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しおりを挟む遠出から早めに戻ることにしたセレンジェールは彼に対して不信感ばかりが膨らむ、コランタムに暇する旨を告げると己はもう少し遊んで帰ると言った。
『せっかくだからマーガレットともう少し避暑を楽しむよ、悪いね』
気分が優れないから帰ると言っても彼はセレンジェールに配慮してくれなかった。
「お嬢様、熱がございますから少し眠られては、御帰宅までだいぶかかります」
「……えぇ、そうね。そうさせて貰うわ」
セレンジェールの熱こそが重篤だと言うのにコランタムは軽く考えてしまった。帰宅するのならば安心だとでも思ったのか。
「そうじゃないのよ、コラン……貴方の誠意をみせて欲しかった」
そう小さく呟くと熱に意識が奪われ、深い眠りに落ちて行った。
”――あぁ、コラン。貴方はマーガレットの事が……―――”
数日後、熱が漸く冷めた彼女は湯浴みをしていた。朝早くから申し訳ないと侍女に詫びた。
「なにをおしゃいます、これくらい我儘ではないですよ。ご回復ようございました」
「ありがとう、はぁ気が休まるわ。これはハーブの香りね」
湯水に爽やかな香気を感じとって「ほぅ」と声を漏らす。リラックス効果があるのだと侍女が微笑んだ。
それから身支度を整えて朝の紅茶を嗜んでいると父親が現れた。彼女が疲弊して熱を出したと聞き気が気ではなかったらしい。
「ああ、漸く目覚めたのだね!良かった、滋養のあるもの出させよう」
「あら、お父様。たかが熱で大袈裟ですわ」
彼女はコロコロと笑うがどこか寂しそうだとアルドワン卿は見抜く。
「遠出で何かあったのだろう?包み隠さず教えなさい」
「お父様……隠せないのですね」
なにもかもお見通しらしい事を嘆息してセレンジェールは重い口を開いた。
マーガレットが遠出に無理矢理乱入したこと、約束を反故にされたこと、それから……。
「なんという事だ!ビルド伯爵令嬢のことは許しがたい、早速抗議しよう!」
「待って御父様、そんな事をしては彼女の思う壺だわ。私が意地悪していると王子に訴えるだけ」
「なんと……そこまで彼女の事を優先させているのだね、呆れたことだ」
アルドワン卿は強面を益々と強張らせて何やら思案している。心配なセレンジェールは恐々声をかけた。
「あの、お父様?」
「ん、いやセレンは気に病むことはない、ここは私に任せてくれないか?」
「え?ええ、私は構いませんが拗れるようなことは避けてください」
彼女はまだどこかコランタムを諦めていない様子だ。
どのように話が進むのか、彼女は再び深くため息を吐くのだった。
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