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しおりを挟む「ひゃはははっ!セレェェーン!俺様が来てやったぞ。王太子コランタム様のおなりだぜ!」
急に表が騒がしくなって「何事か」とざわつくディオンズ皇子とアルドワン夫人である。どうやら頭が可笑しい男が屋敷へ乱入したらしいと執事から報せがくる。
「まあ!なんていうこと、主人が留守だというのにどうしましょう?」
「ご夫人、心配召されるな。私が対応しようじゃないか」
「んま!」
客人である王子殿下の手を煩わせるなど出来ないとやんわり断る夫人は私兵たちを動かし、どうにか自分達で対処せねばと緊張する。
「わかりました夫人、ですが、いざと云う時は頼っていただきたい」
「ありがとう存じます、その際は是非に」
夫人はそう言うと壁に掛けてあった槍を一振りして先陣を切った、近衛隊にいた頃の勇ましさは健在のようだ。その様を見たレイモンは「カッコイイ!」と黄色い声を上げた。
「こら、無礼だぞレイモン!」
「いや、ごめんて。いやはや近衛騎士団長の嫁さんは果敢だなぁ」
***
「セレーン!何処だぁ!キミの事だから庭園でお茶でもしているの?それとも屋敷の奥で歌でも嗜んでいるのかい、いいや、この時間ならばやはり部屋にいるんだろう?」
かつて知ったる婚約者の屋敷を熟知しているコランタムは迷うことなく彼女の居室へ向かう。
門兵も庭園で警邏していた護衛兵もコランタムに蹴散らされて伸びていた、頭は緩いが武に関しては異様に強いのだ。人間誰しも一つくらいは取り柄があるようだ。
「セレン」と呼びながら奪った剣でブンブンと私兵たちを往なす彼は手が付けられない。ついにアルドワン夫人と対峙する事となった。
「無礼者が、何用で参った。元王子よ、ここはお前如きが来るところではない!」
「う、煩い!誰が元王子だ、俺はコランタム・アネックス王太子である!余所者の皇帝の言葉など知るものか!セレンは私の妻になるんだ、誰にも邪魔させやしないさ!」
愉悦に入っているらしいコランタムは下品な顔でそのように宣った。話になりはしないと判断した夫人は「やぁ!」と槍を突き出す。だが、なんなく往なし形勢は不利のようだ。
「くっ!ただの馬鹿ではないようね、さすが我が夫に鍛錬された男」
「はっは!アルドワン卿の事か?愚かしいことよ、我が王に楯突いた愚鈍よ。ここにいたなら剣の錆にしてくれるものを」
ガチンと音を立てて夫人の槍を切り伏せる、そして夫人の腹に一撃を食らわすと悠々とセレンジェールの居室へ向かう。
「お、お嬢様……後ろにお隠れくださいませ!」
「え?なーに?何が起きているの?」
幼い顔で状況がわかっていないセレンジェールはポカンとしていた、そこにとうとう悪漢コランタムが到着する。彼は大声でセレンジェールの名を呼んでいた。
「な、何?……あの声は……聞き覚えがあるわ」
「お嬢様!」
ドンドンと戸を叩く大音に怯える彼女はコランタムの声に恐れをなした。
「ひ……嫌、来ないで……怖い、ああ!ディオンズ……」
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