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しおりを挟む元王は天井を仰ぎ見て、それから深い溜息を洩らし手で顔を覆う。そして、こう言った。
「余、いいや私は10年、お前は終身雇用だそうだ、良かったな」
「え?父上……なんの話ですか」
キョトリとするバカ息子コランタムをジロリと睨みつけて「こうなったのも全てお前のせいだ」と怒鳴り散らす。彼は訳が分からず震えていた。いま、解る事は幸せな未来などありはしないと言うことだ。それだけは悟ったのだ。
「ど、いうことですか父上、まさか王ではないというのは……」
「まさかではない、皇帝から王政は廃止だと御達しがきた。そして私は貴族でもなくなったのだ、わかるか?我らはただのアネックスになった、身分も平民以下なのだよ」
「な、なんだって!?」
甘い汁を啜り好き放題してきた王族は身分を剥奪され着の身着のまま放り出されたという。王妃も王女も同然である。
「ただ助かったのはマティアスが治療を受けていることだ、良い処方薬を受けて快方に向かっておる、身分は男爵を賜った」
「それのどこが良かったのですか!寝たきりのボンクラが!」
「よさんか、彼はただ寝腐っていたわけではない。国務のことを学び誰よりも考えてきた、少しづつだが新しい国作りに参加している」
ただの足手纏いだと目下に見てきた使えない弟が政務に関わっていると聞き愕然とする。コランタムはこれまで政治に関わったことなどないのだから。使えると判断したディオンズ・ギガジェント皇子はそのように引き立てたのだ。
「そんな、それじゃ俺はどうなるんです?さっきの終身雇用とは?」
「……無能なお前でも出来ることさ、開拓民として従事するが良い。少しの給金が貰えて自由は……ないが喰うに困ることはなかろう」
「じょ、冗談じゃない!ほぼ奴隷ではないか!」
「……奴隷のようだと?ふ、奴隷だよ、バカ息子が」
***
ガラゴロと安っぽいが、やたら厳つい馬車に乗せれされたコランタム親子が開拓地へと連行されて行く。コランタムは目に絶望を浮かべて「嘘だ、嘘だと言ってくれ」と呟き続ける。父親に「煩い」と怒鳴られ竦み上がり、この状況を避けたいばかりに車窓を眺めた。
小さな窓からかろうじて街の様子は把握できた、そしてやがて見覚えかある屋敷の前を通る。アルドワン公爵邸であった。彼はゆっくり過ぎ去って行くセレンジェールの生家を縋る思いで見つめていた。
「あ、あぁセレン!お前ならば助けてくれるよな?俺の事が好きだろう?知っていたんだぞ熱い恋慕の眼差しを忘れるものか!」
愚かにも未だに愛が残っていると信じて疑わないバカ息子を「ふん」と鼻で笑い、ゴロリと横になり背中を向けて「戯け」という父親だ。
ガラリガラリと重い音を立てて先を行く馬車から、すっくと立ち上がったコランタムは「待っていてくれ!セレン、いま会いに行く」と宣言した。
「はぁ?何を言いだすんだ、阿呆が」
寝ぼけ眼でバカ息子を見上げる元王は、ドカリドカリと馬車の出入り口を体当たりする所を目撃する。
「やめろ!何をするか!」
護衛騎士が立ち上がり止めようと必死だ、だが火事場の馬鹿力よろしく手枷足枷もものともせず騎士を投げ飛ばし、ついには馬車の入口を破壊した。
「ひーひひひっ!待っていろ、愛する俺がいま会いに行ってやるからな!」
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