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51.血さびれる兄弟
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「帰ったぞー」
オトメが地上に戻った頃、クニテツはおおよそ家と呼べる建物に戻ってきた。
雨でも降れば一瞬で崩れそうな脆さ、いや、ここは地下だから雨なんて降らないんだけど。
そんな一人でさえ狭い家というか部屋にクニテツのたった一人になった家族がいた。
「おかえり兄ちゃん」
「ただいまフレッタ、元気にしてたか?」
「うん、今日はいいことあったよ」
「それはよかった……っと、いいこと聞く前に、これ食べような」
クニテツはそう言って、大量の人の肉を床に転がした。
「今日は大量だからお腹いっぱい食べよう!」
「う、うん……」
「おいおいどうした?そうか……この量はさすがに食べられないか……そうだ、床下、冷蔵庫に入れようぜ」
肉を持ち、床のハッチを開けて冷えた空気が頬を通り抜ける。
電動ではなく魔導式、三ヶ月に一度交換の冷気石が入っていて、食べ物を長期保存できる。
「よーしじゃあ食事にしよう!」
「えーとね、わたしね、あんまりおなか空いてない」
「あ?フレッタも狩りを覚えたのか?」
「ううん、今日兄ちゃんを探してたら、人違いして、その人が優しくて、パンとお肉をもらったよ、なんかしょっぱかったけどお腹いっぱいになった」
「へー世の中には俺らに優しい人が……ってフレッタ、あんま知らない人に関わるな、殺されたらどうするんだ?」
「ご、ごめんない」
クニテツは一応注意はしないといけないと思った。
そこらへんの一般人なら自分たちカニバ族は負けたりしない。
しかし、カルマ家相当なら話しは別だ。
「分かればいいけど……で、そいつ誰なんだ?後でお礼言っといてやるよ」
「名前は聞かなかった。だってすぐにいなくなったから」
「そうか……また会えるといいな」
「うん!優しい人だった……あそうだ、これもらったよ」
フレッタは二本の小さなナイフを取り出す、それはクニテツの見覚えのあるものだった。
「────は?」
「どうしたの兄ちゃん?」
一本一本違う形をしているナイフ、それすなわち『ルーンナイフ』この所有者は確か……オトメ?
いや、それだけで判断するのは安直すぎる。店にも並ぶことあるし。
「地上で売っているのを見たことがある、これはルーンナイフか」
「私ね、これで狩り頑張ってみる」
「お前はまだだっての!」
そうにこやかにフレッタの頭をくしゃくしゃに撫で、クニテツは肉を一口。
「何でかねぇ普通の食事もできるのに、人の肉が食べたい、美味しいと思ってしまうのかね」
それは呪いか、祝福か、考える暇もなく睡眠へと向かう。
起床の時にはフレッタが起きていた。
「兄ちゃん、朝だよ」
「ああ、やっぱり地上と違って地下は寝た時とあんまり景色変わんねぇな。寝た気がしない」
「地上……行ってみたい!」
「確かお前今年で12か……地上にあんまり行ったことないよな?」
「うん、眩しいとこ、でも偶に行かないと死んじゃうんでしょ?」
「あぁ、また行ってみよう」
クニテツは二年間地上に出ることを恐れた、事件を起こした主犯として地上をノコノコ歩くのは怖い。
自分の体に刻まれた呪いを少し呪った。
左胸に刻まれた『烈火の印』燃えない体と魔力の限り炎魔術と爆発魔術を使える。
「フレッタ、覚えておけ、俺に烈火の印を与えたのは────」
誰かが家のドアを開けた。
「クニテツ、誰かが───お前を探しているぞ!」
「あ?」
来たのは近所の人間、クニテツは狩りで取ってきた肉を周りの子供に届けているおかげで、周りから信頼されている。カニバ族でなくても、人を食べるしかない者もいる。
「片目を隠したやつとシロカミ、小さいやつの三人だ、どうする?」
「オトメ、PEか……よし、お前らは余計なことしなくていい、奇襲する!」
「兄ちゃん?」
クニテツはフレッタの頭を撫でて最後の言葉をかける。
「俺に烈火の印を与えたのは────ライラ。俺の知る限り世界最強の魔術師、まぁ魔女だ。どこにいるか俺は知らんが、会ったら訊きたかったことがある、どうして俺だったかのか、俺らだったのか……まぁそれはいいや、いいか、忘れるな!ライラだ!いいな?」
「うん……わかった」
クニテツは近隣の人間と作戦を立ててから家を出ていった。
赤い髪の兄弟の中に『ライラ』という大魔女の名前だけが刻まれた。
背中の大きな兄ちゃん、クニテツは何かを残そうと必死に命尽きる前に考えたのがこれかと少し絶望した。
そう、お礼を言いに行かなければ。
どうお礼を言おうか、死肉にでも咀嚼という言葉で足りるだろうか?
後悔と嗜好が抑えられなかった。
もう理性は誇りと欲望だけだった。
オトメが地上に戻った頃、クニテツはおおよそ家と呼べる建物に戻ってきた。
雨でも降れば一瞬で崩れそうな脆さ、いや、ここは地下だから雨なんて降らないんだけど。
そんな一人でさえ狭い家というか部屋にクニテツのたった一人になった家族がいた。
「おかえり兄ちゃん」
「ただいまフレッタ、元気にしてたか?」
「うん、今日はいいことあったよ」
「それはよかった……っと、いいこと聞く前に、これ食べような」
クニテツはそう言って、大量の人の肉を床に転がした。
「今日は大量だからお腹いっぱい食べよう!」
「う、うん……」
「おいおいどうした?そうか……この量はさすがに食べられないか……そうだ、床下、冷蔵庫に入れようぜ」
肉を持ち、床のハッチを開けて冷えた空気が頬を通り抜ける。
電動ではなく魔導式、三ヶ月に一度交換の冷気石が入っていて、食べ物を長期保存できる。
「よーしじゃあ食事にしよう!」
「えーとね、わたしね、あんまりおなか空いてない」
「あ?フレッタも狩りを覚えたのか?」
「ううん、今日兄ちゃんを探してたら、人違いして、その人が優しくて、パンとお肉をもらったよ、なんかしょっぱかったけどお腹いっぱいになった」
「へー世の中には俺らに優しい人が……ってフレッタ、あんま知らない人に関わるな、殺されたらどうするんだ?」
「ご、ごめんない」
クニテツは一応注意はしないといけないと思った。
そこらへんの一般人なら自分たちカニバ族は負けたりしない。
しかし、カルマ家相当なら話しは別だ。
「分かればいいけど……で、そいつ誰なんだ?後でお礼言っといてやるよ」
「名前は聞かなかった。だってすぐにいなくなったから」
「そうか……また会えるといいな」
「うん!優しい人だった……あそうだ、これもらったよ」
フレッタは二本の小さなナイフを取り出す、それはクニテツの見覚えのあるものだった。
「────は?」
「どうしたの兄ちゃん?」
一本一本違う形をしているナイフ、それすなわち『ルーンナイフ』この所有者は確か……オトメ?
いや、それだけで判断するのは安直すぎる。店にも並ぶことあるし。
「地上で売っているのを見たことがある、これはルーンナイフか」
「私ね、これで狩り頑張ってみる」
「お前はまだだっての!」
そうにこやかにフレッタの頭をくしゃくしゃに撫で、クニテツは肉を一口。
「何でかねぇ普通の食事もできるのに、人の肉が食べたい、美味しいと思ってしまうのかね」
それは呪いか、祝福か、考える暇もなく睡眠へと向かう。
起床の時にはフレッタが起きていた。
「兄ちゃん、朝だよ」
「ああ、やっぱり地上と違って地下は寝た時とあんまり景色変わんねぇな。寝た気がしない」
「地上……行ってみたい!」
「確かお前今年で12か……地上にあんまり行ったことないよな?」
「うん、眩しいとこ、でも偶に行かないと死んじゃうんでしょ?」
「あぁ、また行ってみよう」
クニテツは二年間地上に出ることを恐れた、事件を起こした主犯として地上をノコノコ歩くのは怖い。
自分の体に刻まれた呪いを少し呪った。
左胸に刻まれた『烈火の印』燃えない体と魔力の限り炎魔術と爆発魔術を使える。
「フレッタ、覚えておけ、俺に烈火の印を与えたのは────」
誰かが家のドアを開けた。
「クニテツ、誰かが───お前を探しているぞ!」
「あ?」
来たのは近所の人間、クニテツは狩りで取ってきた肉を周りの子供に届けているおかげで、周りから信頼されている。カニバ族でなくても、人を食べるしかない者もいる。
「片目を隠したやつとシロカミ、小さいやつの三人だ、どうする?」
「オトメ、PEか……よし、お前らは余計なことしなくていい、奇襲する!」
「兄ちゃん?」
クニテツはフレッタの頭を撫でて最後の言葉をかける。
「俺に烈火の印を与えたのは────ライラ。俺の知る限り世界最強の魔術師、まぁ魔女だ。どこにいるか俺は知らんが、会ったら訊きたかったことがある、どうして俺だったかのか、俺らだったのか……まぁそれはいいや、いいか、忘れるな!ライラだ!いいな?」
「うん……わかった」
クニテツは近隣の人間と作戦を立ててから家を出ていった。
赤い髪の兄弟の中に『ライラ』という大魔女の名前だけが刻まれた。
背中の大きな兄ちゃん、クニテツは何かを残そうと必死に命尽きる前に考えたのがこれかと少し絶望した。
そう、お礼を言いに行かなければ。
どうお礼を言おうか、死肉にでも咀嚼という言葉で足りるだろうか?
後悔と嗜好が抑えられなかった。
もう理性は誇りと欲望だけだった。
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