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第3章
3-34 やっぱり俺は恋愛に発展しない系モテ期?
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【前回のあらすじ】
4チームでの練習試合は成功裡に終了。ルーシーと美那、リユの高校生3人は飲みに行く大人たちとは別行動に。駅へと向かう途中、ルーシーが美那とリユが付き合っているのかを訊く。腹ペコの3人はルーシーのリクエストでトンカツ屋に入り、そこでルーシーがバスケから遠ざかっていた訳と再開した理由を語る。
「あの時、あの海の横の公園で、あなたたち二人の、プレーを見たら、なぜだか、わからないですが、また、バスケットボールを、やる気が、湧いてきたのです」
ルーシーは、そう言うと、俺と美那を交互に見ながら、優しく微笑む。
「なんでだろうね?」と、美那がルーシーに問いかける。
「そうですね……たぶん、とっても楽しそうにバスケットボールをしていたから、でしょうか」
美那と顔を見合わせる。オツと同じようなことをルーシーが俺たちのプレーに感じていたとは!
「へえ、そうなんだ!」と、美那が反応する。「実は、先輩のオツが、ペギーたちとプレーして、バスケットボールを楽しめるようになったんだって」
「どういうことですか? 彼は、楽しくないのに、バスケットボールをしていたのですか? リユの説明では、彼は、バスケットボールが大好き、ということでしたが」
「それはそうなんだけど……なんて説明したらいいのかな。えーと、日本の学校の部活動は、その部活動を担当する先生にもよるんだけど、プレーに自由を許さずに、先生に言われた通りにしないといけないことが多いの」
「ブカツドウは、a high school basketball team の意味ですか?」
「イェス。そう。それで彼は高校時代に、先生から厳しくされて、伸び伸びとプレーできなくなってしまっていたらしいの。ところが、ペギーたちのプレーを見て、ああいう風に自由に楽しくプレーしていいということに気付かされた、って言ってた。あ、それと、この人のプレースタイルも影響を与えたみたいけど」
美那はそう言うと、俺の方を向いて、グーで俺の肩を軽く突く。
「あー、リユのプレースタイルはとても興味深いです。バスケットボールをする前は、どのスポーツをしてましたか?」
「テニス」
「オー、ヤー。なんとなく、わかります。とても、動きが、鋭いです」
ルーシが俺ににこりと笑いかける。
「それを言ったら、ルーシーもすっげー、動きが鋭いよな。チームで作戦を考えるときに、どうやってルーシーの鋭い動きを抑えるか、難しかったもんな」
「そう。どうやったら、あんな風に動けるようになるの? どういうトレーニングをしてきたの?」
「そうですね……特別なトレーニングというよりは、いろいろなスポーツをしてきたからではないでしょうか?」
「たとえば?」
美那は興味津々らしい。
「コミックで読みましたが、日本では、ひとつのスポーツを、続けるのが、普通、みたいですね。アメリカではシーズンごとに、違うスポーツをします。わたしの場合、陸上もしましたし、サッカーもしました。テニスは、家族でしたりしました。冬は湖でスケートとか」
「へー、いろいろするんだ」
「はい。でも、一番好きなのは、やっぱり、バスケットボールです」
そんな話をしていたら、オツからメッセージが。
——>木村の件、よかったら美那に話をしておいてくれ。よろしく。
あー、あの件かぁ。でも、これは避けては通れないよな。
<——了解です。
と、返信。
「オツからなんだけど」
俺は隣の美那を見る。
「先輩、なんて?」
「実は、話の流れで、木村主将からディフェンスと体力増強の方法を伝授してもらうことになったんだ。お前も一緒に」
「え、そうなの?」
美那が驚いた顔を見せる。
「うん……」
「オツから、ですか? 何か問題ですか? ジャックか、ペギーが暴れてるとか」と、ルーシーが訊く。
「そういうんじゃないから大丈夫、ルーシー。俺たちのチームの連絡」
「ああ、そうですか。試合に負けた後に、お酒を飲むと、暴れることがあるので、少し心配でした」
「そうなのか……一応、どんな状況か聞いてみようか?」と、俺。
「いいえ、いいえ、リユ、大丈夫です。今日は、とてもフェアな良い戦いでしたし、負けても、スッキリした顔をしていたので、たぶん、大丈夫だと、思います」
ルーシーが少しだけ首を傾げて、優しい笑みを浮かべて、俺を見つめる。
やべ、ちょっとドキッとした。
美那がテーブルの下で俺の足を軽く蹴る。
「え、なんだよ」
「別に」
「ま、いいけど」
なんだか、美那はまた微妙な表情。ほんのちょっとだけ、寂しげというか。憂い顔?
「あ、そうだ! ケーキ買って帰ろうよ」
いきなり美那が話題を変える。
「ワォ! いい、ですね!」
「でも、もう京急は閉まっちゃうんじゃね?」
「うわー、ほんとだ。もうすぐ8時かぁ。そうだ、お母さんに頼んじゃおうっと。ちょっと、リユどいて。電話してくる」
奥に座っていた美那は、俺を立ち上がらせる。
そのタイミングで、ロースカツ定食! がやってきた。
「美那、来ちゃったぞ」
「うん。すぐに済むから、先に食べてて」
美那はそう言うと、電話を掛けながら、店の外に出て行く。
そんな情景をルーシーが面白そうに見ている。
「こういうのを、気が置けない、ともだち、というのでしょうか?」
気が置けない? 遠慮がいらないとかそんな意味だったよな。外国人に適当なことを教えるわけにはいかないから、スマホで調べよ。
「ま、そうだな。そういう感じかな。遠慮しなくていい、みたいな? そんな言葉まで、よく知ってるよな、ルーシーは」
「そうですね。まあ、日本語を勉強していて、調べた言葉は覚えます」
「ところで、腹減ったし、美那も言ってくれたし、先に食べてようか?」
「そうですね……でも、すぐに戻ってくると言ってましたから」
ルーシーは美那が行った方向を振り返る。
「いや、あいつは待たなくていいよ」
「あっ、そうでした。リユ、お箸の使い方を教えてください。まだ、うまく使えないんです」
「え、まあ、いいけど……じゃあ、ちょっと持ってみて」
うぅむ。確かに見過ごせない箸づかい。これじゃ、食べにくいだろうな。
向かい側の席からだと教えにくいから、ルーシーの隣に移動して、見本を見せる。
ってか、いちいち考えずに使っているから、自分で実演しながらじゃないと、うまく説明できんし!
親指と薬指で片方の箸を固定して、人差し指と中指でもう一本の方を動かす、と見本を見せながら説明する。ルーシーはちゃんと日本語での各指の呼び方を知っているから凄え。俺なんか、英語でどういうか知らんし。親指はサムアップっていうくらいだから、サムは知ってるけど、スペルもわからんし。
「ワォ。わかりました。ありがとう。リユは教え方が、とても上手ですね」
「そんなこともないと思うけど……」
と言っていたら、美那が戻ってきた。
美那が奥に座ったところで、俺も自分の席に戻る。
「ごめん。もしかして、待っててくれた?」
「いや、ちょうどルーシーに箸の使い方を教えてた」
「あ、そうなんだ」
「はい。リユのおかげで、お箸が、上手に、使えるように、なりそうです」
そう言って、ルーシーがトンカツを一切れ、摘む。
「あ、ほんとだ。すごい。普通に使えてる」
「昨日までは、うまく使えずに、日本食を、食べるのに、苦労、してました。ペギーたちに、自慢できます」
ああ、サクサクでジューシーなトンカツが美味い! 俺は、ご飯とキャベツをおかわり。美那とルーシーはキャベツだけ。
そろそろ食べ終わろうというときに、美那が思わぬことを口にする。
「そういえば、加奈江さんも呼んでおいたから」
「え、なんで。かーちゃんはいいだろ」
「だって、せっかくリユのアメリカ人のガールフレンドがウチに来るのに、紹介したいじゃん。加奈江さんは英語ができるし」
「それ、変だから。ルーシーは、ガールフレンドっていうか、普通にトモダチだろ。かーちゃんに変な誤解させんなよ。可哀想じゃん」
「そうだよね。加奈江さん、早くリユが彼女を連れてきてくれないかなぁ、って嘆いてたもんね」
「カナエさん?」
「あ、リユのママ」
「オー、ヤ。わたしもリユのママに、お会いしたいです」
「でしょ? そう思って、呼んだの」
「ありがとう、ございます、ミナ」
そういや、美那のやつ、香田さんのことも、かーちゃんに話しやがったもんな。俺の中じゃ、〝リユに彼女をつくる会〟説はまだ消えてねーし。
「じゃ、俺は遠慮しておくわ。女ばっかだし」
「そうすれば? ケーキだけ食べて帰れば? 一応、ケーキはリユの分も頼んどいたから」
「ちぇ。まあ、俺は甘いもの、嫌いじゃねえし……疲れてるし」
「ってか、リユ、今日は絶対すぐ寝るね。だから、早く帰って、寝た方がいいと思うよ。チョー活躍したし」
「なんだよ。なんか、邪険に扱うかと思えば、微妙に褒めてるし」
「ジャケン?」と、ルーシーが訊く。
「あー、つまり、人のことを、軽く、意地悪く扱う感じ?」
「ナルホド……」
そして、なぜかルーシーは美那のことを見て、くすりと笑う。あー、なんか、ナオさんと同じような笑い方じゃん。なんなんだろうな、これ。どっかで流行ってるのか? ナオさんとルーシーの共通項は英語? いや、それはねえだろ。
「あ、さっき思いついたんだけど、ルーシーはまだしばらく、日本にいるんだよね?」
「はい。あと、10日くらい」
「じゃあさ、3人でどっか行こうよ。ペギーたちを誘ってもいいけど、高校生3人でどっか行きたくない?」
「オー、That's a great idea! それ、いいです!」
「でしょ。ねえ、リユ、どっかいいところないかな?」
「そんなこと、急に言われてもな」
デートもしたことのない奴に、そんな質問、振るなよ!
と、思ったけど、確か、今度の水曜日は旧七夕で、それを調べた時、ちょうど鎌倉辺りで祭りみたいのがあったような……日本っぽいし、いいかも。
「ちょっと、待って」
スマホで検索。お、これだ。
「これなんか、どうだ?」
俺はふたりにスマホの画面を見せる。
「鎌倉のお祭り?」と、美那。
「お前に言わなかったっけ? ちょうど試験期間の中の日曜日にお茶したじゃん? あの日は梅雨の最中の雨だったけど、七夕の日でさ、でも七夕って旧暦だと、今頃なんだよ。ほんとは、晴れてる日が多いはずなんだよ」
「え、聞いてない。でも、確かに、そうか。一ヶ月くらいズレてるもんね」
「タナバタ。聞いたことがあります。お願いする、お祭りですね?」
「そう」と、美那が答える。「今は7月7日が七夕なんだけど、でも、リユが言うには、本当は今頃なんだって。日本は今、アメリカと同じカレンダーになっているけど、少し前までは、少し違う独自のカレンダーだったの」
「オー、そうなんですか」
「それでね、その日に晴れていたら、天の川っていう星の川、リバー・オブ・スターズ? を渡って、織姫と彦星のすごーく仲のいいカップルが、一年に一度だけ会えるんだけど、今のカレンダーだと、ツユっていう雨が多い時期で、あんまり晴れないの。だけど古いカレンダーの七夕はちょうど今の時期で、今日みたいに晴れた日が多いから、ふたりが会える機会が増えるんじゃないか、っていうロマンチックなリユくんの説なの。確か、そんな話だったよね」
「まあたぶんそんな感じだけど、別に俺の説じゃねえし、ロマンチックでもねえし」
「なぜ、一年に一度、しか、会えないのですか?」
「なんか、仲が良すぎて、遊んでばかりいて、引き離されたんだっけ?」と、美那が俺に振る。
「そうだったと思うけど……」
「ルーシー、あとでちゃんと調べて、正しい話を教えるね? で、リユ、そこ、いいじゃない」
「わたしも、日本のお祭り、行きたい、です」
「じゃあ、決まりね。リユ、ちゃんと調べといてね」
「ああ」
土曜日は香田さんのお供で美術館だっていうのに、水曜日はルーシーと美那のお供で鎌倉かよ。
ああ、やっぱり俺は、恋愛に発展しない系モテ期なのかも……。
4チームでの練習試合は成功裡に終了。ルーシーと美那、リユの高校生3人は飲みに行く大人たちとは別行動に。駅へと向かう途中、ルーシーが美那とリユが付き合っているのかを訊く。腹ペコの3人はルーシーのリクエストでトンカツ屋に入り、そこでルーシーがバスケから遠ざかっていた訳と再開した理由を語る。
「あの時、あの海の横の公園で、あなたたち二人の、プレーを見たら、なぜだか、わからないですが、また、バスケットボールを、やる気が、湧いてきたのです」
ルーシーは、そう言うと、俺と美那を交互に見ながら、優しく微笑む。
「なんでだろうね?」と、美那がルーシーに問いかける。
「そうですね……たぶん、とっても楽しそうにバスケットボールをしていたから、でしょうか」
美那と顔を見合わせる。オツと同じようなことをルーシーが俺たちのプレーに感じていたとは!
「へえ、そうなんだ!」と、美那が反応する。「実は、先輩のオツが、ペギーたちとプレーして、バスケットボールを楽しめるようになったんだって」
「どういうことですか? 彼は、楽しくないのに、バスケットボールをしていたのですか? リユの説明では、彼は、バスケットボールが大好き、ということでしたが」
「それはそうなんだけど……なんて説明したらいいのかな。えーと、日本の学校の部活動は、その部活動を担当する先生にもよるんだけど、プレーに自由を許さずに、先生に言われた通りにしないといけないことが多いの」
「ブカツドウは、a high school basketball team の意味ですか?」
「イェス。そう。それで彼は高校時代に、先生から厳しくされて、伸び伸びとプレーできなくなってしまっていたらしいの。ところが、ペギーたちのプレーを見て、ああいう風に自由に楽しくプレーしていいということに気付かされた、って言ってた。あ、それと、この人のプレースタイルも影響を与えたみたいけど」
美那はそう言うと、俺の方を向いて、グーで俺の肩を軽く突く。
「あー、リユのプレースタイルはとても興味深いです。バスケットボールをする前は、どのスポーツをしてましたか?」
「テニス」
「オー、ヤー。なんとなく、わかります。とても、動きが、鋭いです」
ルーシが俺ににこりと笑いかける。
「それを言ったら、ルーシーもすっげー、動きが鋭いよな。チームで作戦を考えるときに、どうやってルーシーの鋭い動きを抑えるか、難しかったもんな」
「そう。どうやったら、あんな風に動けるようになるの? どういうトレーニングをしてきたの?」
「そうですね……特別なトレーニングというよりは、いろいろなスポーツをしてきたからではないでしょうか?」
「たとえば?」
美那は興味津々らしい。
「コミックで読みましたが、日本では、ひとつのスポーツを、続けるのが、普通、みたいですね。アメリカではシーズンごとに、違うスポーツをします。わたしの場合、陸上もしましたし、サッカーもしました。テニスは、家族でしたりしました。冬は湖でスケートとか」
「へー、いろいろするんだ」
「はい。でも、一番好きなのは、やっぱり、バスケットボールです」
そんな話をしていたら、オツからメッセージが。
——>木村の件、よかったら美那に話をしておいてくれ。よろしく。
あー、あの件かぁ。でも、これは避けては通れないよな。
<——了解です。
と、返信。
「オツからなんだけど」
俺は隣の美那を見る。
「先輩、なんて?」
「実は、話の流れで、木村主将からディフェンスと体力増強の方法を伝授してもらうことになったんだ。お前も一緒に」
「え、そうなの?」
美那が驚いた顔を見せる。
「うん……」
「オツから、ですか? 何か問題ですか? ジャックか、ペギーが暴れてるとか」と、ルーシーが訊く。
「そういうんじゃないから大丈夫、ルーシー。俺たちのチームの連絡」
「ああ、そうですか。試合に負けた後に、お酒を飲むと、暴れることがあるので、少し心配でした」
「そうなのか……一応、どんな状況か聞いてみようか?」と、俺。
「いいえ、いいえ、リユ、大丈夫です。今日は、とてもフェアな良い戦いでしたし、負けても、スッキリした顔をしていたので、たぶん、大丈夫だと、思います」
ルーシーが少しだけ首を傾げて、優しい笑みを浮かべて、俺を見つめる。
やべ、ちょっとドキッとした。
美那がテーブルの下で俺の足を軽く蹴る。
「え、なんだよ」
「別に」
「ま、いいけど」
なんだか、美那はまた微妙な表情。ほんのちょっとだけ、寂しげというか。憂い顔?
「あ、そうだ! ケーキ買って帰ろうよ」
いきなり美那が話題を変える。
「ワォ! いい、ですね!」
「でも、もう京急は閉まっちゃうんじゃね?」
「うわー、ほんとだ。もうすぐ8時かぁ。そうだ、お母さんに頼んじゃおうっと。ちょっと、リユどいて。電話してくる」
奥に座っていた美那は、俺を立ち上がらせる。
そのタイミングで、ロースカツ定食! がやってきた。
「美那、来ちゃったぞ」
「うん。すぐに済むから、先に食べてて」
美那はそう言うと、電話を掛けながら、店の外に出て行く。
そんな情景をルーシーが面白そうに見ている。
「こういうのを、気が置けない、ともだち、というのでしょうか?」
気が置けない? 遠慮がいらないとかそんな意味だったよな。外国人に適当なことを教えるわけにはいかないから、スマホで調べよ。
「ま、そうだな。そういう感じかな。遠慮しなくていい、みたいな? そんな言葉まで、よく知ってるよな、ルーシーは」
「そうですね。まあ、日本語を勉強していて、調べた言葉は覚えます」
「ところで、腹減ったし、美那も言ってくれたし、先に食べてようか?」
「そうですね……でも、すぐに戻ってくると言ってましたから」
ルーシーは美那が行った方向を振り返る。
「いや、あいつは待たなくていいよ」
「あっ、そうでした。リユ、お箸の使い方を教えてください。まだ、うまく使えないんです」
「え、まあ、いいけど……じゃあ、ちょっと持ってみて」
うぅむ。確かに見過ごせない箸づかい。これじゃ、食べにくいだろうな。
向かい側の席からだと教えにくいから、ルーシーの隣に移動して、見本を見せる。
ってか、いちいち考えずに使っているから、自分で実演しながらじゃないと、うまく説明できんし!
親指と薬指で片方の箸を固定して、人差し指と中指でもう一本の方を動かす、と見本を見せながら説明する。ルーシーはちゃんと日本語での各指の呼び方を知っているから凄え。俺なんか、英語でどういうか知らんし。親指はサムアップっていうくらいだから、サムは知ってるけど、スペルもわからんし。
「ワォ。わかりました。ありがとう。リユは教え方が、とても上手ですね」
「そんなこともないと思うけど……」
と言っていたら、美那が戻ってきた。
美那が奥に座ったところで、俺も自分の席に戻る。
「ごめん。もしかして、待っててくれた?」
「いや、ちょうどルーシーに箸の使い方を教えてた」
「あ、そうなんだ」
「はい。リユのおかげで、お箸が、上手に、使えるように、なりそうです」
そう言って、ルーシーがトンカツを一切れ、摘む。
「あ、ほんとだ。すごい。普通に使えてる」
「昨日までは、うまく使えずに、日本食を、食べるのに、苦労、してました。ペギーたちに、自慢できます」
ああ、サクサクでジューシーなトンカツが美味い! 俺は、ご飯とキャベツをおかわり。美那とルーシーはキャベツだけ。
そろそろ食べ終わろうというときに、美那が思わぬことを口にする。
「そういえば、加奈江さんも呼んでおいたから」
「え、なんで。かーちゃんはいいだろ」
「だって、せっかくリユのアメリカ人のガールフレンドがウチに来るのに、紹介したいじゃん。加奈江さんは英語ができるし」
「それ、変だから。ルーシーは、ガールフレンドっていうか、普通にトモダチだろ。かーちゃんに変な誤解させんなよ。可哀想じゃん」
「そうだよね。加奈江さん、早くリユが彼女を連れてきてくれないかなぁ、って嘆いてたもんね」
「カナエさん?」
「あ、リユのママ」
「オー、ヤ。わたしもリユのママに、お会いしたいです」
「でしょ? そう思って、呼んだの」
「ありがとう、ございます、ミナ」
そういや、美那のやつ、香田さんのことも、かーちゃんに話しやがったもんな。俺の中じゃ、〝リユに彼女をつくる会〟説はまだ消えてねーし。
「じゃ、俺は遠慮しておくわ。女ばっかだし」
「そうすれば? ケーキだけ食べて帰れば? 一応、ケーキはリユの分も頼んどいたから」
「ちぇ。まあ、俺は甘いもの、嫌いじゃねえし……疲れてるし」
「ってか、リユ、今日は絶対すぐ寝るね。だから、早く帰って、寝た方がいいと思うよ。チョー活躍したし」
「なんだよ。なんか、邪険に扱うかと思えば、微妙に褒めてるし」
「ジャケン?」と、ルーシーが訊く。
「あー、つまり、人のことを、軽く、意地悪く扱う感じ?」
「ナルホド……」
そして、なぜかルーシーは美那のことを見て、くすりと笑う。あー、なんか、ナオさんと同じような笑い方じゃん。なんなんだろうな、これ。どっかで流行ってるのか? ナオさんとルーシーの共通項は英語? いや、それはねえだろ。
「あ、さっき思いついたんだけど、ルーシーはまだしばらく、日本にいるんだよね?」
「はい。あと、10日くらい」
「じゃあさ、3人でどっか行こうよ。ペギーたちを誘ってもいいけど、高校生3人でどっか行きたくない?」
「オー、That's a great idea! それ、いいです!」
「でしょ。ねえ、リユ、どっかいいところないかな?」
「そんなこと、急に言われてもな」
デートもしたことのない奴に、そんな質問、振るなよ!
と、思ったけど、確か、今度の水曜日は旧七夕で、それを調べた時、ちょうど鎌倉辺りで祭りみたいのがあったような……日本っぽいし、いいかも。
「ちょっと、待って」
スマホで検索。お、これだ。
「これなんか、どうだ?」
俺はふたりにスマホの画面を見せる。
「鎌倉のお祭り?」と、美那。
「お前に言わなかったっけ? ちょうど試験期間の中の日曜日にお茶したじゃん? あの日は梅雨の最中の雨だったけど、七夕の日でさ、でも七夕って旧暦だと、今頃なんだよ。ほんとは、晴れてる日が多いはずなんだよ」
「え、聞いてない。でも、確かに、そうか。一ヶ月くらいズレてるもんね」
「タナバタ。聞いたことがあります。お願いする、お祭りですね?」
「そう」と、美那が答える。「今は7月7日が七夕なんだけど、でも、リユが言うには、本当は今頃なんだって。日本は今、アメリカと同じカレンダーになっているけど、少し前までは、少し違う独自のカレンダーだったの」
「オー、そうなんですか」
「それでね、その日に晴れていたら、天の川っていう星の川、リバー・オブ・スターズ? を渡って、織姫と彦星のすごーく仲のいいカップルが、一年に一度だけ会えるんだけど、今のカレンダーだと、ツユっていう雨が多い時期で、あんまり晴れないの。だけど古いカレンダーの七夕はちょうど今の時期で、今日みたいに晴れた日が多いから、ふたりが会える機会が増えるんじゃないか、っていうロマンチックなリユくんの説なの。確か、そんな話だったよね」
「まあたぶんそんな感じだけど、別に俺の説じゃねえし、ロマンチックでもねえし」
「なぜ、一年に一度、しか、会えないのですか?」
「なんか、仲が良すぎて、遊んでばかりいて、引き離されたんだっけ?」と、美那が俺に振る。
「そうだったと思うけど……」
「ルーシー、あとでちゃんと調べて、正しい話を教えるね? で、リユ、そこ、いいじゃない」
「わたしも、日本のお祭り、行きたい、です」
「じゃあ、決まりね。リユ、ちゃんと調べといてね」
「ああ」
土曜日は香田さんのお供で美術館だっていうのに、水曜日はルーシーと美那のお供で鎌倉かよ。
ああ、やっぱり俺は、恋愛に発展しない系モテ期なのかも……。
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