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それぞれの結末
浜井凌平のヤキモチ
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イチゴを迎えに行って、帰宅した。
「明日は、ゆっくりできるね。陸」
「うん、でも寂しいな。凌平は、休みじゃないから」
僕は、コーヒーを淹れに行く。
昨日、僕は上條陸の知らない顔を見せられた。
お医者さんとしての陸。
でも、僕が知るお医者さんとしての陸ではなくて、同僚だけが知っている顔だった。
一ノ瀬さんには、陸の事が理解できたのを感じた。
僕には、触れることの出来ない領域にいる気がしていた。
そして、いつもなら円香さんにヤキモチを妬かないのに…。
昨日の僕は、妬いてしまった。
上條陸の幼少期からの顔を見てしまったからだ。
この15年見てきた陸とは、まるで別人で気づくとヤキモチを妬いていた。
僕だけが、知らない陸を知りたかった。
「ねえー。しようよ」
僕は、コーヒーを持って陸の方に行った。
こんな風に、いい加減な気持ちで誘うと陸は嫌がるのを知ってる。
10年も一緒に住んでいたら、わかるのにわかってるのに…。
僕は、イチゴにもヤキモチを妬いていた。
「危ないよ、コーヒー」
そう言われて、テーブルにコーヒーカップを置いた。
五年前に、二人でたまたま入ったお店で一目惚れした高級マグカップ。
「イチゴばっかり、ズルいよ」
「ヤキモチ妬いてるの?」
そう言って、イチゴを触るのをやめて、僕の顎をよしよしと撫でてくる。
「そんなのいいから、しようよ」
こんな風に言われるのを、陸は嫌がるってわかってるくせにまた言ってしまった。
ほら、困った時にする顔をしてる。
唇を尖らせて、眉を寄せて右上を見てる。
「もういい」
「おっと、駄目だよ」
僕は、無理やりベルトをはずそうとした、陸は、立ち上がった。
ほら、やっぱりそうだったじゃない。
陸は、部屋に行ってしまった。
「イチゴぉぉぉ」
涙が、止まらない。
陸を失うのは、僕は耐えられないよ。
「何で、泣いてるの?」
陸は、僕の前に戻ってきた。
「ごめんなさい。もう、しないから…。陸が、嫌がる事をしないから」
「嫌がってなんかないよ」
陸は、そう言って僕の隣に座った。
「じゃあ、何でいなくなったの?」
「前に進みたいと思ったから、これを」
そう言って陸は、星空のノートを差し出した。
「これ、なに?」
「結斗の日記。まだ、全部読めてなくてね」
「どの部分を読みたいの?」
「俺と一つになった後の結斗の気持ちが知りたくて」
「僕も、読んでもいい?」
「声に出して、読んでくれる?」
「どうして?」
陸は、僕の髪の毛を優しく撫でてくれる。
「その声で、読んでもらいたい。大好きな凌平の声で、読んでもらいたい」
そう言って、笑ってくれる。
「読んでいい?陸」
「うん」
陸は、ペラペラとページを捲った。
「ここだね、はい」
そう言って、ノートを渡された。
陸は、僕を後ろから抱き締めてくれる。
「読んで」
「うん」
僕は、そのノートを見つめて口に出す。
【映画館で会った時から、陸はイライラしていた。したいって言うから、そうした。その他大勢と同じは嫌だった。本当は、もっとゆっくり時間をかけたかった気もした。だから、涙がとめられなかった。それでも、陸と繰り返しすればする程に、何かどうでもよくなっちゃった。ただ、ただ、幸せに感じた。もっと、陸のものにして欲しい。】
さらに陸は、僕をギュッーと抱き締めてくれる。
「次を読んでもいい?」
「うん、読んで」
僕は、次の日記を読む。
【今日も陸と会える。朝一番に、あいつがやって来た。両親は、仕事に行っていたし、妹は友達と遊びに行っていた。ここでは、嫌だ。陸との幸せな場所に入ってきて欲しくなかった。嫌だ。もう、陸以外とそうなりたくない。無理矢理された。■■■■■■■■■嫌だ。気持ち悪い】
「黒ってなに?」
「わからない。何かな?これ」
僕は、陸に見せた。
「何かな、これ?」
「どう読めばいいのかな?」
「わかんないな。でも、嫌で気持ち悪い事だったんだ。続けてくれる?凌平」
「わかった」
僕は、陸が震えてるのを感じていた。
【昼に、陸がやってきた。僕は、陸のズボンをおろした。陸が、来るまでに全身を洗って、口の中も洗浄した。洗っても綺麗になってない気がした。だから、陸が欲しかった。陸は、僕を受け入れてくれる。そんな事しなくていいのに、僕がする事と同じ事をしてくれる。幸せだよ。凄く幸せ。これ以上ない程の幸せ】
「結斗ぉぉぉぉ」
「陸、大丈夫だよ」
「ご、ご、ごめんな。凌平」
僕は、日記を閉じた。
「震えてるよ、陸。大丈夫だから…大丈夫」
「ごめん。俺。ごめん。壊れそう」
「いいよ、陸。泣いて、たくさん泣いて」
僕に陸がしてくれたようにしてあげたかった。
「ごめん。」
そう言って、陸は壊れた。
「わぁぁぁぁ結斗、結斗、ゆいとおぉぉぉあ、ぅゎああぁぁ」
陸の目からは、滝のように涙が流れてきた。
陸は、赤ちゃんのように丸まって震えながら泣いてる。
僕は、そんな、陸を後ろから優しく抱き締める。
「ぅぅぅう」
陸にとって、そこに辿り着くのは容易な事ではない事を感じた。
「もういいよ。ゆっくり進もう。ねっ?陸」
「はっ、はっ」
「ゆっくり息を吸って」
「フー」
「吐いて」
「ハー」
「大丈夫だよ。陸」
僕は、陸の背中を落ち着くまでずっと擦り続けていた。
「明日は、ゆっくりできるね。陸」
「うん、でも寂しいな。凌平は、休みじゃないから」
僕は、コーヒーを淹れに行く。
昨日、僕は上條陸の知らない顔を見せられた。
お医者さんとしての陸。
でも、僕が知るお医者さんとしての陸ではなくて、同僚だけが知っている顔だった。
一ノ瀬さんには、陸の事が理解できたのを感じた。
僕には、触れることの出来ない領域にいる気がしていた。
そして、いつもなら円香さんにヤキモチを妬かないのに…。
昨日の僕は、妬いてしまった。
上條陸の幼少期からの顔を見てしまったからだ。
この15年見てきた陸とは、まるで別人で気づくとヤキモチを妬いていた。
僕だけが、知らない陸を知りたかった。
「ねえー。しようよ」
僕は、コーヒーを持って陸の方に行った。
こんな風に、いい加減な気持ちで誘うと陸は嫌がるのを知ってる。
10年も一緒に住んでいたら、わかるのにわかってるのに…。
僕は、イチゴにもヤキモチを妬いていた。
「危ないよ、コーヒー」
そう言われて、テーブルにコーヒーカップを置いた。
五年前に、二人でたまたま入ったお店で一目惚れした高級マグカップ。
「イチゴばっかり、ズルいよ」
「ヤキモチ妬いてるの?」
そう言って、イチゴを触るのをやめて、僕の顎をよしよしと撫でてくる。
「そんなのいいから、しようよ」
こんな風に言われるのを、陸は嫌がるってわかってるくせにまた言ってしまった。
ほら、困った時にする顔をしてる。
唇を尖らせて、眉を寄せて右上を見てる。
「もういい」
「おっと、駄目だよ」
僕は、無理やりベルトをはずそうとした、陸は、立ち上がった。
ほら、やっぱりそうだったじゃない。
陸は、部屋に行ってしまった。
「イチゴぉぉぉ」
涙が、止まらない。
陸を失うのは、僕は耐えられないよ。
「何で、泣いてるの?」
陸は、僕の前に戻ってきた。
「ごめんなさい。もう、しないから…。陸が、嫌がる事をしないから」
「嫌がってなんかないよ」
陸は、そう言って僕の隣に座った。
「じゃあ、何でいなくなったの?」
「前に進みたいと思ったから、これを」
そう言って陸は、星空のノートを差し出した。
「これ、なに?」
「結斗の日記。まだ、全部読めてなくてね」
「どの部分を読みたいの?」
「俺と一つになった後の結斗の気持ちが知りたくて」
「僕も、読んでもいい?」
「声に出して、読んでくれる?」
「どうして?」
陸は、僕の髪の毛を優しく撫でてくれる。
「その声で、読んでもらいたい。大好きな凌平の声で、読んでもらいたい」
そう言って、笑ってくれる。
「読んでいい?陸」
「うん」
陸は、ペラペラとページを捲った。
「ここだね、はい」
そう言って、ノートを渡された。
陸は、僕を後ろから抱き締めてくれる。
「読んで」
「うん」
僕は、そのノートを見つめて口に出す。
【映画館で会った時から、陸はイライラしていた。したいって言うから、そうした。その他大勢と同じは嫌だった。本当は、もっとゆっくり時間をかけたかった気もした。だから、涙がとめられなかった。それでも、陸と繰り返しすればする程に、何かどうでもよくなっちゃった。ただ、ただ、幸せに感じた。もっと、陸のものにして欲しい。】
さらに陸は、僕をギュッーと抱き締めてくれる。
「次を読んでもいい?」
「うん、読んで」
僕は、次の日記を読む。
【今日も陸と会える。朝一番に、あいつがやって来た。両親は、仕事に行っていたし、妹は友達と遊びに行っていた。ここでは、嫌だ。陸との幸せな場所に入ってきて欲しくなかった。嫌だ。もう、陸以外とそうなりたくない。無理矢理された。■■■■■■■■■嫌だ。気持ち悪い】
「黒ってなに?」
「わからない。何かな?これ」
僕は、陸に見せた。
「何かな、これ?」
「どう読めばいいのかな?」
「わかんないな。でも、嫌で気持ち悪い事だったんだ。続けてくれる?凌平」
「わかった」
僕は、陸が震えてるのを感じていた。
【昼に、陸がやってきた。僕は、陸のズボンをおろした。陸が、来るまでに全身を洗って、口の中も洗浄した。洗っても綺麗になってない気がした。だから、陸が欲しかった。陸は、僕を受け入れてくれる。そんな事しなくていいのに、僕がする事と同じ事をしてくれる。幸せだよ。凄く幸せ。これ以上ない程の幸せ】
「結斗ぉぉぉぉ」
「陸、大丈夫だよ」
「ご、ご、ごめんな。凌平」
僕は、日記を閉じた。
「震えてるよ、陸。大丈夫だから…大丈夫」
「ごめん。俺。ごめん。壊れそう」
「いいよ、陸。泣いて、たくさん泣いて」
僕に陸がしてくれたようにしてあげたかった。
「ごめん。」
そう言って、陸は壊れた。
「わぁぁぁぁ結斗、結斗、ゆいとおぉぉぉあ、ぅゎああぁぁ」
陸の目からは、滝のように涙が流れてきた。
陸は、赤ちゃんのように丸まって震えながら泣いてる。
僕は、そんな、陸を後ろから優しく抱き締める。
「ぅぅぅう」
陸にとって、そこに辿り着くのは容易な事ではない事を感じた。
「もういいよ。ゆっくり進もう。ねっ?陸」
「はっ、はっ」
「ゆっくり息を吸って」
「フー」
「吐いて」
「ハー」
「大丈夫だよ。陸」
僕は、陸の背中を落ち着くまでずっと擦り続けていた。
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