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サイテーの歌【作詞作曲 蓮】
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「サイテ~」
電車に揺られている間に「俺って最低」の歌が出来てしまった。自分の中では珍しく初めと終わりがあって歌詞も付いている。
作曲に付いて、その時の衝動でいい、素直な気持ちでいいと黒江は言うが逆に架空の物語を思い浮かべる方が凄いと思える。
ちょっとした興味から来る他愛も無い話を関連付けてしまい、ついつい頭に浮かべてしまった綺麗な顔に苛つきを覚えて八つ当たりをしてしまった。
少し驚いた顔をした真城の友達はきっともう話し掛けては来ないだろう。
それでいいのだが何となく落ち込んでアパートの近くまで帰って来ると、何だか風景が赤く染まっているから驚いた。
「え……パト……カー?」
クルクルと回る赤色灯が物々しい。
パトカーに並んで止まる2台のスクーターにも警察署の名前が書いてある。
取り分け貧乏な学生しか住んでいないアパートだとは知らずにどこかの間抜けな馬鹿が泥棒にでも入ったのかと思ったら、自分の部屋の前にいた警察官がまるで被疑者を発見したように寄ってきた。
「藤川蓮さんですね?」
「は?……はい」
「住所と職業、生年月日をお願いします」
「え?」
3人もの警察官に囲まれ、職務質問をされるような覚えは無い。
あるとしたらカラオケ屋に食べ物と飲み物を持ち込み、500円しか払ってないのに定員を超える人数で遊んでいた事くらいだ。
「あの……俺は何をしたんでしょうか?」
「………」
息を飲んだ様な間が生まれた。
その質問は余程間抜けだったらしい。
無表情だった顔に怪訝な色が現れて目付きが鋭くなった。
「何かしたんですか?」
「だから……それを聞いたんですけど…」
「本人確認をしたいだけです、何か証明できる物をお持ちなら出してください」
「ショウメイ……」
紙を挟んだバインダーをボールペンでトントンと叩く様子に苛つきが見え、思わず一歩後ろに下がると何かにぶつかった。
「すいません……って…あれ?」
そこにはあまり会いたく無い顔があった。
大学で見かけたらなるべく距離を取って避けていた。
「佐竹さん?」
「うん、いいから質問に答えて、免許証か学生証があるなら出して」
何故ここに佐竹がいるのかは置いといて慌てて鞄を探ると底の方に薄汚れた学生証を見つけて差し出した。
そこで受けた説明によると、不審者の通報を受けて駆け付けたら辺りを伺うような素振りでポストを探る女性を見つけたという事だった。
「ポストって…どこの?」
「藤川さんの部屋のドアに付いている郵便受けの事です」
「そんなもの……どうして」
郵便物に金目の物など入っている訳もなく、せいぜい学生ローンやエロいデリバリーのチラシくらいしか配られる事は無い。
いつも中身も見ないで捨てている。
「それなら他の部屋も順番にやってたんじゃ無いのかな」
「違うよ、通報したのは俺なんだけど蓮の……藤川の部屋を狙ってたよ、お前は我が校の学祭が生んだ寵児なんだ、この先売れる可能性もあるし……」
「ただ欲しかっただけかもしれない」と色々含んだウインクをした佐竹に、真面目そうな警官が詳しい事情を聞かせて欲しいとペンを構えた。
どうせなら当人に聞けばいいのに視線が佐竹に向かっていたのは見た目とか話口調を考慮した上でのオーディションに落選したからだ。
それは軽い侮辱と同じなのだが警察官の見立ては間違ってない。
佐竹もまた「NIKEの靴下」でも押し切れるタイプだ。
ポストが荒らされた部屋の住人はCDデビューを間近に控える「音楽バンドの一員」なのだと端的に掻い摘み、有耶無耶にならないよう動機や犯意、あるいは悪意を上手く印象付けた。
自分では大した説明は出来なかった筈なので助かったと言えばそうなのだが、決して会いたく無かった人物の一人でもある。警察官が行ってしまうと気まずくて顔があげられない。
「そんな顔をしないでいいよ、悪いのは俺達なんだからさ」
「その話はしたくない……です、それよりもどうしてこんな所にいるんですか?」
「呼び出されて…いや、それはいいけどいい機会だから謝っておきたいんだ」
「賭けに使ったりしてごめん」と、社会的に有用な青年らしい潔さできっちりと頭を下げた。
しかし、謝って貰う程の事ではない、彼らにすればプロ野球チームの勝敗にジュースを賭けるのと同じくらい些細な遊びなのだ。
「佐竹さんには関係ないから……今日はありがとうございました」
「蓮、誤解しないで欲しいんだ、揶揄ったとかじゃなくてな、まあ……あいつを揶揄った所から始まったのは確かだけど…」
イラっとした。
意味なく大声で叫べたらいいのにと思う。
耳が聞こえなかったらいいのにと思ったのも久しぶりだ。
「あの…俺はちょっと疲れてて…もういいですか?」
「だから違うんだよ、悪いのは俺達であいつじゃない。あの空気を読まない告白だろ?しかも相手は男であの日に初めて名前を呼んだって言うんだぜ?本気だとしても無理だって言っちゃうだろ、そしたらあんまりにもムキになるから売り言葉に買い言葉で……」
「すいません、もう帰ってください」
誰も悪くないのはわかっている。
困り果てた瞳に「利用した」となじったが彼だけじゃない、黒江も日暮も……自分自身も、こぞってそこにある音を利用しただけだ。
背中を向けても立ち去ろうとしない佐竹がまだ何かを言いそうなので、部屋に入るのはやめて黒江の家に行った。
電車に揺られている間に「俺って最低」の歌が出来てしまった。自分の中では珍しく初めと終わりがあって歌詞も付いている。
作曲に付いて、その時の衝動でいい、素直な気持ちでいいと黒江は言うが逆に架空の物語を思い浮かべる方が凄いと思える。
ちょっとした興味から来る他愛も無い話を関連付けてしまい、ついつい頭に浮かべてしまった綺麗な顔に苛つきを覚えて八つ当たりをしてしまった。
少し驚いた顔をした真城の友達はきっともう話し掛けては来ないだろう。
それでいいのだが何となく落ち込んでアパートの近くまで帰って来ると、何だか風景が赤く染まっているから驚いた。
「え……パト……カー?」
クルクルと回る赤色灯が物々しい。
パトカーに並んで止まる2台のスクーターにも警察署の名前が書いてある。
取り分け貧乏な学生しか住んでいないアパートだとは知らずにどこかの間抜けな馬鹿が泥棒にでも入ったのかと思ったら、自分の部屋の前にいた警察官がまるで被疑者を発見したように寄ってきた。
「藤川蓮さんですね?」
「は?……はい」
「住所と職業、生年月日をお願いします」
「え?」
3人もの警察官に囲まれ、職務質問をされるような覚えは無い。
あるとしたらカラオケ屋に食べ物と飲み物を持ち込み、500円しか払ってないのに定員を超える人数で遊んでいた事くらいだ。
「あの……俺は何をしたんでしょうか?」
「………」
息を飲んだ様な間が生まれた。
その質問は余程間抜けだったらしい。
無表情だった顔に怪訝な色が現れて目付きが鋭くなった。
「何かしたんですか?」
「だから……それを聞いたんですけど…」
「本人確認をしたいだけです、何か証明できる物をお持ちなら出してください」
「ショウメイ……」
紙を挟んだバインダーをボールペンでトントンと叩く様子に苛つきが見え、思わず一歩後ろに下がると何かにぶつかった。
「すいません……って…あれ?」
そこにはあまり会いたく無い顔があった。
大学で見かけたらなるべく距離を取って避けていた。
「佐竹さん?」
「うん、いいから質問に答えて、免許証か学生証があるなら出して」
何故ここに佐竹がいるのかは置いといて慌てて鞄を探ると底の方に薄汚れた学生証を見つけて差し出した。
そこで受けた説明によると、不審者の通報を受けて駆け付けたら辺りを伺うような素振りでポストを探る女性を見つけたという事だった。
「ポストって…どこの?」
「藤川さんの部屋のドアに付いている郵便受けの事です」
「そんなもの……どうして」
郵便物に金目の物など入っている訳もなく、せいぜい学生ローンやエロいデリバリーのチラシくらいしか配られる事は無い。
いつも中身も見ないで捨てている。
「それなら他の部屋も順番にやってたんじゃ無いのかな」
「違うよ、通報したのは俺なんだけど蓮の……藤川の部屋を狙ってたよ、お前は我が校の学祭が生んだ寵児なんだ、この先売れる可能性もあるし……」
「ただ欲しかっただけかもしれない」と色々含んだウインクをした佐竹に、真面目そうな警官が詳しい事情を聞かせて欲しいとペンを構えた。
どうせなら当人に聞けばいいのに視線が佐竹に向かっていたのは見た目とか話口調を考慮した上でのオーディションに落選したからだ。
それは軽い侮辱と同じなのだが警察官の見立ては間違ってない。
佐竹もまた「NIKEの靴下」でも押し切れるタイプだ。
ポストが荒らされた部屋の住人はCDデビューを間近に控える「音楽バンドの一員」なのだと端的に掻い摘み、有耶無耶にならないよう動機や犯意、あるいは悪意を上手く印象付けた。
自分では大した説明は出来なかった筈なので助かったと言えばそうなのだが、決して会いたく無かった人物の一人でもある。警察官が行ってしまうと気まずくて顔があげられない。
「そんな顔をしないでいいよ、悪いのは俺達なんだからさ」
「その話はしたくない……です、それよりもどうしてこんな所にいるんですか?」
「呼び出されて…いや、それはいいけどいい機会だから謝っておきたいんだ」
「賭けに使ったりしてごめん」と、社会的に有用な青年らしい潔さできっちりと頭を下げた。
しかし、謝って貰う程の事ではない、彼らにすればプロ野球チームの勝敗にジュースを賭けるのと同じくらい些細な遊びなのだ。
「佐竹さんには関係ないから……今日はありがとうございました」
「蓮、誤解しないで欲しいんだ、揶揄ったとかじゃなくてな、まあ……あいつを揶揄った所から始まったのは確かだけど…」
イラっとした。
意味なく大声で叫べたらいいのにと思う。
耳が聞こえなかったらいいのにと思ったのも久しぶりだ。
「あの…俺はちょっと疲れてて…もういいですか?」
「だから違うんだよ、悪いのは俺達であいつじゃない。あの空気を読まない告白だろ?しかも相手は男であの日に初めて名前を呼んだって言うんだぜ?本気だとしても無理だって言っちゃうだろ、そしたらあんまりにもムキになるから売り言葉に買い言葉で……」
「すいません、もう帰ってください」
誰も悪くないのはわかっている。
困り果てた瞳に「利用した」となじったが彼だけじゃない、黒江も日暮も……自分自身も、こぞってそこにある音を利用しただけだ。
背中を向けても立ち去ろうとしない佐竹がまだ何かを言いそうなので、部屋に入るのはやめて黒江の家に行った。
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