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第八部:遺跡と遺産

また銀ジョッキを...

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「まずは『モットー』がヒントだな。さっきシンシアが碑文の言葉を『三行詩』って言っただろ? それで思いついたんだけど、こういう家訓とかモットーって、三つの言葉で出来てることが多い気がしたんだよ。ダレソレが、ナニナニして、ペケペケになる、みたいな?」

「あ、割とそうかも知れません! 語呂がいいと言うか、言葉の響きで覚えやすいですし、単語が二つよりも圧倒的に表現の幅が広いですからね」
「だよな?」
「ですが、碑文の言葉はかなり長い文章なので、このモットーの三つの単語...『獅子、見下ろす、全てを』に置き換えるのは難しそうです」

「あ、違うんだシンシア。おれが思いついたのは意味の置き換えじゃ無くって、もっと単純というかシンプルというか、要は俺みたいに忘れっぽいバカでも忘れないってヤツだよ」
「御兄様は賢いと思います!」
「まあそこはともかく、俺が考えたのは、単純に『三つの行』を『三つの単語』に置き換えるだけなんだ」

「置き換え、ですか?」

「うん。つまり『獅子なる者の末裔マディアルグの咆哮は大地を燃やす』が『獅子』だな」
「はぁ...」
「次の『確かめるべきは、その行いと吠えるべき時』が『見下ろす』で、最後に『吐息の広がりは我らも彼らも共に滅ぼすだろう』が『全てを』だな」

シンシアが、絵に描いたような『キョトンとした』表情を見せる。
うん、言ってて自分でも自信がなくなってきた!

「獅子はそのまま『獅子』だとして...『見下ろす』という行いと、我らも彼等も共にが『全て』とか、そういう解釈ですか御兄様?」

「そうそう。言葉の雰囲気はあってるような気がするんだよ」
「えっと...つまり?」
「つまり、このモットーを分かりやすく言えば、マディアルグ家の権威を誇ってる感じがするんだ」
「それはそうですけど...」
「もちろん、このモットーの言葉が、そのまま門番を起動させるキーフレーズだなんて言うつもりは無いよ? 自軍の兵達が、慰霊碑の前で勝ち鬨を叫んだ瞬間に『獅子の咆哮』が起動するとかシャレにならないし」

「ですよね?」

「だから紋章全体に意味が隠れてる。マディアルグ家ゆかりの人が慰霊碑に隠されていた碑文を見れば、このモットーを思い浮かべるだろう。そして紋章全体をイメージする。椰子の葉が茂ったオアシスで二頭の獅子に挟まれている剣と盾だ」

「あっ、つまり紋章記述ですね!」

シンシアがいかにも『分かりました!』って感じの声を上げたけど、俺が分からん・・・えぇっと、紋章記述って何だ?

「この紋章の図柄を言葉にして書き表せば...そうですね...『生い茂る椰子の葉に囲まれたオアシスで、いまにも襲いかからんとしている二頭の獅子が左右に立ち上がり、その中で交差した二つの剣と丸盾が、湧き出る泉の上に浮かんでいる』っていう感じでしょうか?」

「おぉ、シンシアの文章力って凄いなぁ」

「有り難うございます御兄様。でも、ちょっとヘンですよね?」
「なにが?」
「言葉に置き換えてから図案を見ると、まるで両側の獅子がオアシスに襲いかかっているかのように見えてきました...そうなると、中央の盾と交差した剣はオアシスを守ってる敵兵って事になっちゃいますけど、敵の姿を紋章の中心に置くって無いですよね?」

「うーん、無くはない、かな? 物騒な図柄だと『敵兵を飲み込んでる竜』の姿に自分たちを描いてる家紋とかもあるし」
「そうなんですか?」
「実際は、獅子とか剣とか盾とか、カッコいいと思うネタを寄せ集めただけかもよ? 大事なのは椰子と泉だけだったりしてな!」

「なるほど!」

我ながら適当なことを呟いたら、シンシアに納得されてしまった。
いまさら撤回しづらい!

「それで御兄様。この紋章記述に基づくと、なにがどうなるんでしょう?」

「勘だから外れても許して欲しいけど、城壁内のどこかに、この図案かあるいは記述を彷彿とさせるようなナニカがあるんじゃないかと思うんだ。でも、紋章その物が飾ってあるとかじゃあ無くてね」

「それはそうですね! マディアルグ王の時代なら、紋章その物はそこら中に掲げられていたでしょうから」
「そうそう。あくまで紋章から連想できるモノとか景色とか? とにかく、そこに本当の『鍵』が隠されてると思うんだ」

シンシアも頷いてくれたから、たぶん俺の推理に納得してくれてる、はず・・・

「で、シンシア。大外れかも知れないけど、これでチョット思いついたことがあるから調べてみたいんだよ。頼めるかな?」
「もちろんです」
「それほど急ぐワケじゃ無いんだけどさ、王宮と城壁内をぐるっと見て回りたいんだよな」
「これから出掛けますか?」

「いやぁ範囲が広いし、細かいところに入り込んだりしたくなるかも知れないんだ。で...相談っていうのはヴィオデボラに残してきた『銀ジョッキ』があるだろ。あれと似たようなモノをまた作れないかな?」

「大丈夫です!」

「いつもシンシアにばかり負担を掛けていて申し訳ないんだけどな。やっぱりアレがあると便利だなって...」
「いえ御兄様、すでに制作済みですよ?」
「え?」
「きっとまた使うだろうと思って、ヒップ島にいる間に作っておきました」

「おおぉっ...シンシア凄い! シンシア偉い! シンシア可愛い!」
「有り難うございます御兄様...」
「もーっ、シンシアちゃんったらダメダメ! そーゆー時は堅苦しく『有り難うございます』とかじゃなくってさー、『ほめてー!』とか『エヘッ!』とか可愛く言うのーっ!」

俺が感動してデタラメに騒いだせいで、照れてるシンシアにパルレアがツッコミを入れる。

「すみません御姉様」
「だーかーらー、そーゆーのじゃなくって!」

「まあいいだろパルレア。シンシアの可愛さはどんな振る舞いでも変わらないんだからな?」
「そーだけどさー! せっかく可愛いーんだから、もっと可愛くって思うじゃない? 姉として!」
「分かる!」
「ぁ、あのぉ御兄様、それで、ぇっと、その...『銀ジョッキ改二号』をここに出しますか?」

パルレアのツッコミでシンシアが急に挙動不審になったよ・・・
それにしても『改二号』って。
固いよ、相も変わらず固すぎるネーミングだよシンシア!

「ああ頼むシンシア。もう壁のすり抜けは出来ないんだから銀ジョッキは不可視にして窓から出そう...って考えてみれば、外はもう真っ暗だな...」

「本来はどちらへ?」
「えっと、ジェルメーヌちゃんの寝室かなー!」
「ていっ!」
「いったーいっ!」

パルレアの頭頂部を、手刀ならぬ指刀で軽く叩く。
ちなみにジェルメーヌと言うのは、さっきの晩餐会で同席してた王女の一人だけど、俺はそれほど親しく話をしていた訳でも無い。
なんで、そんな名前がサクッと出てくるんだよ・・・

「毎度のことだけど、妙なことを言うんじゃないパルレア」
「いちおー、理由はあったんだけどー?」
「えっ! でもあの娘はホムンクルスなんかじゃ無かったぞ?」

「それはもちろんそーだし、ヘンなこと言ってたワケじゃないけど、嘘が多かったから気になっただけー。アタシは話してる内容自体を知らないから具体的に何が嘘って言えないけどさー、周りの人に言ってることにちょくちょくウソが混じってたってゆー感じ?」
「そうだったのか」
「何をアヤシイって思うかはビミョーだけどねー。何度かアタシにも話し掛けてきたけど、エルスカインとは全然関係ないコトだったしさー」

「貴族って言うか王族だもんな...権力争いとかやってると日常的に嘘ばかりついてても不思議は無いよ」
「そーよねー...」
「まぁ取り越し苦労かも知れないけど、一応、注意はしておこう」
「うん」

「それで御兄様、銀ジョッキ改二号はどちらへ飛ばしますか?」

「見たいのは城壁の内側、特に離宮の周りだな。要はマディアルグ王が建てた古い建築とかを中心に見て回りたいんだけど、もう暗いし...さすがに、すぐに銀ジョッキが出てくるとは思ってなかったからね」

「では、さっそく明日の朝から...」

「ただ俺たちがずっと部屋に籠もってるのも不自然というか挙動不審って言うか、明らかに王宮に用事があると思われそうな気もするんだ」

「そうですね。どこかに出掛けますか? なにか自然な言い訳が出来ればいいのですけど」
「銀ジョッキの操作自体は、距離が離れても問題ないよな?」
「もちろんです」
「だったら、俺たちが借りることにしてる船を見にアーブルに行くって言うのはどうだ?」
「いいですね!」

「じゃあ明日はまずカモフラージュとしてアーブルの港へ『アヴァンテュリエ号』を見に行って、それから俺たち自身が不可視になってココに戻るか、適当なところから銀ジョッキを飛ばしてみようか」

なんなら、アーブルのどこかに転移門を開いて、そこから毎日王宮へ通うって言う手だってあるんだけど・・・その場合はラクロワ家の面々にどう動いて貰うかだな。
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