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8閑話 *微甘です
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隣国への輿入れが決定したリリジュアは嫁ぎ先の作法などを学ぶのに忙しい。……振りをしていた。すべては秘密裡にインパジオへ赴く為である。
「内外からの邪魔が必ずあるでしょうから、貴女はかの国へなるべく早く移動した方が良いわ」
「はい、お母様。抜かりなくやり遂げてみせます」
母の提言を素直に受け入れた彼女は邸内に置いて、異文化を学ぶ慎ましい娘の演技をし続ける。同時に、大国の王太子妃になる彼女の元へ、ご機嫌伺いの手紙が連日山のように届くことには閉口していた。
「貴族という生き物はどうしてこう利害ばかりに走るのでしょう……逆の事をする輩も少なからずいるけど」
他国へ嫁ぐことを良しとしない頑迷な歴史古い貴族などは”裏切り行為”などと難癖をつけてくる。こうした反対派の中の筆頭は自国の王女カレドナの名があった。
リリジュアが渋々と封を切れば丸めた羊皮紙に稚拙な文字がウネウネと綴られていた、文法がメチャクチャで綴りも間違っている、とても読めるものではない。
「あの子は難解な謎解き文書でも書いたのかしら……付き合っている暇はないのだけど」
暗号のような文字列を指でなぞり何が言いたいのか言葉を拾う、要約すると「婚約反対、私の方が彼に相応しいから頂戴」ということらしいのは理解した。
「はあ~泥団子王子といい王女といい……王家は教育失敗しているのね、エルジール殿下が真面な方で良かったわ」
幼少期から虚弱であるエルジールの事を王妃が乳母に丸投げしたお陰なのか、第二王子だけは真っ当な人物に育ったようだ。
下らない難癖をつけてくる手紙を一纏めにするとリリジュアは母親に託し、対策を伺うことにする。ほぼ日課となりつつあるこの仕分け作業は中々に骨なのだ。
先代からの敵対関係にあるらしい貴族らは周到に家名を変えて寄越していた。だが、母の目は誤魔化されない。
癖のある字を見分ける特技があるらしい。
「ふふ、懲りない事ね。でも抗議文を返す面倒な事はしないわ」
「お母様、それはどうして?」
母は意味ありげに微笑むと「すべて任せておきなさい」と言った。
***
婚約してからのフリードベルの動向だが、彼は帰国をせず、夜会後からずっとカルスフット家の好意に甘えて護衛達と共に離れ家にて過ごしていた。本邸の目と鼻の先にあるのだから足繁く愛しい彼女の元へ通うのは当然である。
国に留まることを耳にした王家は「是非に王城でお過ごしください」と申し出てきたが王太子は即答で断わった。
「あの勘違い王女に絡まれるのをわかっていて寝泊まりするわけがないさ」
「ふふ、おモテになるのね。少し妬けますわ」
「少しだけ?少しだけなのかい……寂しいなぁ今夜は枕を濡らすことになりそうだよ」
彼は午後の茶会の席でリリジュアに哀願するかのような視線を送った。彼女は真っすぐに好意をぶつけられる事に不慣れなのか俯いて赤くなる。
「か、揶揄わないでくださいませ」
「そんなつもりはないよ、同じ敷地内にいるというのにこうして会えるのは午後の茶の時間だけなんだ。寂しいよ」
「あら、夕餉も共に摂ってるではないですか。ほぼ毎日会ってますのよ?」
どうも切なさが通じないもどかしさから、フリードベルはテーブル越しに腕を伸ばして指を絡ませる。
「キャッ!な、なにを」
「初だねぇ……なんて可愛いんだ」
かつての婚約者とも過度な接触を避けて来た彼女は男性に慣れていない、巫山戯た醜聞は広まっているがリリジュアはとても臆病で清純な女性なのだ。
「泥団子王子には感謝しかない、手放してくれて本当に良かった」
「べ、ベル!?」
彼女の華奢な手を撫でまわし愛しそうに甲に唇を落とす、友人からいきなり婚約者になったリリジュアはどう反応したら正解なのだろうと悩んでしまう。
「自然体でいいんだよ、いままでみたいに。恋人期間は結婚式までの一年間だけど愛を育むには十分だろう。ね?」
「なにが”ね?”ですか、節度を守ってくださいな」
手を愛でるくらいは許して欲しいとフリードベルは哀願してくる、困り果てた彼女は「口づけは禁止」でならと誓わせた。
「内外からの邪魔が必ずあるでしょうから、貴女はかの国へなるべく早く移動した方が良いわ」
「はい、お母様。抜かりなくやり遂げてみせます」
母の提言を素直に受け入れた彼女は邸内に置いて、異文化を学ぶ慎ましい娘の演技をし続ける。同時に、大国の王太子妃になる彼女の元へ、ご機嫌伺いの手紙が連日山のように届くことには閉口していた。
「貴族という生き物はどうしてこう利害ばかりに走るのでしょう……逆の事をする輩も少なからずいるけど」
他国へ嫁ぐことを良しとしない頑迷な歴史古い貴族などは”裏切り行為”などと難癖をつけてくる。こうした反対派の中の筆頭は自国の王女カレドナの名があった。
リリジュアが渋々と封を切れば丸めた羊皮紙に稚拙な文字がウネウネと綴られていた、文法がメチャクチャで綴りも間違っている、とても読めるものではない。
「あの子は難解な謎解き文書でも書いたのかしら……付き合っている暇はないのだけど」
暗号のような文字列を指でなぞり何が言いたいのか言葉を拾う、要約すると「婚約反対、私の方が彼に相応しいから頂戴」ということらしいのは理解した。
「はあ~泥団子王子といい王女といい……王家は教育失敗しているのね、エルジール殿下が真面な方で良かったわ」
幼少期から虚弱であるエルジールの事を王妃が乳母に丸投げしたお陰なのか、第二王子だけは真っ当な人物に育ったようだ。
下らない難癖をつけてくる手紙を一纏めにするとリリジュアは母親に託し、対策を伺うことにする。ほぼ日課となりつつあるこの仕分け作業は中々に骨なのだ。
先代からの敵対関係にあるらしい貴族らは周到に家名を変えて寄越していた。だが、母の目は誤魔化されない。
癖のある字を見分ける特技があるらしい。
「ふふ、懲りない事ね。でも抗議文を返す面倒な事はしないわ」
「お母様、それはどうして?」
母は意味ありげに微笑むと「すべて任せておきなさい」と言った。
***
婚約してからのフリードベルの動向だが、彼は帰国をせず、夜会後からずっとカルスフット家の好意に甘えて護衛達と共に離れ家にて過ごしていた。本邸の目と鼻の先にあるのだから足繁く愛しい彼女の元へ通うのは当然である。
国に留まることを耳にした王家は「是非に王城でお過ごしください」と申し出てきたが王太子は即答で断わった。
「あの勘違い王女に絡まれるのをわかっていて寝泊まりするわけがないさ」
「ふふ、おモテになるのね。少し妬けますわ」
「少しだけ?少しだけなのかい……寂しいなぁ今夜は枕を濡らすことになりそうだよ」
彼は午後の茶会の席でリリジュアに哀願するかのような視線を送った。彼女は真っすぐに好意をぶつけられる事に不慣れなのか俯いて赤くなる。
「か、揶揄わないでくださいませ」
「そんなつもりはないよ、同じ敷地内にいるというのにこうして会えるのは午後の茶の時間だけなんだ。寂しいよ」
「あら、夕餉も共に摂ってるではないですか。ほぼ毎日会ってますのよ?」
どうも切なさが通じないもどかしさから、フリードベルはテーブル越しに腕を伸ばして指を絡ませる。
「キャッ!な、なにを」
「初だねぇ……なんて可愛いんだ」
かつての婚約者とも過度な接触を避けて来た彼女は男性に慣れていない、巫山戯た醜聞は広まっているがリリジュアはとても臆病で清純な女性なのだ。
「泥団子王子には感謝しかない、手放してくれて本当に良かった」
「べ、ベル!?」
彼女の華奢な手を撫でまわし愛しそうに甲に唇を落とす、友人からいきなり婚約者になったリリジュアはどう反応したら正解なのだろうと悩んでしまう。
「自然体でいいんだよ、いままでみたいに。恋人期間は結婚式までの一年間だけど愛を育むには十分だろう。ね?」
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手を愛でるくらいは許して欲しいとフリードベルは哀願してくる、困り果てた彼女は「口づけは禁止」でならと誓わせた。
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