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嫉妬 *微甘

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その後のノチェはとにかく忙しい、冒険者として働く合間を縫い登城をする姿が目撃された。だが、冒険者として働く時間は決まっていたのでその辺りは融通が利いた。

「ノチェ、この後なんだが面白いカフェを見つけて」
「あ、ごめんなさい。お城にいかないと」
ティアの呼び止める声に振り向く彼女は、申し訳なさそうに会釈してきた。ほんとうに恐縮している様子だ。
「あ、あぁそうか……すまなかった」
「いいえ、では」
「あ……」

彼女を迎えに来ていたらしい城からの迎えの馬車が、 馬場末から出てきて直ぐに乗せて消えて行く。こんなことが当たり前になってきていた。
「振られちまったなリーダー」
「……うるせぇよ」
「俺達にはカフェなんて合わないって、場末のバーが似合ってんの」
「ああ、もうわかっているんだってば!」


「はぁ……今頃は城で何をしているんだ。キラキラのケーキとお茶か、そうだよなぁ……はぁああ」
酔いが回って来たらしいティアはブツブツと愚痴を吐きまくり、似たような文句をつらつらと並べている。いい加減鬱陶しく思ってきたパウドは話半分で聞き流していた。
「なぁ~パウド、どうなのかな……やっぱキラキラが良いのかな~」
「知らねぇよ、つかそんなもの俺がわかるかよ」
「ううぅ~」
「ひゃははは~面白ぇ、ティアってばヘタレちゃん。いつもの調子はどうしたん」
「レタル……てめぇ覚えて置けよぉ、ヒック……」

いつもの彼だったならば余裕癪癪の顔でバーで豪快に飲み干して、酔いつぶれることなどない。これまでも女性関係もそこそこあったが、ここまで入れ込んだことはない。
「情けねぇ」
「確かにな、お前さんらしくない」
「うぅう……ノチェぇ~」

「なによ、そんなになっちゃって、他にもいるでしょ?私なんてどうよ」
「……すっこんでろ。商売女は好みじゃない」
「んま!」
そこそこの妖艶美女がやってきて管を巻くティアへ色目を使うのだがケンモホロロという感じだ。女性はプリプリと怒って違う馴染みへと身を寄せていた。

「あ~あ勿体ない、一晩の温もりを」
「要らねぇよ、んなもん」
「ははははっ、愉快なものを見られたな」
腐っても”青焔の戦斧”のリーダーである彼はそこそこにモテるのだ、長めの黒髪と切れ長の瞳は目立っていた。いまはただ酒に溺れてグダグダの彼はどうしようもない。

「ノチェ~……はぁなんて可愛いんだ……ぐぅぐぅ」
「ありゃりゃ……困ったもんだ」


***

翌日、酔いつぶれたティアは二日酔いという有様だ。
これは良くないと判断したパウドは「今日は休み」と宣言して、Fランクの薬草狩りに出かけることにした。レタルも同様だ。
「急なオヤスミですね。困りました」
「なぁノチェ、悪いんだがアイツの世話を頼めないか?」
「え?あぁ、ティアの世話ですか。かまいませんが」

グッタリした様子の彼を見て、彼女はさっそくと治癒魔法を掛けようとした。だが、パウドは「それはやらんで良い」と笑い飛ばす。
「よろしいんですか?」
「ああ、ただ黙って側にいてやってくれや、そのほうがヤツも嬉しいはずさ」
「はぁ?」

訳が分からないノチェは仕方なくグダグダのティアの側に腰を下ろし、様子を伺うことにした。ちなみにここはギルドの中であり、簡易な酒場の真ん中で彼女は途方に暮れる。
しばらくそうしていたら、泥酔した彼がもぞもぞと動き出す、ホッ息を吐くノチェは大丈夫ですかと声を掛けた。

「頭が痛ぇ……げふぅ吐きそうだ」
「ひゃ!ま、待ってくださいな!桶かなにか」
大慌てするノチェに対して、いまだ夢半分のティアは目の焦点があっていなかった。吐くとは言ったがそこまで気分が悪いようではない。

「んん~ありゃ?どうしてここにノチェの可愛い顔があんだ?」
「え、何を言ってんですか、巫山戯ないでくださいよ」
空の桶を持ってきた彼女は呆れ返る、それをトンとテーブルへ置いて「御気分は?」と聞いた。
「気分は最高だよ~へっへ、だって大好きなノチェが居るんだから」
「へ!?あ、あのう……まだ酔っているのですか」
「うん、酔ってるよ、へへ。あぁ、でも大好きなのは本当だぁ。大好きだ~」
「えええええ……」

彼は微睡んだ顔をしてテーブルに延びていた、その顔は二日酔いで晴々とはいかないが、しっかりとノチェの顔を捕らえている。その瞳は恋慕に満ちていてウットリとしていた。なんとも色っぽい顔で。
更には手を伸ばしてきて、彼女の手を取りキスをする。これには驚きを隠せない彼女は「ひゃ!」と声をあげてしまう。

「うぅ、そんなに嫌がるなよぉ。俺の女神さま、こんなに愛しているのに」
「め、女神って……ひゃ、キスをしないで」
何度もキスを繰り返すだらしないティアは「やめない」と我儘を言う。どうにも対処に困っていると周囲から「好きにさせてやんなよ」という援護射撃がきた。

「はは、嬢ちゃんに惚れてるのは確かだ」
「そうだぞぉ、ヤキモチを妬いてしまいそうだ」
そんな事を言われたノチェは顔を真っ赤に染めてどうしたら良いのか困りはてる。

「ノチェ~愛してるぅ、俺の女神様ァ」
「もう!勘弁してよぉ」






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