上 下
194 / 646
拓夢の話10

飲み過ぎ…

しおりを挟む
「飲みすぎだよ」

「あんたみたいなんにね!何がわかんのよ」

平田さんの母親は、そう言ってビールの缶を俺から奪った。俺は、何も言えずにいる。

「凛はね!本当に可愛かったの!こんな小さな頃はね。でもね、私、凛をうまく愛せなかった」

俺は、それを聞くしか出来なかった。

「死んじゃえって何度も言ってやった!いつまで生きてんのって!愛されたくて必死だねーって」

平田さんの母親は、ビールをゴクッゴクッ飲んだ。

「可愛くないのよ!わたしね!子供が大嫌いなの」

そう言って泣いてる。

「凛はきっと愛されてないって思って…。傷ついてる。でもね、星村さん。愛せない方も傷ついてんのよ!わかる?」

その言葉に、俺は頷いていた。

「わかるの?何で?わかるの?」

「危ない」

フラフラして、倒れそうになる平田さんの母親を支える。

「星村さん、いい男だね」

「いや!」

平田さんの母親にキスをされて驚いた。

「振りほどかなきゃ、もっと先にいっちゃうよ」

振りほどけなかったのは、多分あの人と重なってるからだ。俺が何も抵抗しないのを容認と受け取ったようで…。平田さんは母親は、俺にさらにキスをしてくる。それは、まるであの日のあの人みたいで…。

【拓夢君、ごめんね!ごめんね!】

何度謝られたか覚えてなかった。

「あっ!」

下半身に手をやられた。

「ぶっ、あははは」

「すみません」

「こんなおばさんじゃ無理よねー」

「いえ、そうじゃなくて!どうやら、機能不全なんです」

平田さんの母親は、俺をジッーと見つめて、どこかホッとした顔をした。

「あんたが、使えないやつでよかったよ」

「すみません」

「謝られたら、惨めになるだろ」

少し低めの声…。

「悪いけど、晩御飯の場所に行くまで!ちょっと休んでいい?」

「どうぞ」

「飲み過ぎちゃったみたいだから」

そう言うとフラフラと立ち上がった。

「連れてきますよ」

「悪いね」

俺は、ベッドまで連れていった。

「ちょっと休むね」

「はい、どうぞ」

俺は、頭を下げてからさっきの場所に戻った。愛せない方も苦しんでる。平田さんの母親は、きっと産まれた時は愛していたんだと思う。
でも、愛する人が、不倫していなくなった事をきっかけに愛せなくなったんだと思う。子供を愛してるって難しいんだな…。期待したり、あてにしたり、結局無償の愛なんて人間にはほとんど存在しないのかもな…。

俺は、頭を掻いて悩む。俺だって、凛に期待してるんだよな!旦那さんと別れて欲しくはないけど…。俺の事を少しでも好きではいて欲しくて…。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

愛を疑ってはいませんわ、でも・・・

かぜかおる
恋愛
王宮の中庭で見かけたのは、愛しい婚約者と私じゃない女との逢瀬 さらに婚約者は私の悪口を言っていた。 魅了で惑わされた婚約者への愛は消えないけれど、 惑わされる前と変わらないなんて無理なのです・・・。 ****** 2021/02/14  章の名前『後日談』→『アザーズ Side』に変更しました 読んで下さりありがとうございます。 2020/5/18 ランキング HOT 1位 恋愛 3位に入らせていただきました。 O(-人-)O アリガタヤ・・ コメントも感謝です。 とりあえず本編の方の更新を優先させていただきますので、申し訳ありませんがコメントの返答遅くなります。

処理中です...