上 下
6 / 9

二人きり ※マーニャ視点

しおりを挟む
マーニャはジョフレイの部屋にいる。

二人はソファーの上で語らいをしている。


「ねえ、ジョフレイ様。本当に私で良かったの?」

「ああ。俺にはお前しかいない。本当にエマヌエラは最低な女だ」

「政略結婚なんて嫌ですわね」

「ああ、嫌だ」

「私なんか下位貴族だから、婚約者が予め決められているなんてそんなの無いわ!!」

「マーニャ。俺は心底お前を愛している!!」

ジョフレイはマーニャの頬にキスをした。

「ジョフレイ様ってば……」

「お前、顔が赤いぞ!!」

「あら……」

マーニャは赤面症だった。

それは以前交際していた男性からも言われた。


「マーニャ、これを受け取って欲しい」

「なんですの?」

ジョフレイは棚から小さな箱を取り出した。

「これはな」

そう言って箱の中を開けた。

そこには宝石が嵌め込まれた指輪が入っていた。

「まぁ。指輪!!」

「これは本物の愛だ」

「じゃあ、エマヌエラに渡した指輪の宝石はニセだったの?」

「いや……ニセでは無かったな。ニセものをあげると、貴族のプライドはズタズタだからな」

マーニャは鼻の先にまで来てしまったメガネを持ち上げた。

「そうですわね。でも、婚約した当初から私と交際していたんですよね?」

「そうだ。だけど、貴族のプライドだし、婚約は建前。だから、それ相応に高価な指輪は渡した。まぁ、今頃売っ払っているだろうけど」

「そうですわね」


コンコン。

「ああ」

「失礼いたします」

小柄なメイドが部屋にやって来た。


「これ、お召し上がり下さい」

二人が大好きなブラックコーヒーにケーキ。

「ああ、ありがとよ」

「ありがとうございますわ」


「では、失礼致しました」

メイドはそう言って頭を下げ、踵を返した。


「美味しそうですわね」

「ああ、これは旨いよ。輸入もののコーヒーだけど、捨てたもんじゃない」

マーニャはコーヒーを啜った。

ほどよい香りが口の中に広がる。


「うーん、美味しい」

「葉巻にコーヒー。口臭としては最悪の組み合わせだけど、マーニャの口臭だけはまるで桃の香りだ」

「うはっ♡ジョフレイ様ってば」

口臭まで受け入れてくれるとは。

マーニャは続けた。

「ねぇーえ、ジョフレイ様」

「なんだい?」

「浮気……しないわよね」

マーニャはお腹を触りながら言った。

「するわけないじゃないか! マーニャのお腹の中にいるのは俺の子。だから、浮気をするわけにはいかないよ」

「でも、エマヌエラとはあっさりと婚約破棄したわよね?」

「あの女は別さ。だって、家同士で決められた結婚だ。本気で愛するわけないだろう?」

「そうでしたのね」

「あー、そうだ。父上も俺の意志を尊重してくれなかった。これが政略結婚の闇さ」


ジョフレイはお腹を触ってきた。

「お腹の中の子、男の子だと思うかい? 女の子だと思うかい?」

「ジョフレイ様はどちらがよろしくて?」

「俺は勿論、女の子さ。マーニャそっくりの女の子だな。マーニャはどちらが良いんだい?」

「私はジョフレイ様そっくりの男の子よ」

「そうだな。我がローレンシア家は男系男子が継承者だからな。そして、医者としての後釜も必要だろ?」

「そうですわね。だったら、男子と女子、両方産めば良いんですわ」

ジョフレイは王室に仕える医師。

外科手術が得意な医師なのだ。


「それにしても、エマヌエラ」

「うん」

「あの女は金が目当てだったんだろうな。男爵令嬢だ。男爵令嬢からすれば侯爵との結婚なんて玉の輿に近いからな」

「玉の輿!?」

「ああ。俺という人間に食いついて金を貪り取ろうとしていたんだ。三毒の強い女だった」

「でも、私は子爵令嬢。下位貴族には変わりありませんわ」

「マーニャ、お前だけは別だ」

「本当に?」

「ああ」


マーニャとジョフレイとの馴れ初めは王室が主催する茶会だった。

茶会だけは下位貴族も招かれた。

勿論、その茶会にはエマヌエラも招待されていたようだが、エマヌエラは体調を崩していて、欠席していた。


マーニャは王宮にて足を滑らし、階段から滑落した。

そこに、ジョフレイがいたのだ。

ジョフレイはやさしい言葉をかけてきてくれた。

マーニャはその時に、ジョフレイの事が気になるようになった。


かれこれ3年前の出来事だった。

その時から、既にエマヌエラと婚約が成立していた。


マーニャは葉巻を吸い、煙を吐き出した。

煙は白く濁ったがすぐに空気に溶け込んで透明になった。


「俺はエマヌエラと婚約が決まってはいた。だけど、お前を離す事ができなかった」

「ですわよね」


「それにしても、マーニャ」

「はい」

「禁煙しなくて良いのか?」

妊娠している時に喫煙は良くないと聞いていたが、マーニャは葉巻をやめる事ができなかった。


「何度もチャレンジしていますが、やめられません」

「だよな。子供はきっと丈夫だ。葉巻き位で障害を持つとは思えない」

ジョフレイもまた葉巻きを吸い、勢いよく煙を吐き出した。


マーニャは葉巻を灰皿に置き、ケーキを食べ始めた。


「ああ、そのケーキはな、メイドたちが作ってくれた旨いケーキだ。お前、甘党だろ?」

マーニャは自他共に認める甘党だ。

甘いものには目がなくて、カントン家にいたときからケーキはよく食べていた。

「そうですわ。私は甘党ですわよ」


「お前は甘いものをいっくら食べても太らない。そこもまた魅力だよな」

マーニャは甘いものどころか、食べ物自体食べても太らない。

ストレス食いも常日頃からしている。

夜食もしている。

寝付きの悪い夜は毎晩夜食をしていた。


そうでなくとも、寝付きは悪い。

夜食をしないと徹夜確定。

それをわかっていたので、夜食をしていたのだ。

「私も自分の身体が不思議で仕方ありませんわ。きっと日頃の行いが良いからなんですわよね」

「そうだな」


マーニャはジョフレイと婚約ができた事自体が奇跡だと思っている。

子爵令嬢ともなれば、平民と結婚する事も稀ではないからだ。


「ジョフレイ様。あなたに拾っていただいてくれて本当に嬉しいですわ」

「ああ。お前みたいな良い女を平民に渡すわけには行かないからな」

ジョフレイは再びマーニャのお腹を触った。


「きっとお腹の中の子は私に似た女の子ね。そうよね?」

お腹の中の子供に話しかけた。


「名前はイルダにしよう」

「イルダ? 良いですわね」

マーニャは笑顔を見せた。

それに反応するかのようにジョフレイも笑顔を見せた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私をはめた妹、私を切り捨てた元婚約者の王子――私を貶めた者たちは皆新たな時代に達するまで生き延びられませんでした。

四季
恋愛
私をはめた妹、私を切り捨てた元婚約者の王子――私を貶めた者たちは皆新たな時代に達するまで生き延びられませんでした。

美しい貴族の令嬢である婚約者を捨てた愚かな王子の末路は……。

四季
恋愛
美しい貴族の令嬢である婚約者を捨てた愚かな王子の末路は……とんでもないものでした。

とある公爵令嬢の復讐劇~婚約破棄の代償は高いですよ?~

tartan321
恋愛
「王子様、婚約破棄するのですか?ええ、私は大丈夫ですよ。ですが……覚悟はできているんですね?」 私はちゃんと忠告しました。だから、悪くないもん!復讐します!

【完結】婚約破棄した王子と男爵令嬢のその後……は幸せ?……な訳ない!

たろ
恋愛
「エリザベス、君との婚約を破棄する」 「どうしてそんな事を言うのですか?わたしが何をしたと言うのでしょう」 「君は僕の愛するイライザに対して嫌がらせをしただろう、そんな意地の悪い君のことは愛せないし結婚など出来ない」 「……愛せない……わかりました。殿下……の言葉を……受け入れます」 なんで君がそんな悲しそうな顔をするんだ? この話は婚約破棄をして、父親である陛下に嘘で固めて公爵令嬢のエリザベスを貶めたと怒られて 「そんなにその男爵令嬢が好きなら王族をやめて男爵に婿に行け」と言われ、廃嫡される王子のその後のお話です。 頭脳明晰、眉目秀麗、みんなが振り向くかっこいい殿下……なのにエリザベスの前では残念な男。 ★軽い感じのお話です そして、殿下がひたすら残念です 広ーい気持ちで読んでいただけたらと思います

婚約者が幼馴染のことが好きだとか言い出しました

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のテレーズは学園内で第6王子殿下のビスタに振られてしまった。 その理由は彼が幼馴染と結婚したいと言い出したからだ。 ビスタはテレーズと別れる為に最悪の嫌がらせを彼女に仕出かすのだが……。

婚約破棄ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私ローゼリア・シャーロックは伯爵家令嬢です。幼少の頃に母を亡くし、後妻の連れ子、義理の妹に婚約者を寝取られました。婚約者破棄ですか?畏まりました。それならば、婚約時の条件は破棄させて頂きますね?え?義理の妹と結婚するから条件は続行ですか?バカですか?お花畑ですか?まあ、色々落ち着いたら領地で特産品を売り出しましょう! ローゼリアは婚約破棄からの大逆転を狙います。

縁の切れ目が金の切れ目、今更よりを戻したいと言ってももうお遅いですよ? もちろん婚約破棄の慰謝料はきちんと払っていただきます!

日々埋没。
恋愛
「他に女ができたからお前とはもう別れる! 相手は伯爵令嬢で貴族の妻にふさわしい女性だ! 平民のお前は実家に帰って俺に支払う慰謝料の準備をしておくんだな!」  テナス商会の娘メリエッダは、男爵貴族のダズから婚約者の乗り換え目的で婚約破棄をされる。  その上、真実の愛に目覚めたという理由で慰謝料まで貰えると信じていたのだが……。 「なにか勘違いをされているようですが、今回の件で慰謝料をお支払いになるのはダズ様の方ですよ?」 「ええいもういい! 口を開けば金金と金に汚い奴め、そんなに金がほしいのならくれてやる! 金にがめつい女への手切れ金と思えば安いものだ!」  しかし没落寸前のダズの家はテナス商会から多額の資金援助を受けており、娘を小間使いのようにこき使われたメリエッダの父親は大激怒、その援助を打ち切る。  資金難に陥ったダズはお家断絶に焦り、慰謝料を含めて金を貸してほしいと伯爵令嬢に泣きついて醜態を晒してしまうが、彼女との出会いに隠された真実と自分を取り巻く現実を知った時にはもう遅かった。  一方メリエッダはかつての知人と再開し、新たな恋と幸せを見つけていく……。  ※他サイトでも公開しています。

浮気で得た「本当の愛」は、簡単に散る仮初のものだったようです。

八代奏多
恋愛
「本当の愛を見つけたから、婚約を破棄する」  浮気をしている婚約者にそう言われて、侯爵令嬢のリーシャは内心で微笑んだ。  浮気男と離れられるのを今か今かと待っていたから。  世間体を気にした元婚約者も浮気相手も、リーシャを悪者にしようとしているが、それは上手くいかず……。  浮気したお馬鹿さん達が破滅へと向かうお話。

処理中です...