75 / 121
第七章
74.悪夢
しおりを挟むーー深夜3時20分
「やめて下さいっ……」
沙耶香は暗闇の中で悲鳴を上げながら布団からガバっと起き上がった。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
等間隔に漏れる荒い息づかい。
額にビッシリと滲む冷や汗。
しかし、視界に入ってくるのは暗闇に包まれている颯斗の部屋の中。
次第に現実へと引き戻されて直前まで見ていたのが夢だと判明すると、胸に手を当てて呼吸を整え直した。
颯斗は沙耶香の悲鳴で目が覚めて身体を起こして、ゴシゴシと目を擦りながら聞いた。
「どうしたの? 突然悲鳴なんて上げて……」
心配して横目を向けるが、沙耶香の頭の中は悪夢から抜けきれずに返事をする事が出来ない。
一年に二回以上同じ夢を見るくらい辛い過去に縛られている。
衝撃的だったあのシーンが鮮明に思い出される度に傷付くし、後悔の波が押し寄せてくる。
当時の一件がトラウマになってしまっているせいか、何年経っても苦しみ続けていた。
出口の見えない悪夢。
私はこの先何年同じ夢を見続けるのだろう。
「サヤ?」
颯斗が隣からパジャマの半袖をクイッと引っ張ると、沙耶香はそこでハッと現実に引き戻されて颯斗へと目を向けた。
「颯斗さん……」
「なんか怖い夢でも見てたの?」
でも、今はいつも目覚めた時とは違う。
彼が隣にいるから私の心は救われている。
「何でもありません」
心の事情は明かせない。
だから、目線を落としたままそう言った。
しかし、彼は……。
「頼れる肩がすぐ隣にあるのに、どうして使わないの?」
「えっ」
「最近『何でもありません』ばかりだよ。辛い時は寄りかかればいいじゃん。俺はサヤの彼氏じゃないの?」
颯斗はそう言いながら、沙耶香の頭を手で引き寄せて肩にもたれかかせた。
沙耶香は颯斗の香りと優しさに包まれると、鼻がツンと刺激されるくらい喜びが込み上げる。
「そうでしたね。颯斗さんはサヤの一生大切な人です」
沙耶香は颯斗の優しさで穏やかな気持ちになると、そっと瞼を閉じた。
過去のトラウマを乗り越えるには想像以上の時間がかかるかもしれないけど、大好きな人が隣にいるという今に精一杯感謝しなければならない。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
王様スマイル
さぶれ@5作コミカライズ配信・原作家
恋愛
真崎美羽(まさきみう)二十二歳。
マサキ施設経営者。
貧乏施設経営の、貧乏女。
施設で預かるカワイイ子供達の為に、今日も命、懸けます!
スーパー特売、大好き!
商店街のコロッケ三個で百円の激安セール、もっと大好き!!
そんな彼女に迫る、超大金持ちの俺様御曹司、
櫻井王雅(さくらいおうが)との、ハチャメチャ・ラブコメディー!
◆スマイルシリーズ・王雅編はコチラ◆
コロッケスマイル
https://www.alphapolis.co.jp/novel/465565553/343261959
こちらから読んで頂けると、更に王様スマイルが楽しめます!
読まなくても楽しめますので、ご安心を!
◆表紙&作中挿絵イラスト◆
お馴染み・紗蔵蒼様
美しいイラストに惚れ惚れです!
ありがとうございます!!
本当にバカだわ、私。
もう、自分でも笑っちゃう。
こんな貧乏女が、大金持ちの御曹司に恋しちゃうなんて。
でも、気づいてしまったから、もう引き返せない。
貴方の王様スマイルに、心奪われてしまったんだもの。
だから私は、この気持ちに気づかなかったフリをするわ。
そうしたら貴方、まだ私を追いかけてくれるでしょう?
もう少し、貴方と同じ時間を過ごせるでしょう?
私がもういいって諦めがつくまでは
貴方に捨てられてもいいって
それでも抱かれたいって思うまでは
もう少しこのままでいさせて
諦めがついたら貴方に身体を赦して
捨てられる前に
私から捨ててやるんだから――
美羽編、スタートです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる