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それぞれの結末
上條陸のキモチ
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凌平のヤキモチを感じたから、俺は部屋から結斗の日記を持ってきた。
俺は、陸に結斗の日記を読んでもらった。
沸々と沸き上がる感情が抑えられなくなる。
震えながら、結斗を抱き締めていた。
結斗のあいつへの思いを知りたくなかった。
何を書いてるかわからなかったけど…。
あの日の結斗のご両親の話が、輪郭をなぞるように現れた。
それは、まるでカメラのピントがさっと合うような感覚だった。
【結斗は、強姦されたんです。身体中に、それが付着していたようでね。口の中も、そこも…。口の中や身体は、治療をする為にお医者さんが綺麗にしてくれたんだけど…。そこもしてあげたかったから、綺麗に…。洗浄してくれるってのがわかってやってもらえたんだ。でもね、上條君。顔の腫れだけは、無理だったね】
もう、心が握りつぶされる痛みだった。
俺が、綺麗にしてあげたかった。
身体中に、付着していた。
俺は、震えながら凌平にしがみついていた。
苦しくて、壊れると言った。
泣き叫んで、泣き叫んで、頭の中が黒に染まっていきそうになったのをとめたのは凌平だった。
後ろから、凌平は優しく抱き締めてくれていた。
「ごめんね、もう大丈夫だよ」
「何かあったの?」
凌平は、俺を心配そうに覗き込んだ。
「結斗は、犯人の体液にまみれていた。身体中、口の中も…。俺は、綺麗にしてあげられなかった。きっと、最後の瞬間だって望んだんだよ。陸って…。名を呼んで、身体中を綺麗にされたかったんだよ。」
「陸」
凌平は、泣きながら俺に抱きついてくれる。
「先に進みたい。でも、怖いんだ。凄く、怖いんだ。でも、結斗みたいに、凌平が誰かにそんな風にされて。俺を知らないままなのは、もっと嫌なんだ」
涙が、とめられない。
捻り出したシャワーのように、頬を大量の水が流れ落ちる。
「陸、ゆっくりでいいから」
俺の両頬に、凌平は手を当ててくれる。
涙を優しく拭ってくれる。
「止まらないんだね、陸」
「ごめんね、凌平」
レバーが、こわれた蛇口のようにただずっと水が流れ続ける。
凌平を愛していて、先に進みたいのに…。
結斗の汚れを綺麗に出来なかった自分の身体で凌平を抱く事に恐怖を感じる。
そして、凌平に違うと言われたらと思うと、それも怖くて仕方なくて…。
「凌平、怖いんだ」
俺は、手を震わせながら凌平の頬に触れた。
凌平は、その手を優しく包み込むように握りしめてくれる。
「陸、ゆっくりでいいんだ。ヤキモチを妬いたから、焦っていたんだよ。僕に見せない顔を、一ノ瀬さんや円香さんにしてたから…。」
「こんな弱い俺を見せてるのは、凌平にだけだよ。」
俺は、泣きながら微笑んだ。
「わかってるのに、わかってるんだよ。ちゃんと陸は、僕を愛してるって。なのに、不安になったんだよ。愛してるだって、好きだって、言ってくれてるし。心だって、僕の形になってくれてる。わかってるのに、わかってるのに、ヤキモチがとまらないんだ。」
そう言って、凌平が泣いた。
「一つになったら、解決するわけじゃないね」
「解決するって、思ってた。」
「凌平、そうじゃないと思う」
凌平は、俺と同じなんだ。
それなら、きちんと言葉にしなくちゃいけない気がする。
「凌平、俺。凌平と肌を重ねて、いらないって言われるのが怖い。あの日、結斗を綺麗に出来なかった自分が凌平を抱くのが怖い。凌平を失ったら生きて行けない。凌平が、いなきゃ生きて行けない。だから、怖いんだ。大切にしたい気持ちが膨らめば膨らむ程、失うのが怖いんだ。」
凌平も、同じように泣いてる。
「陸、僕なら怪しまれずにそいつに近づいて殺せると思うんだ。」
「えっ?」
「だって、陸はずっとそうしたかったんでしょ?僕には、本当の気持ちを言っていいんだよ。医者だからなんて関係ないよ。今だって、そう思ったんでしょ?」
凌平の言葉に、心の中の真っ黒な泥々した塊に、光があたったのを感じた。
「凌平、俺。ずっと、あいつを殺したかったんだよ」
たくさんの命を救ってきたこの手で、もうそんな事は考えないって決めていた。
だけど、本当は俺は…
ずっと、ずっと、あいつを殺したくて、堪らなくて…。
見ないようにしていた。
それは、心の隅で真っ黒な岩のような塊になっていて、触れるとスライムのように柔らかくアメーバのようにネバネバと纏わりつく。
そんな感覚が、全身に広がっていく。
「そうだよ。陸は、ずっと殺したかったんだよ。お医者さんだからって関係ない。許せないものは、許せないんだよ。僕なら、怪しまれずにそいつに近づいてやれるよ。陸だって言ってくれたでしょ?スマートに殺せるよって。だったら、僕も代わりにしてあげるから」
そう言ってくれた、凌平の両手を握りしめる。
「凌平、ありがとう。愛してるよ。キスしていいかな?」
「うん」
「凌平のこの両手も、俺のこの両手も、誰かを傷つけるのはやめよう。だから、ゆっくり進んで行きたい。いつか、凌平の全部を俺にしたい。俺の全部を凌平にして欲しい。」
「うん、わかった。愛してるよ。陸」
「俺もだよ、凌平」
俺は、ゆっくりと凌平にキスをした。
前よりも、深く、熱く、ダイレクトに流れ込む凌平の温もりを感じる。
幸せで、幸せで、堪らない。
どうか、このままずっと一緒にいたい。
愛してる、ずっとずっと、凌平【陸】と一緒にいたい。
俺達の心の形は、もっともっとお互いの形に変わっていく。
ゆっくり、ゆっくり、進んでいこう。
俺は、陸に結斗の日記を読んでもらった。
沸々と沸き上がる感情が抑えられなくなる。
震えながら、結斗を抱き締めていた。
結斗のあいつへの思いを知りたくなかった。
何を書いてるかわからなかったけど…。
あの日の結斗のご両親の話が、輪郭をなぞるように現れた。
それは、まるでカメラのピントがさっと合うような感覚だった。
【結斗は、強姦されたんです。身体中に、それが付着していたようでね。口の中も、そこも…。口の中や身体は、治療をする為にお医者さんが綺麗にしてくれたんだけど…。そこもしてあげたかったから、綺麗に…。洗浄してくれるってのがわかってやってもらえたんだ。でもね、上條君。顔の腫れだけは、無理だったね】
もう、心が握りつぶされる痛みだった。
俺が、綺麗にしてあげたかった。
身体中に、付着していた。
俺は、震えながら凌平にしがみついていた。
苦しくて、壊れると言った。
泣き叫んで、泣き叫んで、頭の中が黒に染まっていきそうになったのをとめたのは凌平だった。
後ろから、凌平は優しく抱き締めてくれていた。
「ごめんね、もう大丈夫だよ」
「何かあったの?」
凌平は、俺を心配そうに覗き込んだ。
「結斗は、犯人の体液にまみれていた。身体中、口の中も…。俺は、綺麗にしてあげられなかった。きっと、最後の瞬間だって望んだんだよ。陸って…。名を呼んで、身体中を綺麗にされたかったんだよ。」
「陸」
凌平は、泣きながら俺に抱きついてくれる。
「先に進みたい。でも、怖いんだ。凄く、怖いんだ。でも、結斗みたいに、凌平が誰かにそんな風にされて。俺を知らないままなのは、もっと嫌なんだ」
涙が、とめられない。
捻り出したシャワーのように、頬を大量の水が流れ落ちる。
「陸、ゆっくりでいいから」
俺の両頬に、凌平は手を当ててくれる。
涙を優しく拭ってくれる。
「止まらないんだね、陸」
「ごめんね、凌平」
レバーが、こわれた蛇口のようにただずっと水が流れ続ける。
凌平を愛していて、先に進みたいのに…。
結斗の汚れを綺麗に出来なかった自分の身体で凌平を抱く事に恐怖を感じる。
そして、凌平に違うと言われたらと思うと、それも怖くて仕方なくて…。
「凌平、怖いんだ」
俺は、手を震わせながら凌平の頬に触れた。
凌平は、その手を優しく包み込むように握りしめてくれる。
「陸、ゆっくりでいいんだ。ヤキモチを妬いたから、焦っていたんだよ。僕に見せない顔を、一ノ瀬さんや円香さんにしてたから…。」
「こんな弱い俺を見せてるのは、凌平にだけだよ。」
俺は、泣きながら微笑んだ。
「わかってるのに、わかってるんだよ。ちゃんと陸は、僕を愛してるって。なのに、不安になったんだよ。愛してるだって、好きだって、言ってくれてるし。心だって、僕の形になってくれてる。わかってるのに、わかってるのに、ヤキモチがとまらないんだ。」
そう言って、凌平が泣いた。
「一つになったら、解決するわけじゃないね」
「解決するって、思ってた。」
「凌平、そうじゃないと思う」
凌平は、俺と同じなんだ。
それなら、きちんと言葉にしなくちゃいけない気がする。
「凌平、俺。凌平と肌を重ねて、いらないって言われるのが怖い。あの日、結斗を綺麗に出来なかった自分が凌平を抱くのが怖い。凌平を失ったら生きて行けない。凌平が、いなきゃ生きて行けない。だから、怖いんだ。大切にしたい気持ちが膨らめば膨らむ程、失うのが怖いんだ。」
凌平も、同じように泣いてる。
「陸、僕なら怪しまれずにそいつに近づいて殺せると思うんだ。」
「えっ?」
「だって、陸はずっとそうしたかったんでしょ?僕には、本当の気持ちを言っていいんだよ。医者だからなんて関係ないよ。今だって、そう思ったんでしょ?」
凌平の言葉に、心の中の真っ黒な泥々した塊に、光があたったのを感じた。
「凌平、俺。ずっと、あいつを殺したかったんだよ」
たくさんの命を救ってきたこの手で、もうそんな事は考えないって決めていた。
だけど、本当は俺は…
ずっと、ずっと、あいつを殺したくて、堪らなくて…。
見ないようにしていた。
それは、心の隅で真っ黒な岩のような塊になっていて、触れるとスライムのように柔らかくアメーバのようにネバネバと纏わりつく。
そんな感覚が、全身に広がっていく。
「そうだよ。陸は、ずっと殺したかったんだよ。お医者さんだからって関係ない。許せないものは、許せないんだよ。僕なら、怪しまれずにそいつに近づいてやれるよ。陸だって言ってくれたでしょ?スマートに殺せるよって。だったら、僕も代わりにしてあげるから」
そう言ってくれた、凌平の両手を握りしめる。
「凌平、ありがとう。愛してるよ。キスしていいかな?」
「うん」
「凌平のこの両手も、俺のこの両手も、誰かを傷つけるのはやめよう。だから、ゆっくり進んで行きたい。いつか、凌平の全部を俺にしたい。俺の全部を凌平にして欲しい。」
「うん、わかった。愛してるよ。陸」
「俺もだよ、凌平」
俺は、ゆっくりと凌平にキスをした。
前よりも、深く、熱く、ダイレクトに流れ込む凌平の温もりを感じる。
幸せで、幸せで、堪らない。
どうか、このままずっと一緒にいたい。
愛してる、ずっとずっと、凌平【陸】と一緒にいたい。
俺達の心の形は、もっともっとお互いの形に変わっていく。
ゆっくり、ゆっくり、進んでいこう。
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