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乱入
しおりを挟むアネッタが入院して暫くたった頃、夫トンマーゾが乱入するという事件が起きた。入院させる金が勿体ないというのだ、急襲だったために医院に勤めていた警備兵が出遅れた。まさか入院患者の家族が無体を働くなど誰がわかるだろうか。
「早く起きろ!グズグズするな!まったく、どうしようもないな、お前が働かなくてどうする!」
「う……痛い、止めて」
抵抗する力もないアネッタはされるがままにベッドからずり落ちた。頭部を強かに打ったのかぐったりとしている。これは流石に拙いと思ったのか、顔色を悪くしたトンマーゾが「お前が悪いんだ!」と悪態をつく。
「何事だ、私の患者に何をするのかね?」
眼光鋭く怒鳴り付ける医者に怯むトンマーゾは「俺は悪くない」と咆えた。そして、設えていたパイプ椅子を持ち上げて暴れたのだ。
「呆れたものだ、そこのキミ何をしている。捕らえなさい!」
「はい!」
ガーガーと喚き散らすトンマーゾに手こずるも漸く御用となった。
「貴様ァ!医者の分際で子爵家を敵に回すつもりか!」
いつもの癖で身分を笠にして威張り散らす彼だが、医者は落ち着いた様子で口を開く。
「ほお、身分を持ち出すか。では問おうこちらはサロモーネ公爵家だが、勝ち目はあるのかね?」
「え……こ、公爵、そんなバカな」
医療に従事しているものは全員が平民とでも思っていたのか、とんだ勘違いだ。睨みつけられた彼は委縮してガタガタと震え出した。
「暫くは冷たい敷石の檻で頭を冷やすが良い。医者の中には侯爵や伯爵たちもいるのだからな」
「ひぃぃ……そんなぁ……」
すっかり大人しくなったトンマーゾは腕を後ろ手に捕らえれて出ていった。とんだ捕り物劇である。
***
「う、うぅ……」
以前と魘されたままのアネッタを気にして侍女が「お嬢様」と手を取っていた。すると目を薄っすらと開けて「あぁ、私は生きている」と言った。
「良かったですお嬢様!申し訳ございません、あの男を病室に乱入させてしまいました」
目を瞬かせて彼女はやっと焦点を合わせた、そして「ほぉ」とため息を吐く。
「頭を打ったのだ、大事ないがしばらくは動かないほうが良い」
「あ、あの?」
医者はオリンド・サロモーネと名乗った、ここに入院してからの主治医らしい。彼女は改まって礼を述べる、だが彼は患者を慮るのは当たり前の事だと微笑む。
「ありがとうございます」
「いいや、良いんだ。キミは体を養生することだけを考えなさい」
思いやる言葉に感謝して、彼女は熱い涙を流す。
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