仮想世界β!!

音音てすぃ

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55.喉

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 目標を視認、停止、距離二キロ、これなら確実に当てられる。

「……」

 首に青色のネックウォーマーを巻き、オリーブ色の野外戦闘服を纏った女性がザンゲノヤマから西の方にある高所に対物ライフルを構えていた。
 匍匐ほふく状態のままバイポッドを展開しスコープを覗き込んでいる。
 一つに束ねた黒髪は森の中で潜みつつ、人としての存在感がある。
 ただ一点を見つめるその眼光はオトメを見つめる。

「……」

 お墓参り?しかもシロカミもいる……あの小さいのはなんだ?
 彼女のターゲットはPEだ。
 最近この周辺に新たに出没したという噂を手に入れた。

「……」

 動かない、今だ。
 呼吸は一定のリズムで安定、鼓動は遅くなり、次に吐いた息を止める。
 熟練の技とタイミングと感覚でトリガーを引く。
 彼女を中心に爆音と衝撃波、全身でリコイルショックを受け止める。
 弾丸を目視で確認する。
 それはまるで砲台から放たれた榴弾のようだった。

「(す……た)」

 外したと言いたかった。
 それは僅かに風に煽られて予想軌道を大きく外れた。
 これではあのPE持ちに当たらない、それどころか関係ない人に被害を加えてしまうかもしれない。
 しかし、この銃でなければあのPEを狙撃することは叶わない、距離がありすぎる。
 私もPEが欲しいとそう思った、できればNO.S30とかないかな?
 無いだろうな、そんな製造ナンバー聞いた事ない。
 彼はどんなPEだろう、D9はありえないか、ECFと行動していると報告が入っているからな。
 さて弾を外したことだ、ここから離れよう、幸い死人が出る軌道ではなかったから安心だ。
 引き続き狙撃を行う。

ーーーーーー

 翌日、少し場所を変えてPE君の行方を追っている。
 街ではガードが破壊された墓標の調査を行っている。
 見つかるわけない、私はここにいる。
 しかし──────PE君はどうして姿を見せてくれない?
 明らかに私からの射線を避けているようだ。
 バレた……か?
 しょうがない、接近してあげよう。
 私は近距離戦闘は訓練済みだ、ツルギさんのお墨付きだからな。

「……す」

 スナイパーはしまうと言いたかったのだ。
 そのスナイパーライフルを木に立てかけておく。
 その後両手にハンドガンを装備してみる。

 思考を使う。

 イメージする。

 盾。

 イメージ通りの位置に鋼鉄の盾を出現させた。
 四角い、地味な盾だ。
 ストックは20個。
 彼女の固有スキル、それはタクティカルストレージ。
 PEの所有するストレージより高性能化、イメージで出し入れができる。
 それがほぼノータイム、PEは0.7秒かかるといわれているが、タクティカルストレージは0だ。
 容量は未だに底が見えない。
 触れた物は生き物以外、大体入る。
 対物ライフルをストレージに収納し、ハンドガンの薬室を確認する。

 どうして私は昨日外したのだろうな?

ーーーーーー

 移動している。
 彼女は時速40キロで移動している。
 身体強化魔術を掛けて一気に森をかける。
 麓に着いた頃にはヘトヘトだった。
 元々魔法には才能がある方だったが、体にかけ続けるのは辛い。

「huー」

 息を吐いた。
 速くPE君の首が欲しい。
 この世界でPEがいなくなれば全てが解決する、そう信じてここまでやってきた。

「……」

 簡易ステルス装置を起動して、山を駆け上がった。
 おっさんは無視だ。
 その時に連続爆発音を聞いた。
 自分のライフルでも出せないその爆音は近づいたり遠のいたりした。

「ありゃ?なんの騒ぎ?」

 オッサンは驚いて上を見上げた。
 青色の空はすぐに灰色に変わった。
 飛んでくる灰色が何となく恐ろしく、上で何が起こっているのか気になる。
 急いで足を動かした先には炎の海と人の死体と、その他諸々の残骸があった。

 どうしてこうなった?
 私がPE君を殺し損なったからか?
 やることはPEを見つけ出し殺すことになった。
 近くの建物の展開に跳躍移動し、周りを確認する。
 どうやら街の全てが焼けているわけではないようだ。
 復旧後はすぐに街は機能を取り戻すだろうと感じた。
 人の力はそんなものだ。



 視界に映る。



 男が左手にハンドガンを持ち、もう一人の男の口に押し込んでいる。
 マズイ、 殺される。
 足は動いていた。
 もっと見晴らしのいい所へ移動し、対物ライフルを構えた。

 名前は『AMSR200EC』
 これ以上のライフルを見たことはない。
 銃身の重厚さを持ちながらも細身の構造を取っている大型ライフル。
 装填数は8発、ボルトアクション方式の古き良き銃。
 最高射程距離はβにおいて2500メートル、1.00は……しらない。

 スコープを少し倍率の低いもの物に変更し、しっかり視界におさえる。
 これはストレージを使用すれば簡単だ。
 調整も自動でしてくれる。

「……」

 さて、死ね……え?
 音だ、これは銃声だ。

 どこから?
 私は引き金を引いていないぞ!

 そして二人のうち一人の体が切断された。
 もう一人は見たことがあった、自分が殺し損ねたやつだ。
 彼がやったのか?
 いや、あんなハンドガンでは身体を二つに引き離すのは不可能だ。
 ならば?

「……う」

 彼女は西側に銃を構え、高倍率スコープに変更、索敵のため双眼鏡を取り出す。

 どこだ?いるんだろ?私の他にスナイパーが……

 そして3秒後それを見つけ出した。

「……!」

 見開いた目は閉じなかった。
 その先にいたのは赤い服の白髪の男、彼は快楽の笑顔をしてリボルバーをこちらに向けていた。

 まさかあんな小さな銃でこの距離を撃ち抜いた?
 ありえない!いや、スキルを使った?
 それでもこの距離は不可能に近い。
 でもそれを可能にした彼は危険人物で間違いない。
 もしかしたらPE所有者かもしれない。
 なら、ここで仕留める。

「……」

 バイポッド展開。
 狙う。
 狙う。
 狙い……定まった。

 冷ややかな銃口はトリガーを引いた瞬間に一気に熱され、50口径の弾丸を放った。
 エネルギーの塊は空気を歪ませて山に着弾するとそこで爆風を起こす。

 着弾確認、目視で避けるなんて出来るはず……あれ、いない。

 何度スコープを覗いても赤い服の男を確認することはできなかった。
 当てたのか?バラバラにしたのか?
 それよりも自分以外にスナイパーがいたことに驚きだ。
 もしかしたら昨日までほぼ同地点にいた可能性がある。
 少し恐ろしい。
 しかし、脅威は一旦去った。
 後はこの街のPEを排除……その前に一度撤退の方がいい、街の外から見張っておけば出ていく様子が観察できる、ここは離れよう。

 そして彼女は消えた。
 後日、オトメとの出会いを果たし、お互いの誤解をぶつけ合う。


 弾丸はどちらの方が速いのだろうか?
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