婚約破棄したら悪役令嬢の妹に転生していたことを知る。ヒロインに婚約者を差し上げたら、この国の第一王子から求愛されました。

hikari

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応接間の中は薄暗い。

外は今もなお雪が降り続いている。

いつも通りの吹雪。

部屋の隅には暖炉があり炎が火の粉を上げ、ゆらめいている。

そのお陰もあってか、部屋は暖かい。


目の前には大理石でできたテーブルがある。

部屋の天井には豪勢なシャンデリアがぶら下がっている。

革張りの椅子に父のヨシュアと母のマリアがいる。


ヨシュアは今日はたまたま仕事が休みだ。

いつもは王宮に侍医として仕えているため、家を留守にしている。


母マリアは元聖女。

かつては王室に聖女として仕え、ヨシュアの助手をしていた。


肩までの長さの赤い髪をオールバックにし、太い赤い眉毛に赤い瞳、分厚い唇で立派な顎ヒゲを蓄え、小麦色の肌。

恰幅が良く、背が高い分横もそれなりにある。

この男こそが父のヨシュアだ。


その横には桃色の髪を後ろでお団子にし、エメラルド色の瞳に下唇だけ分厚く、透き通るような白い肌、ヨシュアとは違って細身の体型。

耳にはダイアのピアスがはめ込まれている。

その人物こそ、母親のマリアだ。


フィリッパの赤い髪に赤い瞳、背が高いのは父親譲り。

透き通るような白い肌、細身の体型は母親似。

背が高いのはある種、コンプレックスになっている。

世の王侯貴族の男性たちよりも背が高いのだ。


(この人方が悪役令嬢ベアトリスの両親なね)

『夢は叶うあの人との恋』の原作では勿論、ベアトリスの両親は出てこない。

この感じもなんとなく、ちゃーさんのイラストを模したような描写になっている。


なんとなく、雰囲気は重い。

それもそうだ。

マジョ家、オゴール家両家で決められた婚約を破棄をしたからだ。

勿論、ヨシュアの顔に泥を塗るような行為をしたのだ。

アントニオに落ち度があったとしても。


でも、ある意味仕方がない。

なぜなら、アントニオは攻略対象者なのだから。

そう。シモーネがアントニオを攻略しただけなのだ。

ただ、原作ではベアトリスに妹がいることはおろか、その妹がアントニオと婚約している……という話は一切出てこない。


もはや、原作を逸脱した世界なのだ。

だから、多少なりの齟齬があってもおかしくはない。


「どうしたんだね、フィリッパ。私に話があるとは」

「はい。そのことについてですが」


「ふむ」

ヨシュアはパイプを取り出し、火をつけた。

そして、けむりをくゆらせている。


「お父様、申し訳ございません!!」

フィリッパは土下座をした。

額に冷たい床が当たる。

「申し訳ない……とは? 何かあったのかね?」

ヨシュアは至って冷静だ。

「実は……わたくしの左手を見ておわかりの通り……アントニオ様と」

そう言ってフィリッパはソファに腰掛け、左腕を高々と挙げた。

左手薬指に指輪は無い。


「アントニオと何かあったのかね?」

「婚約を……破棄してしまいました」


「何?」

ヨシュアは片眉を上げた。

雷が落ちる!!

フィリッパは息を飲んだ。

「も、申し訳ありません!!」

「なぜそうなったの、フィリッパ。怒らないから話してごらんなさい」

隣に座っているマリアが口を開いた。

「何か心変わりがあったのかね?」

それでも冷静を装うヨシュア。

「はい。信じていただけるかわかりませんが、アントニオ様はシモーネと恋仲になってしまったんです」


「何だと!?」

ついにヨシュアがキレた。

ヨシュアは続けた。

「アントニオ! なぜだ。なぜ両家の絆を絶とうとしているのか!!」

「そうね。これは完全にアントニオ様に責任がありますわ」


両親はアントニオに非があることを信じてくれた。

「それに、シモーネもシモーネだな」

ヨシュアは深くため息を吐いた。

「シモーネがアントニオ様に浮気なんて……わたくしも信じられないです。シモーネはわたくしとアントニオ様が婚約している事は知っている筈です」

そう。アントニオとフィリッパの結婚は国をあげて祝福された。

侯爵以上の高貴貴族になると、国をあげて祝福されるのだ。

だから、シモーネがフィリッパとアントニオが婚約していることを知らないわけがないのだ。

もっとも、原作ではそんな話は出てはこないが。


「そうだよな。女王様公認の夫婦になる筈だった。それはアントニオもシモーネもしっている筈だがな」

ヨシュアはパイプを口に運んだ。


「それにしても酷いわ、シモーネ。スターマー公は勿論それを知っているのかしら?」

「たぶん、知らないと思いますわ、お母様」

「女王様にはどう顔向けするつもりなのかしら、あの子」


婚約を破棄したということは、また一からやり直しだ。

せめてもの救いは結婚前の儀式を一通りしなかった事だ。


この国の貴族は結婚前になると、儀式を行う。

女王様に挨拶に行くこと。

まず、両家でパーティを行うこと。

そして、両家のお墓参りに行くこと。

これは行った。


川にお清めにいったり、森の精霊たちに永遠の愛を誓いに行くこと。

これはまだだった。

これらの儀式は未完了だった。


「また一から儀式のやり直しだな。ま、川に行ったり、森の精霊への挨拶がなかっただけ助かったものだ」

ヨシュアは組んだ足を替えた。


「それにしても……。わたくしたちを裏切ったならまだわかりますわ。でも、マジョ家の祖先達も裏切ったのよ。罪は重いわね」

「そうだな。結婚は家同士の繋がりになるからな」


とはいえ、政略結婚だから、お互いの意思は尊重されない。

全く以て度外視されている。

不本意だが、それが王侯貴族として生まれた宿命なのだ。

勿論、ヨシュアとマリアも政略結婚だった。


ちなみに、ベアトリスはマジョ家の後継者になるためか、婚約者が決められていない。

心底羨ましかった。

とはいえ、アントニオとは直ぐに打ち解けた。

アントニオはよく、海釣りをしていた。

フィリッパは料理が大好き。

アントニオが釣り上げた魚を捌き、料理を作っていた。

料理が好きなのは前世譲りか? とも思ったくらい。


そして、フィリッパとアントニオはいつの間にか恋仲になっていた。

キスもしていた。

だが、結婚前なので、夜の営みだけはしていない。

行為をするのは結婚後と決められているのだ。

もっとも、その掟を破ってできちゃった結婚をする夫婦もいるが……。


「まあ……仕方がないな。お前に魅力が無かったんだよな」

(確かに魅力なんかないわ! だって、背が異常な程高いのだから)

ヨシュアは諦めたようだ。


これで、肩の荷が降りた。

フィリッパはホッと胸を撫で下ろした。
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