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4 奥方様の矜持
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私もアルドワン城の離宮──恋人たちの愛の園へと吸い込まれていった。
「フンフンフンフン、パスカル~♪」
鼻歌を歌いながら……
「あなたはいつでもパスカァ~ル♪」
地下通路を通って……
「シュタッ!」
地下通路への隠し扉がある貯蔵庫に到着。
幼き日々に婚約者の城を探索して遊んだ事が、こんな形で役に立つなんて、あの頃は思いもしなかった。
許婚とのロマンスがまったく温まらない未来になるなんて事も、あの頃は思わなかったけど。
さあ、恋人たちの熱いロマンスを観察するわよ。
わくわくする……
「っふ」
笑いが洩れてしまうわ~♪
「どこかしらぁ~」
離宮の中を、一応、夫とその恋人にだけは見つからないように注意深く練り歩く。当然、使用人たちに見られても、私は笑顔で人差し指を唇に立てるだけ。
「おっ、奥方様!?」
「シッ。私の事は、パスカルにはナイショね」
「はっ!? はっ、はい……。!?」
「ファッ!? オッ、奥方さ──」
「シィーーーーツ! 私の事は、パスカルにはナイショ」
「……ふぁぃ……。!?」
私がいると、そんなにおかしい?
離宮は私の離宮でもあるのよ。
「こっ、こっ、これは……! その!」
「シィ~。いいから、いいから」
「いえ! あのですねっ。私たちは奥方様にどうかなってもちろん思っているわけですけどね!?」
「そうね」
「ご主人様に逆らえないわけで!」
「ええ、そうね」
「本当にごめんなさいッ、命だけは助けてぇ~っ!!」
ひとりが取り乱し始めると、連鎖的に地獄よ。
私が死神にでも見えているのか、泣きながら跪く使用人が列を成してしまって、心苦しいったらない。
夫と恋人の熱いロマンスを眺める前に、整備が必須だったとは。
ルンルンで地下通路を歩いていた時は、思ってもいなかった。
「大丈夫。大丈夫、大丈夫。いいのよぉ~。あなた方がなにも悪くないって事は、ちゃあんとわかっています」
「奥方様ぁッ!!」
「泣かないでぇ~、できれば静かにしてぇ~」
「っく、えっぐ……んぐ」
「いいのよぉ。あなた方は、いつも通り、今まで通りにお仕事に励んでちょうだい。絶対、罰したりしないから」
「本当ですかッ!?」
「本当よぉ。なんで悪いほうにばかり想像しちゃうのかしら……えっとね、私としては、当の二人を罰する気もないの。だったら当然、あなた方にとばっちりが行く事もないでしょう?」
「……で、では、なぜ……!?」
なぜ、ここにいるか?
「ふっ……」
「!?」
驚かないで。
それはね……
「どんなふうにイチャついているのか、見たくて」
「……」
「だって、相手はあのファネットよ? ただのロマンスじゃないわ。強烈ロマンスよ」
「……奥方様……」
「見物だわ♪」
いい景色……
恐怖のどん底で泣き喚いて跪いて縋ってくる使用人たちの姿なんて、見たくないわ。ちょっと呆れて呆然と私を見つめるくらい、しっかりしていてほしいのよ。
「えっと……では、本当に、私たちは、普通にご主人様のお言いつけを……」
「ええ。いつも通りにお願い」
「レディ・ファネットに、おもてなしを……」
「ええ。おもてなしして差し上げて? もう絶対に不便のないように、この上ない待遇でお迎えしてちょうだいね」
「あ、あたかもレディ・ファネットがご主人様の奥方様であるかのように?」
「そこまでは言ってない」
けじめは大切。
「ハッ、ハイッ!!」
「よろしくねぇ~。それで、私が来た事は、ヒ・ミ・ツ♪」
「「畏まりましたぁ~ッ!!」」
さて。
やっとよ。
待っててぇ~ファネットちゃぁ~ん♪
強烈ロマンス見せてぇ~♪
「フンフンフンフン、パスカル~♪」
鼻歌を歌いながら……
「あなたはいつでもパスカァ~ル♪」
地下通路を通って……
「シュタッ!」
地下通路への隠し扉がある貯蔵庫に到着。
幼き日々に婚約者の城を探索して遊んだ事が、こんな形で役に立つなんて、あの頃は思いもしなかった。
許婚とのロマンスがまったく温まらない未来になるなんて事も、あの頃は思わなかったけど。
さあ、恋人たちの熱いロマンスを観察するわよ。
わくわくする……
「っふ」
笑いが洩れてしまうわ~♪
「どこかしらぁ~」
離宮の中を、一応、夫とその恋人にだけは見つからないように注意深く練り歩く。当然、使用人たちに見られても、私は笑顔で人差し指を唇に立てるだけ。
「おっ、奥方様!?」
「シッ。私の事は、パスカルにはナイショね」
「はっ!? はっ、はい……。!?」
「ファッ!? オッ、奥方さ──」
「シィーーーーツ! 私の事は、パスカルにはナイショ」
「……ふぁぃ……。!?」
私がいると、そんなにおかしい?
離宮は私の離宮でもあるのよ。
「こっ、こっ、これは……! その!」
「シィ~。いいから、いいから」
「いえ! あのですねっ。私たちは奥方様にどうかなってもちろん思っているわけですけどね!?」
「そうね」
「ご主人様に逆らえないわけで!」
「ええ、そうね」
「本当にごめんなさいッ、命だけは助けてぇ~っ!!」
ひとりが取り乱し始めると、連鎖的に地獄よ。
私が死神にでも見えているのか、泣きながら跪く使用人が列を成してしまって、心苦しいったらない。
夫と恋人の熱いロマンスを眺める前に、整備が必須だったとは。
ルンルンで地下通路を歩いていた時は、思ってもいなかった。
「大丈夫。大丈夫、大丈夫。いいのよぉ~。あなた方がなにも悪くないって事は、ちゃあんとわかっています」
「奥方様ぁッ!!」
「泣かないでぇ~、できれば静かにしてぇ~」
「っく、えっぐ……んぐ」
「いいのよぉ。あなた方は、いつも通り、今まで通りにお仕事に励んでちょうだい。絶対、罰したりしないから」
「本当ですかッ!?」
「本当よぉ。なんで悪いほうにばかり想像しちゃうのかしら……えっとね、私としては、当の二人を罰する気もないの。だったら当然、あなた方にとばっちりが行く事もないでしょう?」
「……で、では、なぜ……!?」
なぜ、ここにいるか?
「ふっ……」
「!?」
驚かないで。
それはね……
「どんなふうにイチャついているのか、見たくて」
「……」
「だって、相手はあのファネットよ? ただのロマンスじゃないわ。強烈ロマンスよ」
「……奥方様……」
「見物だわ♪」
いい景色……
恐怖のどん底で泣き喚いて跪いて縋ってくる使用人たちの姿なんて、見たくないわ。ちょっと呆れて呆然と私を見つめるくらい、しっかりしていてほしいのよ。
「えっと……では、本当に、私たちは、普通にご主人様のお言いつけを……」
「ええ。いつも通りにお願い」
「レディ・ファネットに、おもてなしを……」
「ええ。おもてなしして差し上げて? もう絶対に不便のないように、この上ない待遇でお迎えしてちょうだいね」
「あ、あたかもレディ・ファネットがご主人様の奥方様であるかのように?」
「そこまでは言ってない」
けじめは大切。
「ハッ、ハイッ!!」
「よろしくねぇ~。それで、私が来た事は、ヒ・ミ・ツ♪」
「「畏まりましたぁ~ッ!!」」
さて。
やっとよ。
待っててぇ~ファネットちゃぁ~ん♪
強烈ロマンス見せてぇ~♪
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