これが一生に一度きりの恋ならば

伊咲 汐恩

文字の大きさ
8 / 33

7.推し活

しおりを挟む


 ――翌朝。
 私は昨日と同じくマンションから出ると、到着に気づいて近づいてきた藍の目が丸くなった。

「お……はよ。ど、どうしたの? その格好……」

 驚くのも無理はない。
 頭には男性アイドルグループ名MILKYの文字が入ったキャップ。首にはMILKYタオル。MILKYリストバンドに靴下。カバンにはMlLKYのユッタくんのステッカーを貼ってキーホルダーをつけるなど、全身MLKYグッズで固めてきたのだから。
 彼は上から下まで推しグッズで固めてきた私に言葉を失わせるばかり。

「じゃじゃーん! 実はいままで内緒にしてたけど推し活してるんだ」

 キーホルダーを印籠のように見せつけて言うが、彼は表情筋を一つたりとも動かさない。

「……おし、活? なにそれ?」
「もしかして、推し活を知らないの?」
「うん。知らない」

 10代では8割ほどの人が推し活をしているこのご時世に推し活自体を知らない人がいるなんて驚くしかない。

 実は昨日みすずにアドバイスをもらった。
 私の興味が他の男性に向いてることがわかれば、藍は私のことを諦めるのではないかと。
 だから、昨日学校帰りにみすずの家に寄ってMILKYグッズを借りてきた。
 
「推し活とは、自分のイチオシを応援する活動全般のこと! 休みの日はライブに行ったり、グッズを探しに行ったり、推しがドラマ撮影していた聖地に行ったりするの!」

 実はこれも全部みすず情報。
 聞いたものをそのまま伝えてるだけ。
 だから、これ以上突っ込まれると正直厳しい。

「……へぇ」
「とっ、とにかく! 私はMILKYのユッタくんが世界で一番好きなの。隠していてもしょうがないかなぁと思って身につけてきたよ」
「ふぅん。それが推し活かぁ。あやかはそのユッタくんって人が好きなんだ」
「そうそう! ユッタくんが世界で一番カッコいいの! 世界中の男全員がユッタくんでいて欲しいほど!」
「……」

 むふふ。
 その調子、その調子。
 全身MILKYグッズで固めて熱弁すれば、どんなに私のことが好きでも引くよね。

「こうやって、好きな人の写真やグッズを身につけることによって全面的に愛をさらすの。推しに人生の時間を注ぎ込んでこそ、幸せが得られるんだよ!」
「へぇ~、推しに人生の時間を注ぎ込むと幸せが得られるんだ。それは凄い」

 本当は全身推しグッズを身にまとったまま学校へ行くのは恥ずかしいけど、藍から離れてもらうにはこの作戦しかない。

 だが、学校に到着すると、少々やりすぎてしまったせいかクラスメイトどころか本校の生徒たちの目線が痛い。
 でも、この試練を乗り超えなければ、彼のラブ攻撃は更にエスカレートするだろう。


 ……と、都合の良い方に解釈していたが。
 翌朝、私の推し活騒動が原因で事態はとんでもない展開に。
 朝、マンションへ迎えに現れた彼を見て言葉を失った。

「そっ……、それは……どうした……のかな……」

 それもそのはず。
 頭にはあやか帽子、体にはあやかTシャツ、首にはあやかタオル、手首にはあやかリストバンド、足元にはあやか靴下を装着しているのだから。
 もちろん、バッグにはどこで撮られたかわからない私の写真が挟み込まれているキーホルダーを光らせながら。

「俺も推し活することにしたよ。イチオシは一生あやかだし!」
「はぁぁぁあああ?!?!」
「推し活ってこれで合ってるよね? 昨晩業者に頼んであかやグッズを急ピッチで作ってもらったんだ。ほら見て。よくできてるだろ」
「ちょちょちょ、ちょっと待って!! 気は確か? イチオシとは、二次元キャラクターや三次元人物や人物以外のことを指し示しているのに、平々凡々の私を推してどうするのよ」
「……あれ? 意味違った?」
「当たり前でしょ!! とにかく、彼女の私を推してもしょうがなぁぁぁああい!!」

 だっ、誰かぁ……。
 彼に本当のことを教えてぇぇええ!!


 ――ところが、本当の悪夢はここから。
 校門付近から彼が着用しているあやかTシャツが目立ってしまったのか、ところどころと視線が突き刺さってくる。
 教室に入ると。

「自分の彼女の写真がプリントされてるTシャツなんてホットだね。あ、帽子まで。ラブラブじゃん」
「だろぉ。いま俺推し活中だから」
「お前やるなぁ~。彼女の推し活って流行るんじゃね?」
「俺もそう思う。全面的に愛をさらさなきゃな、あやか!」
「あっ……。あ、うん……」

 生まれてから15年間の中で、今日ほど辛いと思った日はないだろう。

 くらくらと立ちくらみしながら席につくと、みすずが隣につく。

「石垣くんやるねぇ! あやかを諦めるどころか、まさか全身あやかづくしにしてくるなんて!」
「作戦がこんな簡単に失敗するなんて思わなかったよ」
「仕方ない。じゃあ、次は別の手段をやってみる?」
「別の手段とは?」

 みすずが先日と同じく口元に手を添えたので、私は左耳を近づけた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...