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愚か者たち
しおりを挟む檻の中でさめざめと泣く男は自身が責め立てられると弱いらしい。
「う、ううぅ……どうして俺がこんな目に」
考えるまでもなく入院患者に手を出し、あまつさえ高位のものに楯突いた結果なのだが彼は今一つ反省していないようだ。
そこへ珍客が訪ねてきた、面会人だと呼ばれた彼はその人物を見るや大声をあげた。
「ママァ!ここから出してよママァ!」
「おお、可愛いトンマちゃん。でもごめんなさい、保釈金が払えないの……」
「そんなママァ、くそう!あの女が悪いんだ!つまらない事で怪我などするから」
「うんうん、ほんとよね……退院したら目に物を見せてあげるわ!」
「ほんとうだね?約束してよママァ」
「ええ、約束するわ。きちんと保釈金も払わせますからね!」
こうして愚かな母は涙を流して、バカ息子を甘やかせるのだ。何が何でも我を通そうとするところは似ていると思われる。
「面会謝絶ですって!?どういうことよ!」
「ですからそれだけ危険だとご指示いただいたのです、ご了承ください」
「きぃいい!」
ナースセンターに駆け込んで来たボルタニア夫人ことトンマーゾの母は、癇癪を起して悔しがる。一言物申して「トンマちゃんを救え」と言いたかった夫人は顔を真っ赤にして震えた。
実は面会謝絶など大袈裟な処置をしたのはサロモーネ医師の配慮なのだ。恐らくトンマーゾの家族がなにかしらのアクションを起こすだろうと先を読んだ。大当たりである。
「――このような事がございました、英断でございます」
「そうか、良かったよ」
看護師の話を聞いたサロモーネは「くつくつ」と嗤った。バカな親子からアネッタ・ロマーノを救った彼は小気味よいと思うのだ。
「もし、また来るようならば私の名を出すように”公爵”の名は伊達ではない」
「はい、畏まりました」
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