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それぞれの結末

円香と凌平

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一年後のGWを迎えていた。

「イチゴは?」

「動物病院に預けた。」

「そっか」

陸の運転する車で、僕達はある場所に向かっていた。

「バーベキュー、楽しみだね」

「うん」

一泊二日の旅行だ。


「ねぇー。凌平さん。相変わらずラブラブだね。あれから、一年だよね」

「うん」

去年のGWは、円香さんと美鶴さんと四人で過ごした。

あの時は、すぐにバレて今、思い出しても笑っちゃうな。

一年前ー

「ねぇー。凌平さん、プロポーズされた?」

「ど、どうして?」

「その指輪だよ」

「あっ」

「そうだよ、したよ。伊納もされたんだな」

「上條君、よくわかりましたね」

「円香」

僕が、それを思い出していたら、陸は車を停めた。

「ついた」

「久しぶりだな」

「おう、一ノ瀬。元気だったか?桂木さんも、元気そうだね」

「久しぶり、上條」

「幸せそうでよかったよ」

陸は、車の外で喋っていた。

「じゃあ、乗れよ」

一番後ろの席に、一ノ瀬さんと桂木さんが乗った。

「さあ、バーベキューとキャンプだぞ」

陸は、楽しそうだった。

「虫関係なくていいね。」

「確かに、そうですね」

陸は、グランピングに僕達を連れてってくれたのだ。

ついてすぐに、円香さんと食材の準備をする。

「凌平さん」

「はい」

僕は、円香さんと一緒に食材を切る。

「上條の事、受け入れてくれてありがとうね」

「いえ」

「あんなに幸せそうな顔見るのどれぐらいかな?33年ぶりか。上條が、13歳の時以来だから」

「やっぱり、結斗さんの事ですよね」

「うん、五木君はね。上條にとって全てだったから…。今だってそうなのは、わかる」

「はい、僕もわかってます」

「それでも、少なくとも今は、凌平さんが、上條の全てだよ」

「本当ですか?」

円香さんは、陸を見つめていた。

「あんな顔させれる人、今までいなかったから…。凄く嬉しいんだよ。ずっと、上條の心はポッカリ穴が空いてたから。それは、歳をとればとるほどに酷くなった気がしていたから…。」

陸は、美鶴さんと楽しそうに話している。

「僕は、陸を借りてるだけです。結斗さんから」

「そんなの私もそうだよ。美鶴の事、美花さんから借りてるだけ。だけど、今一緒にいるのは私だから。美鶴を笑顔に出来るのも、怒らせるのも、泣かせるのも、美鶴のご飯を食べるのも、出来るのは全部私だよ」

そう言って、円香さんは笑った。

「勝ってるとか、負けてるとかじゃないんだよ。ただ、私は今生きて美鶴の傍にいる。凌平さんも、生きて上條の傍にいる。だからさ、ゆっくりゆっくり、歳をとってもらおうよ。向こうにいってからが長いならさ。短くても、一緒にいたいよね?」

「そうですね」

「今だけは、愛してもらったって罰なんか当たらないよ」

「そうですね」

僕は、陸を見つめていた。

「上條は、ちゃんと凌平さんを愛してるよ。凌平さんが、抱えてるもの全部を上條は、愛してるよ」

「そうですよね。出会った時から陸は僕をちゃんと好きになってくれてましたし」

「泣かないでよ。忘れられない人がいるのは、わかるよ。でもさ、ゆっくり前に進んでいけばいいんじゃない?って、進んでるか。凌平さんも、上條も、今までで一番いい顔してるよ。」

「ありがとう、円香さん」

「ううん」

「円香さんは、どうなんですか?美鶴さんと…」

円香さんは、少し考えていた。

「どうだろうね?私と美鶴は、一緒に暮らして二年半ぐらい経ってから肌を重ねていったんだよね。だけど、いつまでも、心だけ宙ぶらりんな状態だった。でも、やっと心も美鶴になったなぁーって今は感じてる。だからって、愛してないわけじゃないよ。一番は、お互いに変わってなどいないんだよ。だけど、美鶴を愛してる。凌平さんにも、わかるよね?」

「うん、なんかその気持ちわかるよ。」

「だよね。でも、それでいいんだよね。だって、私達は生きてるんだよ。触れられる。涙を拭える。笑顔にできる。でしょ?遠慮なんかしなくていいじゃない?そうでしょ?」

「うん」

円香さんは、やっぱり素敵で優しい人だ。

何度か会った日に、僕にこう言った。

【五木君や冴草さんに悪いとかないんだよ。生きてるんだから、いいんだよ。幸せになろうよ。凌平さん。駄目なんてないんだよ。だから、その気持ちを許してあげていいんだよ】

そう言ってくれて、僕は、泣いたんだ。

「さあて、完成だね」

「うん」

「じゃあ、持っていこうか」

「うん」

僕と円香さんは、切った野菜や肉をコンロの方に持っていく。

僕も、もう少しだけ前に進んで行きたいと思いながら歩いた。

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