「………両方?…」

カァっと顔を赤く染めた東は「あ"~」と濁声をあげて頭を抱えた。

「やだあ東くんったら蓮をオカズにした一人?」
「違うわ!真城こそどうなんだよ、最近やけに蓮を構うだろ」
「え?……俺は……」

最初は仕方なくだったのだが蓮を知れば知る程放っておけなくなっていた。
限りなく地味で引っ込み思案な割にヒヤリとさせられる程の迫力を出してくる所はバランスが悪い。まるで自分がわかってない蓮を世に送り出そうと奔走してる黒江達の気持ちがわかるからなのだが……その他にも理由はあった。

「何かさ、蓮って地面に足が付いてる分量が少ないってのかさ…」
「体重は軽そうだよな」

「握れそう」と拳を出した東の手を梶が「やめろ」と叩き落とした。

「痛てえな、何だよ、じゃあ爪先立ちって事?」
「いいから東は黙ってろ、真城が言いたいのは地に足が付いてないって意味だろ?」
「そうじゃなくて……言ってしまえばこの世との繋がりが薄いような気がするって感じ?オーバーなんだけどさ、それぞれが決まった分量しか持ってない生命力みたいなもんを使って歌ってるように見えるんだ」

「あ……わかるかも……それ」
「俺も…」

目を合わせてしまえば結論が出てしまうような気がして自分の手を見つめた。
恐らく3人ともが飲み込んだのは「早死しそう」って言葉だったのだが、例え冗談でも口にすれば不穏な何かに飲み込まれてしまいそうに思えた。

「だからあのギャップなんじゃ無い?」
「え?」

突然明るい声を出した梶に驚いて顔を上げると諭すように「大丈夫だ」と笑った。

「いや、俺も具体的にどうとは思ってないけど、危なっかしいというか…どこか儚いっていうか、カラオケなんか行きたくないって言いつつフラフラと付いてくる感じでさ、悪い方向にも簡単に流れていきそうに思えるんだよな」
「だからそれは大丈夫だって。蓮の持つ鮮烈な爆発力の裏側はあの省エネだろ?ちゃんとバランスは取ってると思うよ」
「……まあ……そう言えば…確かに…」

生涯で使えるエネルギーのうち、生活や付き合いに半分使うくらいが普通の人なら蓮は1割を下回るような気がする。

「そうかもな…」
「そうだよ、蓮はきっとあの道を進むんだろうしそのうちにもっと小慣れて来るだろ」
「そうだな、言っとくが俺も続くぞ」
「並んで紅白とか?」

「無い無い」と笑ったが、紅白はともかくとしても道を逸れたりはしない、環境を含めたスペックが高い蓮のようにはいかないが、タイムリミットまでの後2年、諦めるつもりは無かった。

「ああ~蓮みたいな声が欲しい」

声もそうだが高音でもボリュームの出る音域が欲しい、即席らしい鼻歌さえ妙に完成度のある作曲センスも欲しい。

「もう…蓮の全部が欲しい!」

悔し紛れに残った唐揚げを2つとも食べてやろうと手を伸ばすと、突然後頭部でパンッと何かが弾けた。

「え?何?!熱!!何これ?わっ!熱!熱!」

飛び上がって正体不明の熱を剥がそうと馬鹿みたいにワタワタと踊った。
何だと思ったら肩と背中が濡れている。
匂いとか色味からコーヒーだとわかるが、何がどうなって頭から熱いコーヒーを被る羽目になったのかがわからない。しかし、床にコンビニコーヒーの紙コップが転がっている所を見るとどこからか飛んできたのは間違いないらしい。

「え?誰?お前ら?東か?!」
「違うわ、隣にいたろ」

上手い事避けている東は違うので違うと首を振っている。梶は見ていたから何もしていないとわかっているのだ。
しかし、謝ってくる人は誰もいないし姿も見えない。
「超常現象?」
「どんな種類の?」
「東!ふざけるのは後にして取り敢えずコーヒーを拭いてやれよ、トイレットペーパー借りてきてやる」

「天罰だ」と笑う東に比べてサッと動いてくれる梶はよく出来た友達なのだが過剰に優しい訳では無いのだ。やるべき事をやった後は散々笑われ「何故」とか「誰が」は置き去りになった。
この後、事あるごとにコーヒーが降ってくるぞと揶揄われる元ネタになるのは間違いないと思われた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

処理中です...