カイリーユと山下美那、Z(究極)の夏〜高2のふたりが駆け抜けたアツイ季節の記録〜

百一 里優

文字の大きさ
上 下
134 / 141
第4章

4-2 あれが、ない……

しおりを挟む
【前回のあらすじ】
 ふたりきりの美那の部屋でリユは遂に告白。涙を流した美那がリユに抱きついてきて、真由と付き合うと言われるのだと覚悟していたと明かす。美那は真由の恋愛相談を受けていて、リユと真由が会うことを知っていたのだ。互いの気持ちを確かめ合うと、リユは美那に唇を重ねる。



 うゎー、なんだ、この感覚!
 美那の舌が俺の口の中で暴れて、舌と舌が絡み合う。
 脳みそがしびれて、何も考えられなくなるっ!!
 美那の舌の力がゆるむと、今度はまるで引き入れられるように俺の舌が美那の口の中に入っていく。勝手に。
「んっ……」
 美那が吐息といきらす。
 ああ、やばい。美那がいとおしすぎる。
 気持ちよすぎて、やめられない。
 でもさすがにお互い息が苦しくなってきて、どちらともなく離れる。惜しみながら……。
 それでもまだ互いの腕の中。
 上気した美那が上目がちに俺を見る。
 うぅぅー、なんて可愛い表情。
「美那、好きだ」
「うん」
 ああ、ダメだ。抱きしめずにはいられない。
 俺はギュッと美那を抱きしめる。美那も俺に抱きついてくれる。
「うれしい……」
 美那が呟くように言う。
「うん。俺も。こうやってずっと抱き合っていたい」
「うん。わたしも」
「俺は、お前の笑顔を見ている時が一番幸せなんだって気がついたんだ」
「うん」
 美那の俺を抱きしめる力が強くなる。
「リユ、好き。愛してる」
「うん」
「ねえ、もっとスル?」
「え、もっと、って?」
「だから、アレ。わたしは、いいよ……」
「あ、うん。あ、でも、俺、あれ持ってない」
 やっぱちゃんと着けないとまずいよな。高2で美那を妊娠させるわけにはいかない。
「さすがにわたしも……買いに行く?」
「ああ、そうだな……」
 離れて、顔を見合わせて、笑う。
 ああ、なんて、幸せな気分。
 視線が合うと、またどちらともなく近づいて、唇を合わせる。
 今度はディープじゃないやつ。でもなんか唇を吸い合う感じ。これはこれで……。
 たぶん10秒ほどで離れると、また見つめ合う。
「じゃあ、行こうか?」と美那が言う。
「だな」
 立ち上がると、また抱き合う。
 座ってる時とはまた感じが違う。
 美那が全部俺の中にすっぽり収まる感じ。
 ああ、やっぱ、俺は美那と付き合わなきゃいけなかったんだ。俺には美那しかいないんだ。今までなにやってたんだろ、俺。

 家を出ると、自然と手をつなぐ。もちろん恋人つなぎ、だ。
 やべ。なんだ、この幸せな感じ。そして、なんというか、自然というか、当たり前というか、いつこうなってもおかしくなかった感じ。もうずぅーーーと前から用意されていたような感じ。
「なんか、あれだな。こうやって歩くの、もちろん新鮮な気分なんだけど、なんかずっと前からこうやっているみたいな気持ちもするんだ」
 左を歩く美那が俺を見る。
「そうだね。なんか、不思議だね」
 そう言って、美那はおだやかに微笑む。そして、ちょっとだけ強く手を握ってくる。
 駅の近くのドラッグストアに入る。
「あれって、どのコーナーにあるんだろ」と、俺。
「さあ? さすがにちょっときにくいよね……」
「まあ、衛生用品とか?」
「うん。その辺、行ってみよ?」
 お目当めあての商品たちはすぐに見つかった。店の奥の、たなのちょっと下の方。
 だけど結構種類がいっぱいあるじゃん。
「あ、この〇〇〇・オリジナルってやつ、ある子が彼氏が気に入って使ってるって言ってた。その子の名前は言えないけど……。なんか、ゴムくさくなくて、しかも薄くてお互いの体温を感じやすいんだって」
「それって、同じクラスのやつ?」
「それも言えない」
「そりゃそうだよな。超デリケートな個人情報だ」
「うん」
「それよりMとLがあるのか……どっちが合うんだろ。服のサイズとは違うよな?」
「そんなこと、わたしに訊かないでよ……わかんないよ」
「そうだよな。ごめん。どうしよ」
「とりあえず、両方買えば? 合わなかったら困るし……」
「あ、そうか、そうすっか」
 というわけで、両方のサイズを購入。さすがに美那はレジには一緒に並ばない。
 店を出て、また手を繋ぐ。美那のすべすべの肌が腕に触れて気持ちいい。
 遠くには積乱雲が立っているらしく、急にかげって、夕暮れが早まった。でもこの辺は雨の降りそうな気配はない。
「やっぱ、女子同士って、そういう情報交換とかするわけ?」
「まあね。でもいつもそんな話ってわけじゃないよ」
「まあ、そうだろうけどな」
「それは男子でも同じじゃないの?」
「そうだろうけど、俺はそういう話するような友だちもいないしな」
「ああ、そうか。でもそうとこも、リユらしいよね」
「俺らしい、っていうのもよくわかんないんだけどな」
「わたしはリユらしいところ、いっぱい知ってるよ」
「あ、うん。俺はどうなんだろ? お前らしいところ、いっぱい知ってるのかな?」
「知ってるに決まってんじゃん。たぶん誰よりもわたしらしいところをいっぱい知ってる」
「そうか。そうだよな」
「うん」
 なんだよ。美那、彼女になったら、めちゃ可愛いじゃん! いや、まあ、最近はちらちらと可愛いところを見せてたけどな。タンデムはリユじゃなきゃイヤ! みたいな。
「お前、ほんとはめちゃ可愛いのな、性格」
「え? そう?」
「うん。あ、別に性格が悪かったとかじゃなくて、なんかちょっと刺々とげとげしいところがあったじゃん」
「あー、それはまあ、素直になれなかったからじゃない? リユに対して」
「そうなのか。まあ、俺もシャキッとしてなかったしな……」
「そうだね。ちょっとリユに対してイラついていたかも。ほんとはもっとスゴいはずなのになんで? とか思って」
「それこそ、買いかぶりすぎなんじゃね?」
「そんなことない。リユはほんとはカッコいいやつだ、って、わたし、知ってるもん」
「なんかお前にそんなこと言われると、めちゃれる」
「今だから正直にいうけど、わたし、リユに負けないように頑張って勉強してたんだから」
「え、そうなの?」
「うん。だって、小学校に入って、リユ、ナチュラルにすごく勉強できたじゃん。もともとわたしも負けず嫌いだし、お母さんにも言われたし。そしたら、リユが停滞して、わたしがずっと良くなっちゃってさ……リユはお父さんのことがあったからだろうけど」
「まあ、それは、な。そういや、お前の負けず嫌いといえば、自分の名前が二文字でくやしいからって、俺のこと、リユって呼び始めたんじゃなかったっけ?」
「あ、それ? 実はね、ほんとは違うの」
「え、じゃ、なんで?」
「こうしてリユが手を繋いでくれるようになったから言うけど、ほんとは、わたしだけの呼び方をしたかったの……」
「え、マジ?」
 美那が恥ずかしげにうなずく。
 やば、まじカワイイ……。
 キスしてぇっ!
「美那」
「なに?」
 美那が顔を上げた瞬間、俺は美那の唇を奪う。
 ま、人通りがあるから、ほんの一瞬だけど。
 その反応がまたスッゲェ~可愛いし!
 恥ずかしげにちょっと甘い笑みを浮かべてやがる。
 しかし、それにしても、美那がどんだけ俺のことを好きだったんだと思うと、なんか今まで悪いことをしてきたな、って反省してしまう。俺には俺の事情があったとはいえ、俺がもっと頑張ってれば、もっと早く美那も素直になれたんだろうな。でも、今俺は美那のおかげで本来の自分を取り戻しつつある。これからは美那も素直な気持ちでいられるはずだし、そうなるようにしなきゃいけない。
「美那、ありがとう」
「え、なに、急にあらたまって」
「いや、美那のおかげで、本来の自分を取り戻しつつあるな、って思って」
「ま、わたしのおかげかどうかはわからないけど、確かにリユは本来の姿になりつつある。そういう気がする」
 なんていちゃついているうちに、美那の家に着いていた。
 だけど、美那の表情がどことなく硬い。
「どうかした?」
「あ、うん。あのさ、リユと初めてする時、この家はイヤかなって思って」
「なんで?」
「だって、このままいくと、誰かの手に渡るか、取り壊されちゃうか、たぶん、どっちかだもん」
「あー、確かにな……」
「まあ、お母さんがいないから、シやすいといえば、シやすいけど……」
「あー、うーん、それはそれで、なんか園子そのこさんのいないスキに、みたいな感じもあるよな」
「とはいえ、リユの家というのも、ね?」
「まあな、かーちゃんがいるしな」
「だよね」
「あ、でも、俺はさ、すぐに美那とそういうことしなくてもイイよ。あ、もちろん、そりゃ、したいことはしたいけど……したことないし。だけど、今日、お前に告白するのだって、ほんとはもっとちゃんとデートしてムードのあるところの方がいいと思ったくらいで。ただ、まあ勢いもあって、お前の家に押しかけちゃったんだけど……」
「うん……ありがとう」
「じゃあ、とりあえずウチ来る? 俺たちが付き合うことになったってかーちゃんに報告したら、すっげー喜ぶと思うし」
「そうだね。だけどリユはほんとにそれでいいの?」
「ああ。まあ、あとは流れで……あれも買ったし」
「……うん」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後はネットで待ち合わせ

星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】 高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。 何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。 翌日、萌はルビーと出会う。 女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。 彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。 初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

深海の星空

柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」  ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。  少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。 やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。 世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

貧乳姉と巨乳な妹

加山大静
青春
気さくな性格で誰からも好かれるが、貧乳の姉 引っ込み思案で内気だが、巨乳な妹 そして一般的(?)な男子高校生な主人公とその周りの人々とおりなすラブ15%コメディー80%その他5%のラブコメもどき・・・ この作品は小説家になろうにも掲載しています。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

勿忘草~尚也side~

古紫汐桜
青春
俺の世界は……ずっとみちるだけだった ある日突然、みちるの前から姿を消した尚也 尚也sideの物語

処理中です...