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第七章

75.わがままな自分

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  時刻は午前11時。

場所は、新宿のとあるビルの八階に入っている、富裕層の紹介のみが利用できる高級エステティックサロン。

  今日はブライダルエステ施術の為に来店した。



  右京が扉を開けた後に入店すると、受付カウンターには大きな百合の花が飾られていて、その横で白いスーツを着た二名の受付従業員が揃って礼をした。



「黒崎沙耶香様。お待ちしておりました」



  受付従業員がファイルを持ってソファーに案内すると、本日のブライダルプランの説明が行われた。
  説明を終えると、約六畳ほどの個室に通される。


  部屋の中央に設置されているベッドに横になってから施術前の準備を終えると、クレンジング作業から開始された。
  従業員は沙耶香の顔の上でコットンを滑らせながら言った。



「黒崎様。この度はご結婚おめでとうございます」

「ありがとうございます」



  もう、こんな定型分も言い慣れてるほど祝い言葉を受け取っている。



「挙式までお日にちが近いようでとても楽しみですね。ご新居の準備は順調に進んでいらっしゃいますか?」

「……えぇ」


「相手方のご両親も沙耶香様のような素敵な花嫁を迎えられるのですから、さぞがしく喜んでいらっしゃると思いますよ」

「……」


「新郎新婦のお二人にとって幸せいっぱいの時期でしょうから、本日は沙耶香様がより一層美しさに磨きがかかるように……」
「そんなに沙耶香が幸せそうに見えますか?」



  日に日に迫ってくるプレッシャーとストレスと苛立ちで従業員の営業トークについ虫唾が走ってしまった。



「もっ、もちろんです」



  彼女が悪い訳じゃない。
結婚を控えているから喜ばせようと思って言ってただけ。

  でも、そんな配慮すら煩わしくなるほど心が窮地に陥っている。



「……ごめんなさい。今あまり気分が良くなくて」

「大丈夫ですか?  このままベッドで少し休まれますか?」


「はい、お願いします」



  エステティシャンが一礼してから部屋を引き上げると、沙耶香は個室に一人きりに。
  やりきれない気持ちに打ちひしがれてシーツをぎゅっと握りしめた。



  最低……。
自分の事で頭がいっぱいになっていて、人の配慮まで気が行き届かない。

  式の日取りが近付いているせいか、今まで我慢出来ていた事が出来なくなってるし、颯斗さんとの思い出が日々増えていく度にわがままになっていく。



  このまま籠の外で生き続けられたら。
契約期間なんてなくなればいいなって。
結婚相手が颯斗さんだったらって。

  一度籠の外の世界を見てしまったせいか、本物の幸せが一体なんなのかわからなくなるよ。

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