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しおりを挟むガチンガチンと剣を交わす音が響き渡る、大雨の中で組んず解れつ激しい剣戟が繰り広げらた。優勢なのは皇子一行で、ジワジワとナイゴーンの刺客たちは追い詰められて行った。
「なるべく殺さず連れ帰るのだ、大事な証人たちなのだからな」
「おいおい、注文が厳しいねぇ。よっと……まぁ良い。死なない程度には加減するよ」
軽口を叩く女装したレイモンは鬘を脱ぎ捨て、ドレスを裂いて身軽になった。さすが皇子の側近だ、バサリバサリと敵を倒していく剣の腕前は確かのようである。
数十分の乱闘のすえ漸く御用となったナイゴーンの不届き者たちはグッタリとしている、しかし、背後の茂みから魔法が放たれた、刺客はまだいたのだ。
「ちっ!電撃か、雨の中では分が悪いな」
「だが、一人だけのようだぞ、詠唱に戸惑っている間になんとかしよう」
レイモンは素早く背後に周り魔法を放つ寸前に魔法使いの腕を切りつけた。杖を持つ手をやられた魔法使いは「やめてくれ、降参だ」と尻もちを付く。
「ふぅ……やっとか、魔法使いは数が少ない。雇う側は惜しげもなく金をばら撒いたらしいな」
ディオンズは剣の血糊を掃いやっと切っ先を納めた。下手人は全部で32名に及ぶ、なかなかの討伐劇であった。
***
彼らが激しい戦いをしていた最中、本物のセレンジェールはアルドワン公爵夫妻と共に転移術で移動していた。最も中距離しか移動出来ず、方々に設置された転移陣を辿るのだから中々骨である。それでも遠路を馬車で渡るより遥かに安全と言える。
「はぁ……便利だけれど、この眩暈は辛いわね」
母メイリンは若干青い顔をして「うぷ」と吐き気と格闘していた。その度に治癒魔法で清涼を維持している、そんな母を苦笑いで介抱するセレンジェールだ。
「もう少しの辛抱ですわ、いまは国境の一歩手前です。あと一回飛べば我が国ゲルネイル共和国です」
「え、えぇわかっていてよ、でも今一度掛けて貰えない?おぅっぷ!」
「はいはい、わかりました」
父クリフト・アルドワンは転移陣が設置された小屋の周囲を見て周り「大丈夫のようだ」と安堵の声を漏らす。
「いやはや、帝国の技術には舌を巻くよ。恐れ入った」
「ふふ、本当にその通りですね。お父様は治癒を掛けなくとも?」
「うん、平気だ。そこまで柔ではないぞ」
「それではもう一度転移を掛けます」と言う帝国魔術師が言うとメイリンの悲鳴が聞こえた。
セレンジェール達が共和国へ戻り、数日遅れてディオンズたちが合流した。事の顛末を聞かされた彼女は「よくぞ御無事で」と言って駆け寄り彼の身体に熱い抱擁をした。
「せ、セレン?」
「良かったわ!どこもお怪我はありません?大丈夫ですのよね?」
ベタベタと身体に触りまくる彼女の白い手が、ディオンズを刺激している。恍惚とした表情を浮かべる彼は”なんというご褒美か”とだらしない顔をする。
それを見ていたオルドワンは「えほん、げほん」とワザとらしい咳払いをする。
「いや、失礼した。あまりに嬉しい歓迎でハハハッ!」
「あははははっ、お戯れを!はははは……」
オルドワンの目は笑っていなかった。
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