仮想世界β!!

音音てすぃ

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77.転転

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 お兄さん、そう、私のお兄さんのことは一生かかっても忘れることは出来ないだろう。
 鏡の前の光景を絵画のような景色を、忘れることはできない。
 きっと、お兄さんを殺すまで。
 小さき頃の感情は、今でも。

「……おーい、キリカ、起きてるか?」
「えっ!あぁ……うん勿論。作戦前に寝てるわけないじゃん」
「だよな、返事しないから心配したけど。そっちにはカエデもいるんだよな、きっと安心だ」
「そっちも気を抜かないでね」

 PEとSEの通話越しでキリカの不安を感じた。
 前線に参加できない悔しさもあるのだろう。

「ツルギさん、前まではオトメ君の隣に居ろ!とか言ってたのになぁ」
「そうなの?」

 ノアオルタから東にツルギ隊は移動している。
 距離にして50キロ以上とされる。
 移動手段は、コスト削減も兼ねて、バイクだ。
 しかもスギ博士開発、地面から20センチ程浮いた浮遊バイク。
 使用者のMPを燃料とする。燃費は良い、僕であれば時速60キロで20パーセントを使用する。
 消音性も高くて、ステルスも同時に実行しやすい。
 完璧だ。

『ゴメンねー、7人分しかできなかったから……』
「ったく、スギ博士の開発はすげぇな」

 バイクに乗ったまま表面にバリア系魔術を展開して風を防ぐ。
 乗り心地は良く、デザインも黒基調でスタイリッシュだ。好みです。
 余分スペースに物もしまえるし、刀一本余分に入ってる。
 まぁ本当は飛空艇でサクッっと向かうのがいいと思うのだが。

「……前と一緒だ、ステルスでみんな見えない」

 キョウスケによる補正で味方には光る輪郭が表示される。
 これで判別できる。

「大丈夫?まだ20分しか経ってないけど」
「大丈夫だ、皆いるから」

 荒野は続いている、少し奥に凹凸を見る、きっとあそこには『渓谷群』があるのだろう。
 キリカを助けに行く程の強迫観念は無いが、きっとそれは冷静だからだ。
 この剣にかけて、ギンジさんを救い出す。
 その後は、プリズンはどうなるのだろう?
 総攻撃で叩くのだろうか?
 いいや、僕が考えることではない、きっとECFで委員がスタンバイしているだろう。

「そろそろギンジの隊が拘束された地点だ、警戒しろ。オトメ、通話を切っておけよ?」
「あ、はい!……じゃあ」
「うん、じゃあね」

 キリカとの通話を切った、あと30分程度か……
 重要なのは戦闘ではない、救出だ、間違えるな、斬る相手を間違えるな。


「へへへー、オトメ、緊張してんな?」

 僕の隣にカワセミがバイクを付けた。

「なんだよ、茶化しにきたか?」
「まぁねー」
「……そういうお前だって、手が震えてる」
「ば、ばがやろ!んなわけ」
「スイセンドウの時もそうだったの?気づかなくてゴメン」
「はぁ!?ちげぇ!違うんじゃい!人が少なくて不安感じてなんかいないんじゃい!」
「ふっ……そうだな、僕もちょっと怖いよ」

 透明でもカワセミの表情が分かる気がした。
 きっと笑っていたよ、震えは戦わないと収まらないんだ。

「震えはいつもじゃい。止まれと思うんだがな、これは自分の性じゃい」
「そうか、割と皆持ってるんだな」
「……?よくわからんが、そんな顔すんな、キリカちゃんが心配する、今は無理でも笑え、本気で笑うのは終わってからでいいんじゃい」
「……そうだな!」

 そうしてカワセミは距離を取った。
 少し元気というか、今を楽観的み見ることができるだろうか。
 前より冷静なんだ、上手くやってやる。

「いいメンタルバランスです」
「キョウスケか、なんだか久しぶりだね」
「はい、目を潰された以来ですからね」
「僕は目を潰された時、もう君に会えないと思ってしまったよ、寂しかった正直。再生水があってよかった本当に。しかし、片目が無いとPEのほとんどの機能が失われるんだな知らなかったよ」
「はい、なのでこれからは目だけでも守るようにしましょう。そういえば報告書に書いたのですよね?ECFの皆さんも対PEとして目を狙うということができるようになりました、いい発見だったと思います。」
「褒められてるんだよね?」

 正面にはツルギさんが見える。
 後ろには僕、そのさらに後ろに5人がいる。
 あと少しだ、緊張してきたな、無理にでも笑ってみようか。

「通達」
「ん?」

 キョウスケの声、それと同時に体に生ぬるい風が当たった気分だった。
 瞬間、後ろから声がした。
 鼓動が一度強烈に波打ち、血管が破れそうだった。
 それは恐怖に似たものだった。

「総員、退避!」
「ウソだろ!」

 体で周囲のエーテル場が変化したのを感じた。
 まるで重力が強くなったようだった。
 そう思った理由は、浮遊バイクが地面に落下したから。
 衝撃で投げ出された、転がって起きて周囲を見た。
 こちらから見て分かる、キョウスケだからわかる、ここに境界線がある。
 そこを通ったのは僕とツルギさんだけだった。

「おい、オトメ」
「カワセミ?どうしたんだこれ?」
「見えないのか!?」

 カワセミが恐怖を見る形相で見て来る、一体なにを見ているんだ?
 ツルギさんはどこだ?
 というか。

「力が入らねぇ」
「……」

 向こうの声が聞こえない、何が起こっている?
 キョウスケ!

 下を見た、そこには僕の両手と、金属のような手錠があった。
 いつの間に?
 いやそうじゃない、僕は誰にこれを着けられた?

「いやぁ……無様だねぇ」

 背後に気配がする、聞こえた声は艶があって、鋭く冷たさがあった。
 こんな声質は初めてだ。
 少しでも動いたら殺されそうだ。

「……」
「喋れないかい?さすがにECFでもここでは生身のそれさ、へようこそ、魔術に苦戦かい?っふふ、無様だね」

 しっかり耳に残した瞬間、僕の体は何かに引っ張られ、その場を駆けた。
 時速200キロを超えているだろう、体が千切れそうで、視界が縮まった。
 その後はよく覚えていない。
 ギンジさんが負けた理由が分かったかもしれない。
 こんなに体力が奪われるトラップがあった、いや、無理無理。


ーーーーーー


「カワセミ!今見たのは何だ!」
「わかるわけないだろ、見たまんまだ……」

 ツルギ隊のカワセミ、ガラス、サイケン、ミセット、アリエが目の前を眺めていた。
 ツルギとオトメがその領域に入った途端に、空間が毒色になり、二人の体力を奪った。
 その後に一瞬だけ現れたシロカミの男、笑っていた、多分。
 それ以外わからない、仕組みすら。
 魔術としか言いようのない罠だと分かるが、予測できなかったのが問題だった。
 いや、それよりもツルギとオトメが連れ去られたことが一番の問題だ。
 すぐに本部に連絡を試みる。

「……いい?隊長代理は私が勤める。サイケンは至急本部に連絡、バレないようにね。それ以外は周囲警戒、くれぐれもこの境界線より先に入らないように(さぁて、早速ピンチだね)」
「了解(畜生、唐突すぎだろ何がどうなっているんだ)!」

 声を入れたのはアリエだった。
 ツルギのいなくなった今、この隊を仕切るのは彼女しかいないだろう。

「あの、アリエさん、ツルギさんに連絡を試みるのはどうでしょうか?」

 ミセットが助言を言うが、アリエは冷静に答えた。

「うん、さっきからやってるの、でも……」
「やっぱりですか」
「遮断されている」

 ミセットが目の前の渓谷群を望む、300メートル程先に人工物が見える。
 普通に考えて、あの二人はあそこへ連れていかれた、そうだろう。
 だがこれより先『境界線』が見える、行けない、行けない。
 なぜツルギさんは気づかなかった?

「それにしても」
「どうしたミセットちゃん」

 カワセミが怖がるガラスの頭をくしゃくしゃしながら、ミセットに話しかける。
 浮遊バイクから降りずに鋭い眼光を向けた。
 無口ではなく、目は語るためにあると言っているようだ。

「わざとらしいな」

 当分作戦は実行できない、彼らが無事だといいのだが。

「アリエさん、一つ頼みがあります」
「何?ぬるいお願いは許さないよ?」

 スナイパーライフルをストレージから取り出して、浮遊バイクを下りた後、作戦崩壊を通達した。

「早急に欲しいです、きっとこの状況を打破できます」






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