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17 ふたりで歩む道に
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帰りの馬車は無言だった。
私はアルセニオの肩に凭れ、眠ってしまった。
優しく揺り起こされる。
朝陽はもう充分に高く、清々しさに、我知らず笑みがこぼれた。
あとは、前に進むだけなのだ。
「ソニア!」
珍しく、リヴィエラが大声で私を呼んでいる。
見るとメイドたちを引き連れて、こちらに向かって駆けて来た。窓から馬車が到着するのを見ていたのだろう。
凄まじい疲労。
それでも、リヴィエラの顔を見たら、安心した。
「カルミネ。カルミネに会いたいわ」
呟いた私の肩を、アルセニオがそっと抱いてくれる。
それで我に返った。
「そうだ」
「?」
声をかけて向かい合う。
「私、カルミネとは離れられない。あなたは、それを考えて答えを出して」
私の嘘に口を閉ざしてくれたアルセニオ。
私生児持ちの私が嫁ぐとしたら、彼は狂人の血が流れる、別の貴族の男児を引き取る事になる。
それは、充分すぎるほどに、断る理由になる。
私は覚悟を決めていた。
そして、彼の深い愛に感謝していた。
これで、終わってしまうとしても……
「?」
予想に反して、アルセニオは優しい微笑みを浮かべた。
それから少し屈んで、私と目線を合わせる。
「本音を言おうか」
「?」
「久しぶりに会った君は、以前より輝いていた。君の強さに感動した」
「アルセニオ……」
「君は〝母親〟の顔になっていた。惚れ直した」
アルセニオが私の腕に手を添えて、そっと唇を重ねる。
「!」
息が止まった。
彼に愛されている自覚はあった。
でも、私が考えるより彼の愛は大きく、底知れない。
それが嬉しくて、感動して、私は唇の感触より、胸の高鳴りに気を取られた。
「……」
唇を離すと、彼は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
キラキラと輝く瞳。
まっすぐに私を見つめる瞳は、それそのものが強い愛の鎖のように、私を捕えて離さない。
「カルミネを連れて、私のもとへ来てほしい」
「……なんて、言ったらいいのかしら……」
胸がいっぱいで、私の声は掠れていた。
「〝愛してるわ、アルセニオ〟。それだけでいいんだよ」
「あ──」
私がそれを言う前に、アルセニオは私の頬に手を添えて、キスをした。
優しい、深いキスを。
しばらく甘い愛に身をゆだねてしまったのは、疲労のせいもあるのよ。
絶対そう。
私はふいに覚醒し、アルセニオを押し戻した。
「リヴィエラは!?」
「ふっ。君は本当に彼女が好きだね。いいよ、彼女も連れて来ても」
「冗談やめて」
さっきこちらへ向かって、らしくない全力疾走をしていたリヴィエラ。その姿はもう、前庭のどこにもなかった。
私は思わずアルセニオの腕を叩いた。
「遠慮して引っ込んでしまったのよ。嫌だ。悪い事した。彼女だって寝ずに待っていたかもしれないのに」
アルセニオが笑いながら私の背中を撫で、歩くよう促した。
彼はまた私の肩をぐっと抱き寄せた。
「これからはぐっすり眠れるさ。よしッ、みんなで昼寝といこう! 平和なフロリアン伯爵家に乾杯!!」
私はアルセニオの肩に凭れ、眠ってしまった。
優しく揺り起こされる。
朝陽はもう充分に高く、清々しさに、我知らず笑みがこぼれた。
あとは、前に進むだけなのだ。
「ソニア!」
珍しく、リヴィエラが大声で私を呼んでいる。
見るとメイドたちを引き連れて、こちらに向かって駆けて来た。窓から馬車が到着するのを見ていたのだろう。
凄まじい疲労。
それでも、リヴィエラの顔を見たら、安心した。
「カルミネ。カルミネに会いたいわ」
呟いた私の肩を、アルセニオがそっと抱いてくれる。
それで我に返った。
「そうだ」
「?」
声をかけて向かい合う。
「私、カルミネとは離れられない。あなたは、それを考えて答えを出して」
私の嘘に口を閉ざしてくれたアルセニオ。
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それは、充分すぎるほどに、断る理由になる。
私は覚悟を決めていた。
そして、彼の深い愛に感謝していた。
これで、終わってしまうとしても……
「?」
予想に反して、アルセニオは優しい微笑みを浮かべた。
それから少し屈んで、私と目線を合わせる。
「本音を言おうか」
「?」
「久しぶりに会った君は、以前より輝いていた。君の強さに感動した」
「アルセニオ……」
「君は〝母親〟の顔になっていた。惚れ直した」
アルセニオが私の腕に手を添えて、そっと唇を重ねる。
「!」
息が止まった。
彼に愛されている自覚はあった。
でも、私が考えるより彼の愛は大きく、底知れない。
それが嬉しくて、感動して、私は唇の感触より、胸の高鳴りに気を取られた。
「……」
唇を離すと、彼は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
キラキラと輝く瞳。
まっすぐに私を見つめる瞳は、それそのものが強い愛の鎖のように、私を捕えて離さない。
「カルミネを連れて、私のもとへ来てほしい」
「……なんて、言ったらいいのかしら……」
胸がいっぱいで、私の声は掠れていた。
「〝愛してるわ、アルセニオ〟。それだけでいいんだよ」
「あ──」
私がそれを言う前に、アルセニオは私の頬に手を添えて、キスをした。
優しい、深いキスを。
しばらく甘い愛に身をゆだねてしまったのは、疲労のせいもあるのよ。
絶対そう。
私はふいに覚醒し、アルセニオを押し戻した。
「リヴィエラは!?」
「ふっ。君は本当に彼女が好きだね。いいよ、彼女も連れて来ても」
「冗談やめて」
さっきこちらへ向かって、らしくない全力疾走をしていたリヴィエラ。その姿はもう、前庭のどこにもなかった。
私は思わずアルセニオの腕を叩いた。
「遠慮して引っ込んでしまったのよ。嫌だ。悪い事した。彼女だって寝ずに待っていたかもしれないのに」
アルセニオが笑いながら私の背中を撫で、歩くよう促した。
彼はまた私の肩をぐっと抱き寄せた。
「これからはぐっすり眠れるさ。よしッ、みんなで昼寝といこう! 平和なフロリアン伯爵家に乾杯!!」
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