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第二部第三章 クーデターイベント(前日譚)
セッション44 卓球
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「ふはははは! はははははははははは! はーっはっはっはっはっ!」
風呂場を出ると、廊下でイタチが高笑いをしていた。
彼は三護と一緒に男湯に浸かっていた筈だが、僕達よりも先に上がっていたらしい。三護はどこにいるのかというと、マッサージチェアに腰掛けて恍惚とした顔でプルプル震えていた。見た目ショタなのに実に爺さんっぽい。
「……で、何を笑っているんだ、お前は」
「む、戻ったか貴様らか。見ろ、朗報だぞ」
イタチが僕達に一冊の本を見せてくる。『冒険者教典』だ。彼が指しているのは冒険者ランクが記載されているページだった。
「冒険者ランクが、暫定Bに……?」
「そうだ。先日の竜殺しが評価されたのだ。ふふふ、これでまた一歩、世界が俺様を覇王として認めたのだな!」
ああ、そういえばこの間申請書を出していたな。あれが受理されたのか。こんなにすぐに評価されるとは、やはり竜は格の高い生物である様だ。
昇格は確かに目出度い。目出度いが、しかし、
「暫定って何だよ?」
「パーティーでのランクという意味ですね。一人一人ではまだBランクには満たないけど、パーティーでならB相当の実力だと認めるという事です」
「ほー」
そういう評価の仕方もあるのか。まあ、冒険者なんて人によりけりだしな。そういう事もあるか。
「そろそろ正式なパーティー名を決めるか。今までは『イタチ一派』などと呼ばれていたが、格好良い名前がある方が箔が付くし、より有名になれるからな」
「パーティー名か。何が良いかねえ……?」
こういうのは生前の中二病が疼くぜ。
「む? 貴様は……」
「やっほー!」
イタチがシロワニがいる事に気付いた。
「皇女が何故連邦にいるんだ?」
「観光だよー」
「観光だと……?」
イタチが半眼になる。
「供回りはどうした? 皇族の供回りは『五渾将』でなければならないと聞いていたが、誰が来ている?」
「え? ……ああ、そーいやそんな話あったな。いや、『五渾将』はここにはいねーよ。メイドが護衛しているんだと」
「メイド? 『五渾将』がいないだと……?」
イタチがシロワニの背後に目を向ける。そこには身形をピシッと整えたメイドが十数人立っていた。彼女達を見たイタチがますます訝しげな表情をする。何が納得行かないのだろうか。
「…………。……おい、貴様。本当に『五渾将』は」
「あ、卓球がある」
シロワニがイタチの言葉を遮って、とある一室に目を向ける。室内には台にラケット、ボールと卓球セットが揃えられていた。この時代にも卓球が残っていたか。温泉文化が残っていた時点であるだろうなと思っていたが。
「ねえねえ、卓球しようよ!」
「は? いや、しませんよ」
シロワニが誘うが、ステファが冷たく却下する。
本当シロワニに対しては容赦がないな、こいつ。
「ふーん。負けるのが怖いのー?」
「そんな安い挑発には乗りません」
「えー。それじゃあ、こういう言い方はどう? 『教会の人間が、帝国の挑戦から逃げるの?』」
ピクリ、とステファの肩が跳ねた。
「……それは聞き捨てなりませんね、シロワニ・マーシュ」
「んふふ。じゃあ、やろうか」
「上等です。返り討ちにしてあげます」
「しっかり挑発に乗せられてんじゃねーか」
シロワニの後に続いて卓球室にステファが入っていく。途中、シロワニが振り向き、
「そこの忍者もおいでよ。帝国に恨みがあるんでしょう? だったら、鬱憤を晴らす良い機会だと思うけど」
「卓球なんかで拙者の憎しみが晴れ――ブッ潰してやるで御座りまする」
「秒殺でやる気になってんじゃねーか」
理伏もシロワニに誘われて部屋に入る。そんな三人の後をメイド達がきっちりと付いていく。
……あれはもう止められねーな。仕方ねーな。後で頃合いを見て回収するか。
「…………あの小娘はいつもあんな感じなのか?」
ステファたちが去った後、イタチが不機嫌を隠さず言う。
「いつもが分かる程付き合いがある訳でもねーけどな。まあ、大体あんな感じだ」
「そうか。……ふん、こちらの話を聞かぬ我儘娘め」
我儘に関してはお前も人の事言えねーと思うけどな。まあ、言わぬが花か。
「だがしかし、あいつを足止め出来たと考えれば好都合か。他国の人間に聞かれたい話ではないからな」
「足止め? 話?」
「そうだ。よもや忘れた訳ではあるまいな? 俺様達は仕事で山岳連邦に来ている事を」
まさか、忘れる筈がない。
僕達にこの温泉旅館の宿泊券をくれた人物。その人物は厚意や御機嫌取りから僕達を旅館に招待した訳ではない。
密会をするにはこの旅館が良いと判断したが故だ。
「では、改めて紹介しよう。あいつらが今回の依頼人――」
イタチが顔を向けた先、廊下の奥から二人の人間が現れた。
一人は先日の竜殺しに助けてくれた黒衣の青年だ。先日と同様、今日も無愛想な無表情を下げている。
もう一人は初めて見る顔だ。女袴を着用した二十歳前後の女性。肩で丁寧に切り揃えられた黒髪が美しく、一見するとお淑やかなお嬢様風だが、左腰には物騒にも日本刀を帯びていた。右腰には一冊の本がぶら下がっており、タイトルには『エイボンの書』と書かれていた。
「山岳連邦議員の浅間栄とその弟の梵だ」
風呂場を出ると、廊下でイタチが高笑いをしていた。
彼は三護と一緒に男湯に浸かっていた筈だが、僕達よりも先に上がっていたらしい。三護はどこにいるのかというと、マッサージチェアに腰掛けて恍惚とした顔でプルプル震えていた。見た目ショタなのに実に爺さんっぽい。
「……で、何を笑っているんだ、お前は」
「む、戻ったか貴様らか。見ろ、朗報だぞ」
イタチが僕達に一冊の本を見せてくる。『冒険者教典』だ。彼が指しているのは冒険者ランクが記載されているページだった。
「冒険者ランクが、暫定Bに……?」
「そうだ。先日の竜殺しが評価されたのだ。ふふふ、これでまた一歩、世界が俺様を覇王として認めたのだな!」
ああ、そういえばこの間申請書を出していたな。あれが受理されたのか。こんなにすぐに評価されるとは、やはり竜は格の高い生物である様だ。
昇格は確かに目出度い。目出度いが、しかし、
「暫定って何だよ?」
「パーティーでのランクという意味ですね。一人一人ではまだBランクには満たないけど、パーティーでならB相当の実力だと認めるという事です」
「ほー」
そういう評価の仕方もあるのか。まあ、冒険者なんて人によりけりだしな。そういう事もあるか。
「そろそろ正式なパーティー名を決めるか。今までは『イタチ一派』などと呼ばれていたが、格好良い名前がある方が箔が付くし、より有名になれるからな」
「パーティー名か。何が良いかねえ……?」
こういうのは生前の中二病が疼くぜ。
「む? 貴様は……」
「やっほー!」
イタチがシロワニがいる事に気付いた。
「皇女が何故連邦にいるんだ?」
「観光だよー」
「観光だと……?」
イタチが半眼になる。
「供回りはどうした? 皇族の供回りは『五渾将』でなければならないと聞いていたが、誰が来ている?」
「え? ……ああ、そーいやそんな話あったな。いや、『五渾将』はここにはいねーよ。メイドが護衛しているんだと」
「メイド? 『五渾将』がいないだと……?」
イタチがシロワニの背後に目を向ける。そこには身形をピシッと整えたメイドが十数人立っていた。彼女達を見たイタチがますます訝しげな表情をする。何が納得行かないのだろうか。
「…………。……おい、貴様。本当に『五渾将』は」
「あ、卓球がある」
シロワニがイタチの言葉を遮って、とある一室に目を向ける。室内には台にラケット、ボールと卓球セットが揃えられていた。この時代にも卓球が残っていたか。温泉文化が残っていた時点であるだろうなと思っていたが。
「ねえねえ、卓球しようよ!」
「は? いや、しませんよ」
シロワニが誘うが、ステファが冷たく却下する。
本当シロワニに対しては容赦がないな、こいつ。
「ふーん。負けるのが怖いのー?」
「そんな安い挑発には乗りません」
「えー。それじゃあ、こういう言い方はどう? 『教会の人間が、帝国の挑戦から逃げるの?』」
ピクリ、とステファの肩が跳ねた。
「……それは聞き捨てなりませんね、シロワニ・マーシュ」
「んふふ。じゃあ、やろうか」
「上等です。返り討ちにしてあげます」
「しっかり挑発に乗せられてんじゃねーか」
シロワニの後に続いて卓球室にステファが入っていく。途中、シロワニが振り向き、
「そこの忍者もおいでよ。帝国に恨みがあるんでしょう? だったら、鬱憤を晴らす良い機会だと思うけど」
「卓球なんかで拙者の憎しみが晴れ――ブッ潰してやるで御座りまする」
「秒殺でやる気になってんじゃねーか」
理伏もシロワニに誘われて部屋に入る。そんな三人の後をメイド達がきっちりと付いていく。
……あれはもう止められねーな。仕方ねーな。後で頃合いを見て回収するか。
「…………あの小娘はいつもあんな感じなのか?」
ステファたちが去った後、イタチが不機嫌を隠さず言う。
「いつもが分かる程付き合いがある訳でもねーけどな。まあ、大体あんな感じだ」
「そうか。……ふん、こちらの話を聞かぬ我儘娘め」
我儘に関してはお前も人の事言えねーと思うけどな。まあ、言わぬが花か。
「だがしかし、あいつを足止め出来たと考えれば好都合か。他国の人間に聞かれたい話ではないからな」
「足止め? 話?」
「そうだ。よもや忘れた訳ではあるまいな? 俺様達は仕事で山岳連邦に来ている事を」
まさか、忘れる筈がない。
僕達にこの温泉旅館の宿泊券をくれた人物。その人物は厚意や御機嫌取りから僕達を旅館に招待した訳ではない。
密会をするにはこの旅館が良いと判断したが故だ。
「では、改めて紹介しよう。あいつらが今回の依頼人――」
イタチが顔を向けた先、廊下の奥から二人の人間が現れた。
一人は先日の竜殺しに助けてくれた黒衣の青年だ。先日と同様、今日も無愛想な無表情を下げている。
もう一人は初めて見る顔だ。女袴を着用した二十歳前後の女性。肩で丁寧に切り揃えられた黒髪が美しく、一見するとお淑やかなお嬢様風だが、左腰には物騒にも日本刀を帯びていた。右腰には一冊の本がぶら下がっており、タイトルには『エイボンの書』と書かれていた。
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