完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
上 下
29 / 32

29

しおりを挟む





暗殺が失敗に終わったと聞いたカシュト伯爵は苛立ちを隠せず歯噛みしていた、雇った他国の剣士と魔術師の惨敗ぶりを聞き「いくら掛けたと思っている!」とテーブルを叩く。

「役立たず共が!魔術師だけで大金貨30枚だぞ、とんだ大損だ!」
やはり隣国に頼んだのは良くなかったのだと臍を噛む、だが彼は知らない。雇った連中が捕縛されて自白に追いやられているとは露程も知らずにいた。

皇族に手を出した輩はその場で粛清だ、すべて切り伏せられていると思っている。



やはり彼らの雇い人は直接に伯爵ではなかった、辿りに辿って漸く尻尾を掴んだのだ。
「闇ギルドは絡んでいるとは思っていたが、二重三重で遠回ししているとはね。まさか闇ギルドに2回も経由しているとは……そりゃ人件費が跳ね上がるだろうよ」
レイモンは報告書の半分をやっと読み上げて「ふぅ」と溜息をはいた、まだまだ細かく続く情況や結果にウンザリする。

「ははっ!そりゃ良い、カマキリ伯爵の財を削れたのなら僥倖だぞ。おいそれと悪さを企てられんだろう」
ディオンズは報告書を閉じると「う~ん」と背伸びをした。
「逃走資金くらい残しているだろうさ、まぁそれは裏に手を回して動かせないようにしたよ。預金が下ろせないのならどうにもならんだろう」

レイモンはやり遂げた喜びに「くつくつ」と笑う、皇子一行が襲われるのは皇帝の影たちにの報告により把握していた。大雨に見舞われたは計算外だったが、捕縛劇は暗闇に乗じて行われ目撃者はいなかったのが幸いだ。




***


カマキリ伯爵の捕縛劇はあっさりしたものだった。バレるとは思っていなかった伯爵は昼間から酒を飲んでおり目が坐った酩酊状態だった。彼は「どうとでもするが良いわ」と管を巻いたが、いざ投獄されると酔いが醒めたのか「ブリジットはどこだ!」と騒いだ。
彼の愛妻の名を叫ぶさまは必死で何を置いても妻の無事を危惧した。

「卿よ、いまはそれどころじゃないだろう。自分の立場分かってるのか?」
見廻りに来た看守がそう言って宥めようとするのだが、カマキリ伯爵は半狂乱になって「あれは私のものだ!誰にもやらん!」と慟哭したのだ。

彼は誰より愛する妻がどこかに消え失せるのではとそれだけを恐れていた。深酒を重ねているのもその不安からくるものだったのだ。




「まぁ、あの方はそのような醜態を晒しましたの?なんてことかしら」
カシュト伯爵夫人ブリジッタは逮捕こそされなかったが、参考人として伯爵邸にて軟禁されていた。彼女はいままでと変わらず生活できるのでなんの憂いもないと言った。

「私、外を出るのが嫌いなの。願ったりなことでしてよ、茶会や夜会のお誘いは迷惑でしかないの。でも夫は私を連れ出すのが大好きで”自慢の妻です”なんて言うのよぉ、私が外を歩くのは花の咲き誇る庭園だけのなのにぃ」
代表で伯爵邸にやってきたレイモンは夢見る乙女の夫人を前にしてウンザリした。

どうにも話が進まず夫人の愚痴ばかり聞かされた、いかに夫の閨への誘いを断るか苦慮していると話し出した時にはさすがに「止めてくれ」と声を荒げる。

「あらぁ、何か気に触りまして?」
「……流石に夫妻の夜の事情は聞きたくないんでね」
「ふぅん、そうなのぉ?」

それから夫人は何も関与していないことが分かると調書を纏めて帰路に就くことにした。……のだが、夫人はレイモンの事を気に入ったのか離さない。
「私ぃ、夫ではダメなのぉ。あの人は干乾びたミミズのようなのよ、若く逞しい殿方好きぃ」
「勘弁してくれ……」










しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

【完結】真実の愛を見出した人と幸せになってください

紫崎 藍華
恋愛
婚約者の態度は最初からおかしかった。 それは婚約を疎ましく思う女性の悪意によって捻じ曲げられた好意の形。 何が真実の愛の形なのか、理解したときには全てが手遅れだった。

初恋の君と再婚したい?お好きになさって下さいな

藍田ひびき
恋愛
「マルレーネ。離縁して欲しい」 結婚三年目にして突然、夫であるテオバルト・クランベック伯爵からそう告げられたマルレーネ。 テオバルトにはずっと想い続けている初恋の君がいた。ようやく初恋の女性と再会できた夫は、彼女と再婚したいと述べる。 身勝手な言い分に呆れつつも、マルレーネは離縁を受け入れるが……? ☆コミカライズ版がブシロードワークス様より2025年2月7日発売の「愛さないと言われた令嬢ですが、勝手に幸せになりますのでお構いなく! アンソロジーコミック」に収録されています。 ※ なろうにも投稿しています。

愛せないですか。それなら別れましょう

黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」  婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。  バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。  そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。  王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。 「愛せないですか。それなら別れましょう」  この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。

【完結】初恋の人も婚約者も妹に奪われました

紫崎 藍華
恋愛
ジュリアナは婚約者のマーキースから妹のマリアンことが好きだと打ち明けられた。 幼い頃、初恋の相手を妹に奪われ、そして今、婚約者まで奪われたのだ。 ジュリアナはマーキースからの婚約破棄を受け入れた。 奪うほうも奪われるほうも幸せになれるはずがないと考えれば未練なんてあるはずもなかった。

元平民の義妹は私の婚約者を狙っている

カレイ
恋愛
 伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。  最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。 「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。  そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。  そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。

【完結】旦那様、お飾りですか?

紫崎 藍華
恋愛
結婚し新たな生活に期待を抱いていた妻のコリーナに夫のレックスは告げた。 社交の場では立派な妻であるように、と。 そして家庭では大切にするつもりはないことも。 幸せな家庭を夢見ていたコリーナの希望は打ち砕かれた。 そしてお飾りの妻として立派に振る舞う生活が始まった。

処理中です...