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「え、セレンに会えないとうはどういうことですか?父上」
「愚か者!陛下と呼べ!ここは公式の場であるぞ!」
宰相や大臣らが居並ぶ中、叱責を食らった王子はビクリとした。何故にそこまで怒っているのか見当がつかないようだ。良く良く見ると彼女の父である近衛騎士団長のアルドワン卿の姿があった。

「アルドワン卿……あのセレンとは」
「……」
彼は宰相の後ろに控えているが身分は相当高い人物だ。形式上は父である国王を護る盾として控えてはいるが貴族派筆頭なのは事実なのだ。

彼はフイッと視線を外し国王を護る顔に戻った。

王からの警告を聞かされたが耳に届かない、ただこのままセレンジェールを蔑ろにするのならば今の立場は危うくなるというのは分かった。
「父……国王陛下、俺は……私は決っして彼女を蔑ろにしては」

「ほう、ならば高熱を出した婚約者を何故に帰らせた?留めて介抱すべきではなかったのか?その場で手当てをしていれば彼女は数日間寝込むまで容態は悪くならなかったはず。お前はビルド伯爵令嬢と遊ぶことばかり優先した結果であろうが!言い訳をする前にそのことをどう説明する!」
激高した王はガシャンと大音を立てて玉座の上に立ち上がった。王杓を床に突き立て大穴を穿った音だった。

「ひぃ!だって帰るというから……それなら安心だと思って従者らも沢山いたし」
「……はぁ、浅慮なことよ。大切な婚約者を捨て置いて己の欲望を満たすことばかり。お前は誰も知らないと思っているのか?ビルド嬢と同衾していることはわかっているのだ」
「え、そんな……俺は」

益々と青褪めて行くコランタムは言い訳を失って震えるばかりだ、まさか自分の従者らが裏切るなど思ってもいなかった様子だ。
「ぐ、クソ……爺やが吐いたのか、内緒だとあれほど言っといたのに!」
「大馬鹿者!人のせいにするな!このままでは王太子交代も視野にいれなけばならないのだぞ!貴族筆頭の令嬢を裏切ったことを猛省いたせ!」
「そ、そんな!一度きりの過ちだというのに」

ちらりとアルドワン卿の顔を見たが彼は微動だにせず、ただ黙って王の護衛をしていた。当事者としてそこにいながら『誰が王太子になろうが知ったことではない』という態度だった。
コランタムはそちらに出向き話をしようとしたが、大臣たちがそれを阻む。

「どちらに行かれるのですか?貴方はやるべきことが山積みでしょう」
「左様、此度のことを深く自省なさいませ。危うくなった御身分のこと含めて」
「そんな!俺は!俺は!どうか聞き届けてくれないか!アルドワン卿よ!」

彼は酷く後悔したが、それは己の地位が揺らいだことで焦っただけだった。そのようなことを看破しているアルドワン卿は相手にしなかった。






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