24 / 34
24.叶えたいこと
しおりを挟む
公園のベンチで二人は絵本を読んでいた。至君が俺をみとめて手を振る。駆け寄ってベンチに座ると、さっきまでブランコで遊んでいたと教えてくれた。合流して一緒に砂場で遊んだ後。和希君はやっと俺に抱っこされてくれた。そのまま、皆で三浦に戻ると、和希君は森下医師を見て目が潤み始めた、眠かったみたいだ。森下医師は俺から和希君を受け取ると帰って行った。
俺達もケーキを6つ買って帰ることにした。店を出たところで振り返ると、芳樹さんが両手をぐっと握って頑張ってってポーズをしてくれた。俺はうなずいて返事をした。
車から生活感のあふれた街並みが見える。木枯らしが吹いて葉っぱがくるくると舞っていた。
至君の家に着いて、車庫に車を止める。俺は降りようとする至君のジャケットの裾を捉まえた。
「至君。少し二人で話がしたい」
「うん」
俺はそのままうつむいた。何から話したらいいんだろう。至君がカーオーディオのボリュームを絞る。驚くほど車内は静かになった。少し緊張する。いや、少しじゃなかった俺の手は震えていた。心臓がバクバクと打って頬が震える。これから言う事を至君がどう受け取ってくれるか。それでも…俺は深呼吸をした。
「俺はオメガになったばかりで至君と出会ってからもそんなに日が経ってない。それでも俺の全部を至君に受け止めて欲しいと思ってる」
至君は俺の方を見て黙って聞いてくれて、俺の震える手を握ってくれた。
「次のヒートは2月になると思う…」
握ってくれている手に力が籠った、至君の手は俺よりも温かい。
「その時一緒に過ごしてほしい」
言い切って。俺は至君に手を伸ばす。首に手をまわして首筋におでこを寄せた。至君が俺の背中に手をまわして優しく撫でてくれた。
「もちろん。ありがとう、透」
耳を押し付けた体を通して声が聞こえてくる。言ってよかった、涙ぐみそうだ…。
「至君、ありがとう」
俺は至君にまわした手に力を込めて座席に膝立ちし背伸びした。おとなしく引き寄せられた至君にキスをした。目を開けると至君は俺を見ていた。もう一度キスをする、今度は唇を舌でノックした。開いた口の中に舌を入れた。引っ込んでいる舌をチロチロと舐めて。至君がしてくれたことをなぞる。上あご。舌のつるつるしたところ、ザラザラしたところを頑張ってやわやわと舐めた。唇を離すと至君が少し追ってきて、その仕草に笑った。頬に熱がこもってそのまま座席に正座した。
「こんな、エッチなキス。好きな人としかできない。至君としかしたくない」
至君が答えるように俺の肩を抱いてくる。
「思ってるだけじゃダメって。至君を見習って、俺も至君にちゃんと態度と言葉で伝える」
俺は自分の不安でいっぱいいっぱいだった。だから、のほほんとチョーカーだったり、キスだったり、いつも受け身だった。その行動にどんな思いがこもっているか。この執拗なマーキングには至君の不安な心が現れている。しっかり気持ちを返せていないことを反省したんだ。
俺だって俺の好きが伝わらないのは悲しいから。
至君の頬を挟んで、微笑んで見せた。
「言葉じゃ足りないくらいに好きだってことだから」
今度は至君が俺を引き寄せてキスをしてきた。俺は受け止めて背中に手をまわす。
「俺も透が好きだ。もう離してあげることなんてできないから、強引に囲い込んで、俺に落ちてくるのを待つつもりだった」
至君は自嘲するように微笑む。
「やっぱ、透には勝てないな」
「…至君」
至君が嬉しそうに笑った。俺の好きな笑顔だ。
「今日さ、芳樹さんのところに行ったのは、将来のことを考えたからなんだ。俺には叶えたいことが、たくさんあって。お菓子を上手に作れるようになりたい」
「うん」
「もうひとつ、はっきり思ったのは至君の側にいたいってこと。ずっと。だから」
至君は両手で顔を覆うと静かに息を吐いた。俺は正座を崩して助手席に座りなおした。
「わかってる、重いだろ。だからちゃんと話し合いたいなって思って。恥ずかしいけど…」
思わず爪が食い込むほど握りしめた。だけど、俺は選びたい。
「お菓子作りと至君の側にいる事を叶えたい」
独りよがりで恥ずかしかった。うつむいた俺の顔を挟んで至君が目を合わせてきた。
「もっと、重いこと言っていい?今度さ。俺の両親に会ってもらえる?それで、透の両親にもちゃんと挨拶したい。俺も透の側を離れる気はないし逃がさないよ」
俺はゆっくりまばたきをして至君を見た。真剣な顔が赤く染まる。
「うん」
まるでプロポーズだ。胸に広がる多幸感に苦しくなる。
「もう一回キスしたらうちに戻ろう?」
そう言って何度かキスをして家に入った。
至君のご両親はおじいさまの会社の新年行事に合わせて帰ってくるそうだ。会うのはその時に決まった。俺と航兄はもう1泊して実家に帰った。当たり前のように至君はうちに1泊して帰った。その時、至君と俺は二人並んで両親にこれからの話をした。二人は特に何か言うでもなく分かったとだけ言ってくれた。至君はふにゃりと笑った。
その後はなんだかんだと、お互いの家を行き来して過ごす。穣君も一緒に遊びに来たりもして一緒におせちを食べた。気付けば我が家に至君兄弟が馴染んでいた。
俺達もケーキを6つ買って帰ることにした。店を出たところで振り返ると、芳樹さんが両手をぐっと握って頑張ってってポーズをしてくれた。俺はうなずいて返事をした。
車から生活感のあふれた街並みが見える。木枯らしが吹いて葉っぱがくるくると舞っていた。
至君の家に着いて、車庫に車を止める。俺は降りようとする至君のジャケットの裾を捉まえた。
「至君。少し二人で話がしたい」
「うん」
俺はそのままうつむいた。何から話したらいいんだろう。至君がカーオーディオのボリュームを絞る。驚くほど車内は静かになった。少し緊張する。いや、少しじゃなかった俺の手は震えていた。心臓がバクバクと打って頬が震える。これから言う事を至君がどう受け取ってくれるか。それでも…俺は深呼吸をした。
「俺はオメガになったばかりで至君と出会ってからもそんなに日が経ってない。それでも俺の全部を至君に受け止めて欲しいと思ってる」
至君は俺の方を見て黙って聞いてくれて、俺の震える手を握ってくれた。
「次のヒートは2月になると思う…」
握ってくれている手に力が籠った、至君の手は俺よりも温かい。
「その時一緒に過ごしてほしい」
言い切って。俺は至君に手を伸ばす。首に手をまわして首筋におでこを寄せた。至君が俺の背中に手をまわして優しく撫でてくれた。
「もちろん。ありがとう、透」
耳を押し付けた体を通して声が聞こえてくる。言ってよかった、涙ぐみそうだ…。
「至君、ありがとう」
俺は至君にまわした手に力を込めて座席に膝立ちし背伸びした。おとなしく引き寄せられた至君にキスをした。目を開けると至君は俺を見ていた。もう一度キスをする、今度は唇を舌でノックした。開いた口の中に舌を入れた。引っ込んでいる舌をチロチロと舐めて。至君がしてくれたことをなぞる。上あご。舌のつるつるしたところ、ザラザラしたところを頑張ってやわやわと舐めた。唇を離すと至君が少し追ってきて、その仕草に笑った。頬に熱がこもってそのまま座席に正座した。
「こんな、エッチなキス。好きな人としかできない。至君としかしたくない」
至君が答えるように俺の肩を抱いてくる。
「思ってるだけじゃダメって。至君を見習って、俺も至君にちゃんと態度と言葉で伝える」
俺は自分の不安でいっぱいいっぱいだった。だから、のほほんとチョーカーだったり、キスだったり、いつも受け身だった。その行動にどんな思いがこもっているか。この執拗なマーキングには至君の不安な心が現れている。しっかり気持ちを返せていないことを反省したんだ。
俺だって俺の好きが伝わらないのは悲しいから。
至君の頬を挟んで、微笑んで見せた。
「言葉じゃ足りないくらいに好きだってことだから」
今度は至君が俺を引き寄せてキスをしてきた。俺は受け止めて背中に手をまわす。
「俺も透が好きだ。もう離してあげることなんてできないから、強引に囲い込んで、俺に落ちてくるのを待つつもりだった」
至君は自嘲するように微笑む。
「やっぱ、透には勝てないな」
「…至君」
至君が嬉しそうに笑った。俺の好きな笑顔だ。
「今日さ、芳樹さんのところに行ったのは、将来のことを考えたからなんだ。俺には叶えたいことが、たくさんあって。お菓子を上手に作れるようになりたい」
「うん」
「もうひとつ、はっきり思ったのは至君の側にいたいってこと。ずっと。だから」
至君は両手で顔を覆うと静かに息を吐いた。俺は正座を崩して助手席に座りなおした。
「わかってる、重いだろ。だからちゃんと話し合いたいなって思って。恥ずかしいけど…」
思わず爪が食い込むほど握りしめた。だけど、俺は選びたい。
「お菓子作りと至君の側にいる事を叶えたい」
独りよがりで恥ずかしかった。うつむいた俺の顔を挟んで至君が目を合わせてきた。
「もっと、重いこと言っていい?今度さ。俺の両親に会ってもらえる?それで、透の両親にもちゃんと挨拶したい。俺も透の側を離れる気はないし逃がさないよ」
俺はゆっくりまばたきをして至君を見た。真剣な顔が赤く染まる。
「うん」
まるでプロポーズだ。胸に広がる多幸感に苦しくなる。
「もう一回キスしたらうちに戻ろう?」
そう言って何度かキスをして家に入った。
至君のご両親はおじいさまの会社の新年行事に合わせて帰ってくるそうだ。会うのはその時に決まった。俺と航兄はもう1泊して実家に帰った。当たり前のように至君はうちに1泊して帰った。その時、至君と俺は二人並んで両親にこれからの話をした。二人は特に何か言うでもなく分かったとだけ言ってくれた。至君はふにゃりと笑った。
その後はなんだかんだと、お互いの家を行き来して過ごす。穣君も一緒に遊びに来たりもして一緒におせちを食べた。気付けば我が家に至君兄弟が馴染んでいた。
36
お気に入りに追加
478
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
なぜか大好きな親友に告白されました
結城なぎ
BL
ずっと好きだった親友、祐也に告白された智佳。祐也はなにか勘違いしてるみたいで…。お互いにお互いを好きだった2人が結ばれるお話。
ムーンライトノベルズのほうで投稿した話を短編にまとめたものになります。初投稿です。ムーンライトノベルズのほうでは攻めsideを投稿中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
運命はいつもその手の中に
みこと
BL
子どもの頃運命だと思っていたオメガと離れ離れになったアルファの亮平。周りのアルファやオメガを見るうちに運命なんて迷信だと思うようになる。自分の前から居なくなったオメガを恨みながら過ごしてきたが、数年後にそのオメガと再会する。
本当に運命はあるのだろうか?あるならばそれを手に入れるには…。
オメガバースものです。オメガバースの説明はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる