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23.それぞれの過去

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芳樹さんが俺の手を取ってうなずく、森下医師はニコニコと芳樹さんを見ていた。
「あの金髪ピアスの芳樹君が立派になって」

芳樹さんがアワアワと手を振って森下医師の口をふさごうとする。
「金髪ピアス?」
俺は聞き逃さなかった。
今の芳樹さんは地毛だと言う栗色の髪を短く切った好青年といった感じだ。康太さんの隣に立つと華奢さが立つが明るく爽やかでかっこいいお兄さんだ。

「若い時って言うのは何度かハメをはずすもんだよ」
ちょっと赤い頬をさすりながら芳樹さんがつぶやいた、森下医師はにこにことその様子を見ている。

「芳樹君は私が男性オメガ専門外来を継いだ時の初期の患者でね。今の透君くらいだったかな」

「その、俺の過去を暴露する流れ辞めてもらえませんかーっ」
芳樹さんが森下医師の肩をつかんで、ぐらんぐらん揺らし始めた。森下医師は楽し気に声を震わせる。

「まぁ、透君これからの方が長いんだよ。芳樹君の言う通り、ゆっくり未来は決めたらいいよ」
森下医師は芳樹さんをなだめて締めくくった。俺は森下医師と芳樹さんを二人を見てまたしっかりと頭を下げた。
そして俺は視線をあちこちさまよわせながらも、もう一つ聞きたいことを切り出した。

「あ…あのそれで…。それもあるんですけど。やっぱりアルファと番うのは痛いですか?」

芳樹さんと森下医師はお互いの顔を見合わすと俺を見てニヤリとする。

「うーん。痛いよ?でもいろいろ終わった後にだけど。大昔だからもう思いだすのも難しいけど」

「僕はそーだねー痛いよね。でも、まぁその倍なんか、感動したな」

二人とも何やら悟った様子ですごく楽しそうな顔をしていた。こんなパーソナルなことを聞いているのに答えてくれる二人は尊敬できる大人だ。

「まだ。至君と出会ってデートしてって期間が短くて、それなのに何もかも人生を委ねられるってどうなんだろうってアルファと番うってそう言う事ですよね」

「俺はさ、最初はビジネス結婚しようと思ってたんだ。パティシエの専門学校でもアルファにはがっかりしてた。だから、ヒートの時の相手とパティシエをするってことを認めてくれたらあとは自由って結婚でいいやって。相手が望むなら別居でいいとも思ってた」

芳樹さんはこたつ机に頬づえをついて自嘲するように笑った。

「お見合いでいざ康太と逢ったらさ。ちょっと好きってなったんだよ。逢うようになって3度目で結婚しようって言われてうれしかった。一緒に暮らすようになってどんどん好きになって、愛してるって噛んでもらって心の底から感謝した。康太に会えたこと俺の中では宝物だ。確かに一般的じゃないよ。出会い方も速度も。だけど、オメガとアルファは理屈じゃないんだ。慎重さは大事だけど自分の気持ちを見逃さないことだよ」

森下医師は芳樹さんの肩を撫でて目を細める。芳樹さんはこたつに突っ伏してしまった。俺はド直球な芳樹さんの言葉に頭のてっぺんまで赤くなる。俺の中の勘違いを一つ直された気分だ。オメガもアルファも本能だから求め合うんじゃない。ちゃんと、気持ちを伴って求め合うんだ。

「私の場合はね。アルファ家系のオメガだから中学に上がる時には婚約者がいた。ヒートが来たのは中2だった。そこで番ったからもう、24年?一緒にいる」

俺はびっくりした。中2って14歳くらいでもう番ったって。森下医師は俺の反応を見てあごを擦っている。

「早かったおかげでいろいろと都合よく医者になれたし。落ち着いてから親にもなれた。良かったよ」

森下医師は俺をまっすぐ見た。

「それに大事なのは番ってからだって話だよ。俺はお見合いだったから燃え上がるような恋ってわけじゃなかったけど。今は彼のいない人生は考えられない」

あぁ、俺はいったい何を悩んでたんだろう。うなずいて頭の中を整理しようとした。そこには答えは一つしかなかった。出会ってから今までだって、これからだって俺には至君しかいない。

俺が本当に話すべき相手は至君だ。

「俺、至君と和希君を迎えに行ってきます」

二人はひらひらと手を振って俺を見送った。
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