4 / 14
報告へ
しおりを挟む
応接間の中は薄暗い。
外は今もなお雪が降り続いている。
いつも通りの吹雪。
部屋の隅には暖炉があり炎が火の粉を上げ、ゆらめいている。
そのお陰もあってか、部屋は暖かい。
目の前には大理石でできたテーブルがある。
部屋の天井には豪勢なシャンデリアがぶら下がっている。
革張りの椅子に父のヨシュアと母のマリアがいる。
ヨシュアは今日はたまたま仕事が休みだ。
いつもは王宮に侍医として仕えているため、家を留守にしている。
母マリアは元聖女。
かつては王室に聖女として仕え、ヨシュアの助手をしていた。
肩までの長さの赤い髪をオールバックにし、太い赤い眉毛に赤い瞳、分厚い唇で立派な顎ヒゲを蓄え、小麦色の肌。
恰幅が良く、背が高い分横もそれなりにある。
この男こそが父のヨシュアだ。
その横には桃色の髪を後ろでお団子にし、エメラルド色の瞳に下唇だけ分厚く、透き通るような白い肌、ヨシュアとは違って細身の体型。
耳にはダイアのピアスがはめ込まれている。
その人物こそ、母親のマリアだ。
フィリッパの赤い髪に赤い瞳、背が高いのは父親譲り。
透き通るような白い肌、細身の体型は母親似。
背が高いのはある種、コンプレックスになっている。
世の王侯貴族の男性たちよりも背が高いのだ。
(この人方が悪役令嬢ベアトリスの両親なね)
『夢は叶うあの人との恋』の原作では勿論、ベアトリスの両親は出てこない。
この感じもなんとなく、ちゃーさんのイラストを模したような描写になっている。
なんとなく、雰囲気は重い。
それもそうだ。
マジョ家、オゴール家両家で決められた婚約を破棄をしたからだ。
勿論、ヨシュアの顔に泥を塗るような行為をしたのだ。
アントニオに落ち度があったとしても。
でも、ある意味仕方がない。
なぜなら、アントニオは攻略対象者なのだから。
そう。シモーネがアントニオを攻略しただけなのだ。
ただ、原作ではベアトリスに妹がいることはおろか、その妹がアントニオと婚約している……という話は一切出てこない。
もはや、原作を逸脱した世界なのだ。
だから、多少なりの齟齬があってもおかしくはない。
「どうしたんだね、フィリッパ。私に話があるとは」
「はい。そのことについてですが」
「ふむ」
ヨシュアはパイプを取り出し、火をつけた。
そして、けむりをくゆらせている。
「お父様、申し訳ございません!!」
フィリッパは土下座をした。
額に冷たい床が当たる。
「申し訳ない……とは? 何かあったのかね?」
ヨシュアは至って冷静だ。
「実は……わたくしの左手を見ておわかりの通り……アントニオ様と」
そう言ってフィリッパはソファに腰掛け、左腕を高々と挙げた。
左手薬指に指輪は無い。
「アントニオと何かあったのかね?」
「婚約を……破棄してしまいました」
「何?」
ヨシュアは片眉を上げた。
雷が落ちる!!
フィリッパは息を飲んだ。
「も、申し訳ありません!!」
「なぜそうなったの、フィリッパ。怒らないから話してごらんなさい」
隣に座っているマリアが口を開いた。
「何か心変わりがあったのかね?」
それでも冷静を装うヨシュア。
「はい。信じていただけるかわかりませんが、アントニオ様はシモーネと恋仲になってしまったんです」
「何だと!?」
ついにヨシュアがキレた。
ヨシュアは続けた。
「アントニオ! なぜだ。なぜ両家の絆を絶とうとしているのか!!」
「そうね。これは完全にアントニオ様に責任がありますわ」
両親はアントニオに非があることを信じてくれた。
「それに、シモーネもシモーネだな」
ヨシュアは深くため息を吐いた。
「シモーネがアントニオ様に浮気なんて……わたくしも信じられないです。シモーネはわたくしとアントニオ様が婚約している事は知っている筈です」
そう。アントニオとフィリッパの結婚は国をあげて祝福された。
侯爵以上の高貴貴族になると、国をあげて祝福されるのだ。
だから、シモーネがフィリッパとアントニオが婚約していることを知らないわけがないのだ。
もっとも、原作ではそんな話は出てはこないが。
「そうだよな。女王様公認の夫婦になる筈だった。それはアントニオもシモーネもしっている筈だがな」
ヨシュアはパイプを口に運んだ。
「それにしても酷いわ、シモーネ。スターマー公は勿論それを知っているのかしら?」
「たぶん、知らないと思いますわ、お母様」
「女王様にはどう顔向けするつもりなのかしら、あの子」
婚約を破棄したということは、また一からやり直しだ。
せめてもの救いは結婚前の儀式を一通りしなかった事だ。
この国の貴族は結婚前になると、儀式を行う。
女王様に挨拶に行くこと。
まず、両家でパーティを行うこと。
そして、両家のお墓参りに行くこと。
これは行った。
川にお清めにいったり、森の精霊たちに永遠の愛を誓いに行くこと。
これはまだだった。
これらの儀式は未完了だった。
「また一から儀式のやり直しだな。ま、川に行ったり、森の精霊への挨拶がなかっただけ助かったものだ」
ヨシュアは組んだ足を替えた。
「それにしても……。わたくしたちを裏切ったならまだわかりますわ。でも、マジョ家の祖先達も裏切ったのよ。罪は重いわね」
「そうだな。結婚は家同士の繋がりになるからな」
とはいえ、政略結婚だから、お互いの意思は尊重されない。
全く以て度外視されている。
不本意だが、それが王侯貴族として生まれた宿命なのだ。
勿論、ヨシュアとマリアも政略結婚だった。
ちなみに、ベアトリスはマジョ家の後継者になるためか、婚約者が決められていない。
心底羨ましかった。
とはいえ、アントニオとは直ぐに打ち解けた。
アントニオはよく、海釣りをしていた。
フィリッパは料理が大好き。
アントニオが釣り上げた魚を捌き、料理を作っていた。
料理が好きなのは前世譲りか? とも思ったくらい。
そして、フィリッパとアントニオはいつの間にか恋仲になっていた。
キスもしていた。
だが、結婚前なので、夜の営みだけはしていない。
行為をするのは結婚後と決められているのだ。
もっとも、その掟を破ってできちゃった結婚をする夫婦もいるが……。
「まあ……仕方がないな。お前に魅力が無かったんだよな」
(確かに魅力なんかないわ! だって、背が異常な程高いのだから)
ヨシュアは諦めたようだ。
これで、肩の荷が降りた。
フィリッパはホッと胸を撫で下ろした。
外は今もなお雪が降り続いている。
いつも通りの吹雪。
部屋の隅には暖炉があり炎が火の粉を上げ、ゆらめいている。
そのお陰もあってか、部屋は暖かい。
目の前には大理石でできたテーブルがある。
部屋の天井には豪勢なシャンデリアがぶら下がっている。
革張りの椅子に父のヨシュアと母のマリアがいる。
ヨシュアは今日はたまたま仕事が休みだ。
いつもは王宮に侍医として仕えているため、家を留守にしている。
母マリアは元聖女。
かつては王室に聖女として仕え、ヨシュアの助手をしていた。
肩までの長さの赤い髪をオールバックにし、太い赤い眉毛に赤い瞳、分厚い唇で立派な顎ヒゲを蓄え、小麦色の肌。
恰幅が良く、背が高い分横もそれなりにある。
この男こそが父のヨシュアだ。
その横には桃色の髪を後ろでお団子にし、エメラルド色の瞳に下唇だけ分厚く、透き通るような白い肌、ヨシュアとは違って細身の体型。
耳にはダイアのピアスがはめ込まれている。
その人物こそ、母親のマリアだ。
フィリッパの赤い髪に赤い瞳、背が高いのは父親譲り。
透き通るような白い肌、細身の体型は母親似。
背が高いのはある種、コンプレックスになっている。
世の王侯貴族の男性たちよりも背が高いのだ。
(この人方が悪役令嬢ベアトリスの両親なね)
『夢は叶うあの人との恋』の原作では勿論、ベアトリスの両親は出てこない。
この感じもなんとなく、ちゃーさんのイラストを模したような描写になっている。
なんとなく、雰囲気は重い。
それもそうだ。
マジョ家、オゴール家両家で決められた婚約を破棄をしたからだ。
勿論、ヨシュアの顔に泥を塗るような行為をしたのだ。
アントニオに落ち度があったとしても。
でも、ある意味仕方がない。
なぜなら、アントニオは攻略対象者なのだから。
そう。シモーネがアントニオを攻略しただけなのだ。
ただ、原作ではベアトリスに妹がいることはおろか、その妹がアントニオと婚約している……という話は一切出てこない。
もはや、原作を逸脱した世界なのだ。
だから、多少なりの齟齬があってもおかしくはない。
「どうしたんだね、フィリッパ。私に話があるとは」
「はい。そのことについてですが」
「ふむ」
ヨシュアはパイプを取り出し、火をつけた。
そして、けむりをくゆらせている。
「お父様、申し訳ございません!!」
フィリッパは土下座をした。
額に冷たい床が当たる。
「申し訳ない……とは? 何かあったのかね?」
ヨシュアは至って冷静だ。
「実は……わたくしの左手を見ておわかりの通り……アントニオ様と」
そう言ってフィリッパはソファに腰掛け、左腕を高々と挙げた。
左手薬指に指輪は無い。
「アントニオと何かあったのかね?」
「婚約を……破棄してしまいました」
「何?」
ヨシュアは片眉を上げた。
雷が落ちる!!
フィリッパは息を飲んだ。
「も、申し訳ありません!!」
「なぜそうなったの、フィリッパ。怒らないから話してごらんなさい」
隣に座っているマリアが口を開いた。
「何か心変わりがあったのかね?」
それでも冷静を装うヨシュア。
「はい。信じていただけるかわかりませんが、アントニオ様はシモーネと恋仲になってしまったんです」
「何だと!?」
ついにヨシュアがキレた。
ヨシュアは続けた。
「アントニオ! なぜだ。なぜ両家の絆を絶とうとしているのか!!」
「そうね。これは完全にアントニオ様に責任がありますわ」
両親はアントニオに非があることを信じてくれた。
「それに、シモーネもシモーネだな」
ヨシュアは深くため息を吐いた。
「シモーネがアントニオ様に浮気なんて……わたくしも信じられないです。シモーネはわたくしとアントニオ様が婚約している事は知っている筈です」
そう。アントニオとフィリッパの結婚は国をあげて祝福された。
侯爵以上の高貴貴族になると、国をあげて祝福されるのだ。
だから、シモーネがフィリッパとアントニオが婚約していることを知らないわけがないのだ。
もっとも、原作ではそんな話は出てはこないが。
「そうだよな。女王様公認の夫婦になる筈だった。それはアントニオもシモーネもしっている筈だがな」
ヨシュアはパイプを口に運んだ。
「それにしても酷いわ、シモーネ。スターマー公は勿論それを知っているのかしら?」
「たぶん、知らないと思いますわ、お母様」
「女王様にはどう顔向けするつもりなのかしら、あの子」
婚約を破棄したということは、また一からやり直しだ。
せめてもの救いは結婚前の儀式を一通りしなかった事だ。
この国の貴族は結婚前になると、儀式を行う。
女王様に挨拶に行くこと。
まず、両家でパーティを行うこと。
そして、両家のお墓参りに行くこと。
これは行った。
川にお清めにいったり、森の精霊たちに永遠の愛を誓いに行くこと。
これはまだだった。
これらの儀式は未完了だった。
「また一から儀式のやり直しだな。ま、川に行ったり、森の精霊への挨拶がなかっただけ助かったものだ」
ヨシュアは組んだ足を替えた。
「それにしても……。わたくしたちを裏切ったならまだわかりますわ。でも、マジョ家の祖先達も裏切ったのよ。罪は重いわね」
「そうだな。結婚は家同士の繋がりになるからな」
とはいえ、政略結婚だから、お互いの意思は尊重されない。
全く以て度外視されている。
不本意だが、それが王侯貴族として生まれた宿命なのだ。
勿論、ヨシュアとマリアも政略結婚だった。
ちなみに、ベアトリスはマジョ家の後継者になるためか、婚約者が決められていない。
心底羨ましかった。
とはいえ、アントニオとは直ぐに打ち解けた。
アントニオはよく、海釣りをしていた。
フィリッパは料理が大好き。
アントニオが釣り上げた魚を捌き、料理を作っていた。
料理が好きなのは前世譲りか? とも思ったくらい。
そして、フィリッパとアントニオはいつの間にか恋仲になっていた。
キスもしていた。
だが、結婚前なので、夜の営みだけはしていない。
行為をするのは結婚後と決められているのだ。
もっとも、その掟を破ってできちゃった結婚をする夫婦もいるが……。
「まあ……仕方がないな。お前に魅力が無かったんだよな」
(確かに魅力なんかないわ! だって、背が異常な程高いのだから)
ヨシュアは諦めたようだ。
これで、肩の荷が降りた。
フィリッパはホッと胸を撫で下ろした。
6
あなたにおすすめの小説
友達にいいように使われていた私ですが、王太子に愛され幸せを掴みました
麻宮デコ@SS短編
恋愛
トリシャはこだわらない性格のおっとりした貴族令嬢。
友人マリエールは「友達だよね」とトリシャをいいように使い、トリシャが自分以外の友人を作らないよう孤立すらさせるワガママな令嬢だった。
マリエールは自分の恋を実らせるためにトリシャに無茶なお願いをするのだが――…。
断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった
Blue
恋愛
王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。
「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」
シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。
アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。
妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます
tartan321
恋愛
最後の結末は??????
本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。
【完結】「第一王子に婚約破棄されましたが平気です。私を大切にしてくださる男爵様に一途に愛されて幸せに暮らしますので」
まほりろ
恋愛
学園の食堂で第一王子に冤罪をかけられ、婚約破棄と国外追放を命じられた。
食堂にはクラスメイトも生徒会の仲間も先生もいた。
だが面倒なことに関わりたくないのか、皆見てみぬふりをしている。
誰か……誰か一人でもいい、私の味方になってくれたら……。
そんなとき颯爽?と私の前に現れたのは、ボサボサ頭に瓶底眼鏡のひょろひょろの男爵だった。
彼が私を守ってくれるの?
※ヒーローは最初弱くてかっこ悪いですが、回を重ねるごとに強くかっこよくなっていきます。
※ざまぁ有り、死ネタ有り
※他サイトにも投稿予定。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう
さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」
殿下にそう告げられる
「応援いたします」
だって真実の愛ですのよ?
見つける方が奇跡です!
婚約破棄の書類ご用意いたします。
わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。
さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます!
なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか…
私の真実の愛とは誠の愛であったのか…
気の迷いであったのでは…
葛藤するが、すでに時遅し…
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
偽りの婚姻
迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。
終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。
夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。
パーシヴァルは妻を探す。
妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。
だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。
婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる