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第3章

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【前回のあらすじ】
 同じ高校生で、バスケに失恋と、共通の話題が多いルーシーと美那。トンカツ屋の後は、美那の家でリユの母親・加奈江も加わり、女子会になる雰囲気だ。そして美那は、朝から変わらず、リユには意味不明の微妙な調子が続いている。ひとりで盛り上がり気味の美那の提案で、日を改めて、旧暦の七夕に3人で出かけることになる。



 山下家に到着すると、もうすでにかーちゃんが合流してるじゃんか! 園子さんと楽しそうに話してるし。でもまあ、園子さんが楽しそうにしているのは、いいことだよな。サンキュー、かーちゃん。
 いや、まじ、2世代女子会の中でたたまれないから、ケーキを食ってすぐに退散。ルーシーとはまた水曜日に会えるしな。
 かーちゃんが風呂も沸かしておいてくれたし、美那が言ってた通りメチャ眠くなってきたし、今日は速攻で就寝だっ!

 8月5日月曜日だ!
 結局、いつもどおり、6時ごろに目が覚めてしまった。
 今日も天気よし。
 夜のうちに、美那からメッセージが入っていて、朝のサスケコート練習はなし。たぶん昨晩は、ルーシーと恋話コイバナで盛り上がったに違いない。ま、バスケの話も多少はあるかもしれないけど。
 そういや、いろいろとやらなきゃいけないことがあったな。
 ひとつはルーシーを連れて行く鎌倉の祭りについて調べなきゃならない。
 もうひとつは、花村さんからのお願いであるサスケコートでのチーム練習を杉浦さんに打診すること。ま、これは美那と一緒に、まずは花村さんとナオさんが挨拶できるよう手配することか。
 あとは、バスケ部の木村主将との練習か……。しかし、連絡先を知らねえしな。花村さんからの連絡を待つか? あ、美那が知ってるか。花村さんの話では、俺がやる気なら、ってことだった。だったら、俺の方から連絡するのがスジか。俺もマジで、前田の野郎に勝って、優勝するつもりだし。美那の力になりたいし。
 あと、なんか、大事なことがなかったか?
 なんだっけ。
 そうだ! 香田さん!!
 土曜日、どうしよう。美術館とか、どんな服で行ったらいいんだ?
 デートってわけでもねえし。もしかして、私服で香田さんに会うの、初めてじゃん!
 やべーな。変な格好で行ったら、嫌われること間違いなしだよな。
 美術館だから、Yシャツ系にチノパンとかの真面目系?
 芸術家風? それってどんなんだよっ!
 香田さんはどんな服で来るんだろ? わかんねー。美那に相談できたらなぁ。てか、絶対にそれはできないしな。
 誰かいねーかな、相談できる人。
 かーちゃんは無いだろ。
 柳本じゃ相談にならないし、そもそもそんなこと相談しようものなら面倒な話になるしな。
 花村さんはナオさんという素晴らしい女性をゲットしたから、少しは参考になるのか? いや、でもあんまりそういうセンスはなさそうだしな。
 ナオさん? いやいや、ナオさんは美那と仲が良すぎるしな。
 誰だ? 誰がいい?
 あと男なら、蒼山さん? まあ、相談には乗ってくれそうだけど、ちゃんとしたアドバイスはくれそうにないな。「リユくん、結局は君がどういう気持ちで、その女性と会うのか、それが問題だ。それによって服装は変わってくるから、自分でよく考えるしかないな」とか、言いそうだし。
 そうだ、有里子さん!
 有里子さんなら、センスもいいし、一般的な感覚も持ち合わせているし、真面目に答えてくれそうだ。
 ただまだ、朝早すぎるな。もう少ししてから、メッセージを入れておこう。

 てなわけで、まずは鎌倉の祭りの調査だな。
 祭りはすぐにわかったけど、別に、伝統的七夕、旧暦の七夕に合わせた内容というわけではないみたいだ。この時期にやる仙台の七夕は有名みたいけど、さすがに仙台はねえだろ。でも、まあ、ルーシーと日本のお祭りを楽しむって趣旨なら、鎌倉でいいな。結構ちゃんとした伝統的な行事とかあるみたいし、鎌倉なら観光もできるし。
 行事は15時からみたいから、少し早めに行って、海岸まで足をばしたり、お茶したりとか、いいんじゃね?

 で、気がついたら、俺はサスケコートに立っていた。
 っていうのは嘘だけど、かーちゃんもまだ寝てるから家の前ではドリブル練習ができないし、誰かに連絡するにもまだ早いし、ドリブルのスピードを上げたいし。
 昨日の疲れは若干あるけど、軽ーく練習すべし。MCモンスターズ・クッキーの個性のあるリズムのドリブルは刺激になったもんな。あとは、スクリプツのマッチョな当たりとか、キュームラスの長身チームへの対策とか。オツさん、いい練習試合の相手を選んでくれたよな。
 1時間ほど汗を流して、帰宅。
 かーちゃんが朝飯の準備をしてくれている。
 8時を過ぎたので、有里子さんに「ちょっと相談したいことがある」とメッセージを送る。そしたら、すぐに電話がかかってきた。
 相談内容が相談内容なので、自分の部屋に行く。
——リユくん、1週間ぶりくらい?
「え、まだそんなもんですか? そうか先週の月曜日までだったのか」
——そうよ。アルバイト、ありがとうね。ほんと、助かったわ。
「いえ、こちらこそ、バイト代、ありがとうございます!」
——ところで、相談って、なに? 難しい話?
「いや、たぶん、有里子さんにとっては難しい話じゃないと思います」
——具体的には?
「いや、実は、今度、女子と美術館に行くから、どんな服装がいいのかな、と思って」
——ああ、そうなんだ! でも、女子って、美那ちゃんじゃない、ってことだよね。
「ええ。美那だったら、別にあんまり服は気にしないし、必要があれば、あいつから言ってくるから」
——へぇー、そうなんだ。相手はどういう子なの? ほら、相手次第で、変わってくるじゃない、そういうのって。あとは、どこの美術館? 美術館もいろいろあるしね。
「相手は、実は、俺が憧れてたで、向こうが行きたいところがあるから、一緒に行って欲しいって言われただけで、デートとは違うんですけど」
——え、すごいじゃない。それって、ふたりだけでしょ?
「まあ、たぶんそうだと思いますけど」
——それは、リユくん。もう少し、ちゃんと考えた方がいいよ。
「え?」
——電話じゃ、なんだからさ。お昼でも一緒に食べる? 今日は家で仕事してるから、横浜駅の近くででも。あ、バイクでどっか行く? 近場で。ちょっとだけでも、一緒に走ろうよ。
「いいっすね! まだ、遠出はかーちゃんが許してくれないけど、横浜駅あたりまでとかなら大丈夫です」
——じゃあ、どこにしようか。どの辺なら行けそう?
「山下公園ならこの間行きました。バイク専用の駐車場もあるし。あ、美那がタンデムしろって言うから、どの辺がいいかなとか思って、ちょっと下見に。最初は近場かな、とか」
——そっちは美那ちゃんか。リユくんもなかなか忙しいね。
「いや、まあ、なんか使われてるだけで」
——OK。じゃあ、山下公園のバイク駐車場に11時にしようか。あの辺ならそれなりに店もあるし、天気もいいし、そこから歩いて行こうか。
「はい。お願いします」


 あれ? 有里子さん、なんかちゃんと考えた方がいいとか言ってなかった? どういう意味? ま、いいか。会ってこう。
 下に降りると、朝飯が出来てた。
 トーストとサラダと目玉焼きとオレンジジュース。コーヒーはない。あとで俺に淹れろってことだな。ま、いいけど。
「今日、昼飯は外で食うから」
「ルーシーと美那ちゃん?」
「いや、違うけど。有里子さん」
「え、そうなの? じゃあ、わたしも一緒に行こうかしら」
「なんで、かーちゃんが来るんだよ」
 意味わかんないし、内容的に一緒に来られたら困るし。
「いーじゃない。有里子さんとは気が合うし、楽しいし」
「いや、バイクで行くから。で、ちょっと一緒に走ってくるかも」
「バイクなの? 残念ね……」
「なんだよ、昨日の夜の女子会は楽しくなかったのかよ」
「そりゃ、楽しかったわよ! ルーシーも、美那ちゃんも、あなたのこと、ベタ褒めだし。あんたもちょっとは女の子から認められるようになったのねぇ。感慨深かったわよ」
「まあ、バスケはだいぶ上達したし、かなり得点もしたからな。最後の試合なんて、美那より多く取ったみたいだし」
「バスケだけじゃないわよ」
「そうなの? ほかは何て?」
「それは、まあ、女子会の中での話だから、言えないけど」
「そんなルールあるのかよ」
「それはケースバイケースかもしれないけど、昨日の話は言えないわね」
「マジかよ? それって、いい話だよな?」
「ウソ。冗談よ。でもまあ、かなり評価は高かったわね」
「どっちから?」
「あなた的にはどっちからがいいのよ?」
「いや、別にどっちから、ってわけじゃないけど」
「まあ、主にルーシーかな。っていうか、ルーシーとは話が合うのかしら?」
「そうだな。ルーシーとは趣味の共通項が多いかもな。音楽の趣味も似てるっぽいし」
「あら、よかったじゃない」
「まあな」
「なんだ。あんまり喜ばないんだ」
「だって、だからってそういう感じでもねえし」
「なんで、美那ちゃんと付き合わないのかしらねぇ」
「だから、向こうが望んでないだろ」
「じゃあ、あなたは望んでるの?」
「え、俺? 俺は、それをあんま考えたことねえし」
「それって、逃げてるだけじゃないの?」
「そんなこと、ないって」
「だって、ルーシーなんか、最初にバスケした時から、あなたたち絶対付き合ってるって、お姉さんのペギーだっけ、と話してたんだってよ。昨日の試合でも、ほぼ確信したみたいけど、訊いたら違うっていうから、ちょっと驚いた、って」
「そんな話、してんのかよ」
「最近、あなたたち、なんていうのかな、すごくいい感じよ。バランスがいいっていうか」
「まあ、最近な。バスケでは美那をだいぶ助けられるようになったし、成績も奇跡的にほぼ同じだったし」
「美那ちゃんも、最近、あなたがたのもしくなってきた、ってうれしそうに言ってたわよ。あ、これ、あなたに言っちゃったのは、美那ちゃんには内緒ね」
「うわ、女子会のルール破りじゃねえか」
「でも、それだけはあなたには言っておきたくて。母親として。だから、まあ、自分に素直になればいいんじゃないの?」
「ちぇ、意味わかんねえし」
「ま、言いたいのはそれだけ。有里子さんにはよろしく言っておいてね?」
「ああ、わかった」
「あ、それから、コーヒー淹れてくれる?」
「OK。そのつもりだった」
 俺は、食器を流しに入れ、やかんで湯を沸かす。
 女子会、こええー。
 でも、香田さんのこともあるし、こんなことを考えるのも良くないかもだけど、俺が美那と付き合いたいと思えば、可能性は出てきたってことなのか?
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