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日常の変化
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その後のノチェは一段と溌剌として活発になっていた。
まるきり過去を忘れたわけではないが、一皮剥けた感じだった。なにより変化があったのはティアとの関係だ。
「なぁ、アイツら変わったと思はないか?」
「あ?何と言われてもな……」モンクのパウドは首を傾げてレタルの疑問について考えた。
「ノチェはティアに敬語を使わなくなってる、そうは思ないか?」
「ん~そう言えばそうだったかな、仲間意識が出て来たのなら歓迎だ」
「……そういうんじゃなくてだなぁ」
レタルはもどかし気に「うぅ~」と唸って違う、違うと言うばかりだ。
狩りの合間に休憩に入ると各々で軽食を広げて寛ぐ、ノチェは相変わらず結界を張ってゆっくり休憩して欲しいと言う。
「有難いよなぁ、すっかり結界つきの休憩が定番になっちゃってるけどさ。モグモグ」
レタルはハムを挟んだだけの簡単なサンドを食む、パウドも似たようなものだ。だが、ティアは少しばかり違う。
「おぉ!御馳走じゃないかティア、でも良いのか?」
「ええ、もちろん。ついでだから気にしないで食べて、はい紅茶もどうぞ」
ポットから温かいお茶が供されていたれり尽くせりだ。今日のランチはチキンサンドと卵サンドだ、ちゃんとレタスもサンドされていてトマトの薄切りも添えられており彩も鮮やかだ。
「うまい!うまいよ、幸せだ~♪」
「いや、大袈裟だよティア……ほら、零しちゃってる」
すっかり二人だけの世界を繰り広げる姿を見せつけられて、レタルは「チェッ!」っと苦笑いする。いつからかこんな風に恋人のようになったのだろうと首を傾げる。
「まぁ、いいけどね。それよりも監視付きがやりにくい」
レタルはいつからかやってきた護衛たちの存在に気が付いていた。もちろん、パウドもティアも気が付いていた。物陰に隠れてこそこそやっている彼らに最初は何者かと緊張したが、さしてないもしてこないので放置していた。
「やっぱマード関係かねぇ、奴は貴族とかそういう雰囲気だしてたし」
「だろうな、どういう了見かは知らないが巻き込まれるのは勘弁だ」
パウドはそういうと最後の一口を頬張り、ゴロンと横になった。タンク役は体力勝負なのですぐに寝息を立てた。それを見たレタルは肩を竦めて己も休息につく。
***
解散の後に場末のバーへ繰り出したティア達は上機嫌で酒杯を上げていた。
「カァ~最高だぜぇ、お疲れさん」
「おつ~」
「おう」
摘まみの串焼きを頬張りご満悦な3人は次々と平らげて、豪快に酒を煽った。程よい酔いがまわり燻ぶっていたことを吐露する。
「なあ、やっぱり監視は俺達から離れたよな。てことはノチェにだけついているという事だ」
少し深刻そうな声でティアはそういうとガブリと串焼きを噛んだ。
「あぁ、当初はこちらにも付いていたが何らかの疑いは晴れたという事か。だが解せない、ノチェが何かしたか?」
パウドは串焼きの串を弄びクルクルと回している、どうやら悩む時の癖らしい。
「まぁそんなに深刻にならなくても良いんじゃない?危害を加えるというか安全保障をしてくれてる感じだし」
ケラケラと軽いレタルは見知った女魔法使いを見つけるとそちらに移動してしまう。
残された二人は気まずそうに酒を空にした。
「マードが何者か、城へ彼女を呼びつけていることから王子じゃないかと邪推している」
「んな!?王子だって?」
素っ頓狂な声をあげたティアにパウドが「声がでけぇ」と足で小突いた。慌てて口を押えるティアは「なんで?」と目線で訴えた。
「そもそもな話よ、城から召喚された辺りから可笑しいと思わないとな。マードがティアの周辺に現れたのは彼女が城へ行かなくなってからだ」
「あ……そうか、迂闊だったせ。てっきり貴族子息の我儘かと思ってた」
「そして、ノチェが城に夜会とやらに行ってからマードは姿を現してない。これはどういう事か、恐らくマードが監視を付けたと考えるのが自然じゃないか」
「う~ん」
概ね当たっていたが、監視と護衛では大分意味合いが違ってくる。その辺りで彼らは誤解を招いていた。
ノチェの往時を知るティアは複雑そうな顔をして、黙り込む。
それを見咎めたパウドが「何か思いあたることがあるのか」と声を潜めた。するとビクリと肩を揺らして「なんでもない」と嘯いた。
「なんでもない……ねぇ。まぁ言いたくないのならば追及はしねぇよ」
「すまん、彼女の過去の話に抵触するんだ。思い出したくもない悪い方向のな」
「なるほど、分かった。彼女が自ら話してくれるまでは詮索はしない約束する」
「うん、……」
パウドは今一度酒のおかわりを頼み、豪快に飲み干した。
「嫌な事は腹に入れて飲み干しちまえってな、ガハハハッ」
「そうか、そうだな。俺もお代わり!」
一方、その頃のマルベルはというと捗らない姉の捜索にイラついていた。どこを探しても岩のように醜いという姿を目撃したものが出ないからだ。
「どうして!あんな不格好な姉を見た事もないなんて!可笑しいわ!」
一応は要人の一人として城に居室を与えらているマルベルだが、いつまでも居座っているわけもいかない。外交使節として与えられた滞在期間は一月だ、申請し直したとしてもそれほど伸ばせない。
およそ半月が過ぎた、焦る気持ちは増えども良い情報はまったくなかった。
「こうなったら、やはり見目の良いものを……夜会に参加するのを大幅に増やしましょう!」
まるきり過去を忘れたわけではないが、一皮剥けた感じだった。なにより変化があったのはティアとの関係だ。
「なぁ、アイツら変わったと思はないか?」
「あ?何と言われてもな……」モンクのパウドは首を傾げてレタルの疑問について考えた。
「ノチェはティアに敬語を使わなくなってる、そうは思ないか?」
「ん~そう言えばそうだったかな、仲間意識が出て来たのなら歓迎だ」
「……そういうんじゃなくてだなぁ」
レタルはもどかし気に「うぅ~」と唸って違う、違うと言うばかりだ。
狩りの合間に休憩に入ると各々で軽食を広げて寛ぐ、ノチェは相変わらず結界を張ってゆっくり休憩して欲しいと言う。
「有難いよなぁ、すっかり結界つきの休憩が定番になっちゃってるけどさ。モグモグ」
レタルはハムを挟んだだけの簡単なサンドを食む、パウドも似たようなものだ。だが、ティアは少しばかり違う。
「おぉ!御馳走じゃないかティア、でも良いのか?」
「ええ、もちろん。ついでだから気にしないで食べて、はい紅茶もどうぞ」
ポットから温かいお茶が供されていたれり尽くせりだ。今日のランチはチキンサンドと卵サンドだ、ちゃんとレタスもサンドされていてトマトの薄切りも添えられており彩も鮮やかだ。
「うまい!うまいよ、幸せだ~♪」
「いや、大袈裟だよティア……ほら、零しちゃってる」
すっかり二人だけの世界を繰り広げる姿を見せつけられて、レタルは「チェッ!」っと苦笑いする。いつからかこんな風に恋人のようになったのだろうと首を傾げる。
「まぁ、いいけどね。それよりも監視付きがやりにくい」
レタルはいつからかやってきた護衛たちの存在に気が付いていた。もちろん、パウドもティアも気が付いていた。物陰に隠れてこそこそやっている彼らに最初は何者かと緊張したが、さしてないもしてこないので放置していた。
「やっぱマード関係かねぇ、奴は貴族とかそういう雰囲気だしてたし」
「だろうな、どういう了見かは知らないが巻き込まれるのは勘弁だ」
パウドはそういうと最後の一口を頬張り、ゴロンと横になった。タンク役は体力勝負なのですぐに寝息を立てた。それを見たレタルは肩を竦めて己も休息につく。
***
解散の後に場末のバーへ繰り出したティア達は上機嫌で酒杯を上げていた。
「カァ~最高だぜぇ、お疲れさん」
「おつ~」
「おう」
摘まみの串焼きを頬張りご満悦な3人は次々と平らげて、豪快に酒を煽った。程よい酔いがまわり燻ぶっていたことを吐露する。
「なあ、やっぱり監視は俺達から離れたよな。てことはノチェにだけついているという事だ」
少し深刻そうな声でティアはそういうとガブリと串焼きを噛んだ。
「あぁ、当初はこちらにも付いていたが何らかの疑いは晴れたという事か。だが解せない、ノチェが何かしたか?」
パウドは串焼きの串を弄びクルクルと回している、どうやら悩む時の癖らしい。
「まぁそんなに深刻にならなくても良いんじゃない?危害を加えるというか安全保障をしてくれてる感じだし」
ケラケラと軽いレタルは見知った女魔法使いを見つけるとそちらに移動してしまう。
残された二人は気まずそうに酒を空にした。
「マードが何者か、城へ彼女を呼びつけていることから王子じゃないかと邪推している」
「んな!?王子だって?」
素っ頓狂な声をあげたティアにパウドが「声がでけぇ」と足で小突いた。慌てて口を押えるティアは「なんで?」と目線で訴えた。
「そもそもな話よ、城から召喚された辺りから可笑しいと思わないとな。マードがティアの周辺に現れたのは彼女が城へ行かなくなってからだ」
「あ……そうか、迂闊だったせ。てっきり貴族子息の我儘かと思ってた」
「そして、ノチェが城に夜会とやらに行ってからマードは姿を現してない。これはどういう事か、恐らくマードが監視を付けたと考えるのが自然じゃないか」
「う~ん」
概ね当たっていたが、監視と護衛では大分意味合いが違ってくる。その辺りで彼らは誤解を招いていた。
ノチェの往時を知るティアは複雑そうな顔をして、黙り込む。
それを見咎めたパウドが「何か思いあたることがあるのか」と声を潜めた。するとビクリと肩を揺らして「なんでもない」と嘯いた。
「なんでもない……ねぇ。まぁ言いたくないのならば追及はしねぇよ」
「すまん、彼女の過去の話に抵触するんだ。思い出したくもない悪い方向のな」
「なるほど、分かった。彼女が自ら話してくれるまでは詮索はしない約束する」
「うん、……」
パウドは今一度酒のおかわりを頼み、豪快に飲み干した。
「嫌な事は腹に入れて飲み干しちまえってな、ガハハハッ」
「そうか、そうだな。俺もお代わり!」
一方、その頃のマルベルはというと捗らない姉の捜索にイラついていた。どこを探しても岩のように醜いという姿を目撃したものが出ないからだ。
「どうして!あんな不格好な姉を見た事もないなんて!可笑しいわ!」
一応は要人の一人として城に居室を与えらているマルベルだが、いつまでも居座っているわけもいかない。外交使節として与えられた滞在期間は一月だ、申請し直したとしてもそれほど伸ばせない。
およそ半月が過ぎた、焦る気持ちは増えども良い情報はまったくなかった。
「こうなったら、やはり見目の良いものを……夜会に参加するのを大幅に増やしましょう!」
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