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18 晴れた灰色の空(※リヴィエラ視点)
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あれから3週間。
まるで悪い夢から目覚めたように、不気味なほど平和で、嘘のように朗らかな生活が始まった。
夫に裏切られた事さえ幻だったので、私は現在、カルミネに夢中。
恐ろしい男の血が流れているとはいえ、性格まで引き継ぐとは考えにくい。彼は穢れない、神様からの贈り物。それにソニアがついていれば、なにも心配する事はない。
「私よりよほど手馴れてるわね」
「弟を抱いたのはたった5年前だもの」
「それまでに上の弟と妹たちを抱いたしね」
「ええ。だけど、カルミネはとってもいい子。手がかからないほう」
「え? これで?」
ソニアとバーヴァ伯爵の結婚準備が大急ぎで進められている。
残された時間は、とても少ない。
私はカルミネと悲しい出会い方をしてしまった。
だから今のうちに、たくさん触れておくのだ。償いも込めて。
それにしても、バーヴァ伯爵がカルミネを引き取るなんて。
彼が善意の人であり、深い愛情を持つ人だということは、私も理解している。でも、いずれソニアとの間に後継ぎが産まれたらどうするのだろう。私が口を出す事ではないけれど……
心配してもしょうがない。
悪いようにはしないだろうし、なにかあっても、ソニアとバーヴァ伯爵なら華麗に解決してしまうはずだ。
ソニアの深い愛を、私は生涯忘れない。
最初から彼女は、疎外感で途方に暮れる私に声をかけて励ましてくれた。傍にいようと努めてくれた。私より一才年上の義妹。けれど、精神的にはもっとずっと年上のお姉様のようだった。
これからは素直に妹になれる。
事態が落ち着くまでここで生活していいとソニアが言ってくれたので、そうしている。バーヴァ伯爵もそれに賛成のようだし、冗談か否か、結婚後にはバーヴァ伯爵家にまで食客として招きたいと申し出てくれた。
離れたくない。
その気持ちがあるのは嘘ではない。
ただ実のところ、それに縋るしかない状況もあった。
他所でこどもを作った旨を報せた時の、父の反応。
私は耐えるか、神様に仕えるか、恥を忍んで神様の元へ行くか──自害まで示唆されたのだ。
仮初の夫であったフロリアン伯爵が逮捕された今、父が私を手放しに迎えるとは思えない。
簡潔に手紙で伝え、私は恐る恐る父の返事を待っているところでもあった。
そして──……
その日は、フロリアン伯爵となったマックス・アーカート卿が準備に訪れるという事で、バーヴァ伯爵が久しぶりに滞在していた。
ずっとよくしてくれていたメイドの一人が、私にそっと手紙を届けた。
父からだった。
恐れと緊張で冷たい汗をかきながら、私は私室に篭り、父の決断を受け止めた。
だから、その人の訪れにまったく気が付かず、来る事さえ忘れてしまった。
私は父の手紙を握りしめ、呆然と、ソニアを探した。
バーヴァ伯爵がいらしている。
だから、談話室か、図書室か、サンルームか、温室……
ふらふらと応接室の前を通りすぎようとしていた時、ふとソニアの声が聞こえた。耳を澄ますとバーヴァ伯爵の声も聞こえる。
私は、応接室の扉を開けた。
「ああ、レディ・リヴィエラ。いいところに。紹介しよう。我らがフロリアン伯爵マックス・アーカート卿だ」
上品で明朗な、聞くたびに安心させられるバーヴァ伯爵の声。その声に導かれるように、見慣れないその人が、ゆっくりとこちらに振り向いた。
「……」
美しく、冷たい顔立ち。
冷徹な眼差しが降り注ぐ。
彼は冷たい冬の雨のように、静かに、私を見つめていた。
まるで悪い夢から目覚めたように、不気味なほど平和で、嘘のように朗らかな生活が始まった。
夫に裏切られた事さえ幻だったので、私は現在、カルミネに夢中。
恐ろしい男の血が流れているとはいえ、性格まで引き継ぐとは考えにくい。彼は穢れない、神様からの贈り物。それにソニアがついていれば、なにも心配する事はない。
「私よりよほど手馴れてるわね」
「弟を抱いたのはたった5年前だもの」
「それまでに上の弟と妹たちを抱いたしね」
「ええ。だけど、カルミネはとってもいい子。手がかからないほう」
「え? これで?」
ソニアとバーヴァ伯爵の結婚準備が大急ぎで進められている。
残された時間は、とても少ない。
私はカルミネと悲しい出会い方をしてしまった。
だから今のうちに、たくさん触れておくのだ。償いも込めて。
それにしても、バーヴァ伯爵がカルミネを引き取るなんて。
彼が善意の人であり、深い愛情を持つ人だということは、私も理解している。でも、いずれソニアとの間に後継ぎが産まれたらどうするのだろう。私が口を出す事ではないけれど……
心配してもしょうがない。
悪いようにはしないだろうし、なにかあっても、ソニアとバーヴァ伯爵なら華麗に解決してしまうはずだ。
ソニアの深い愛を、私は生涯忘れない。
最初から彼女は、疎外感で途方に暮れる私に声をかけて励ましてくれた。傍にいようと努めてくれた。私より一才年上の義妹。けれど、精神的にはもっとずっと年上のお姉様のようだった。
これからは素直に妹になれる。
事態が落ち着くまでここで生活していいとソニアが言ってくれたので、そうしている。バーヴァ伯爵もそれに賛成のようだし、冗談か否か、結婚後にはバーヴァ伯爵家にまで食客として招きたいと申し出てくれた。
離れたくない。
その気持ちがあるのは嘘ではない。
ただ実のところ、それに縋るしかない状況もあった。
他所でこどもを作った旨を報せた時の、父の反応。
私は耐えるか、神様に仕えるか、恥を忍んで神様の元へ行くか──自害まで示唆されたのだ。
仮初の夫であったフロリアン伯爵が逮捕された今、父が私を手放しに迎えるとは思えない。
簡潔に手紙で伝え、私は恐る恐る父の返事を待っているところでもあった。
そして──……
その日は、フロリアン伯爵となったマックス・アーカート卿が準備に訪れるという事で、バーヴァ伯爵が久しぶりに滞在していた。
ずっとよくしてくれていたメイドの一人が、私にそっと手紙を届けた。
父からだった。
恐れと緊張で冷たい汗をかきながら、私は私室に篭り、父の決断を受け止めた。
だから、その人の訪れにまったく気が付かず、来る事さえ忘れてしまった。
私は父の手紙を握りしめ、呆然と、ソニアを探した。
バーヴァ伯爵がいらしている。
だから、談話室か、図書室か、サンルームか、温室……
ふらふらと応接室の前を通りすぎようとしていた時、ふとソニアの声が聞こえた。耳を澄ますとバーヴァ伯爵の声も聞こえる。
私は、応接室の扉を開けた。
「ああ、レディ・リヴィエラ。いいところに。紹介しよう。我らがフロリアン伯爵マックス・アーカート卿だ」
上品で明朗な、聞くたびに安心させられるバーヴァ伯爵の声。その声に導かれるように、見慣れないその人が、ゆっくりとこちらに振り向いた。
「……」
美しく、冷たい顔立ち。
冷徹な眼差しが降り注ぐ。
彼は冷たい冬の雨のように、静かに、私を見つめていた。
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