上 下
119 / 140
第8章 第二次琵琶湖決戦

-119- 唯一足りないもの

しおりを挟む
 腰の両側面にマウントされた2丁のスマートな銃は『Hi-Deハイドマシンガン』だ。
 Hi-Deの名の通りヴァイオレット社製の武装で、細かく圧縮された高出力Dエナジーを連続で発射することが出来る。
 火力を求めるならライフルやマグナムの方が優れているけど、今回私が求めたのは取り回しの良さだ。

 すでに新型機には超火力の武装が満載だから、そこにさらに火力を足すよりはエナジー消費も少なく気軽に撃っていける武器の方がいいかなと思った。
 とはいえHi-Deハイドブランドであることには変わりはないし、一般的なDエナジー兵器と比べると十分高火力なんだけどね。

 さあ、最後に装備されたのはバックパックだ。
 重力制御だけで飛行が可能とはいえ、敵の攻撃を回避したり、移動速度を上げたりする時には推進器の力に頼ることになる。
 新型機の各部には無重力の状態でも姿勢を制御出来るように小型のスラスターが散りばめられている。

 バックパックにも従来のDMDと同じくメインスラスターとしての機能があると同時に、4本のサブアームが折りたたまれた状態で搭載されている。
 このアームはDMDの腕と同じように様々な武器を扱うことが出来る。
 すべてに武器を握らせれば、この機体の総火力はとんでもないことになる!

 そんなまさに手数が増えるサブアームには現在『スタビライザーソードDF』が2本握られている。
 この武器はスタビライザーソードの発展形で『DF』はDフェザーを意味する。
 元々スタビライザーソードの推進力は刃がまとうエナジーから生み出されていたので、いわばDフェザーユニットの前身ぜんしんとも言える武器だった。
 今回は本物のDフェザーを刃にまとい、鋭い切断力と素早い推進力を得ることに成功している。

 Dフェザーを安定させるために元のスタビライザーソードに搭載されていた射撃機能はオミットされているけど、まあ飛び道具なら他にたくさんあるからね。
 今までは『推進器としても扱える武器』だったけど、こっちは『武器としても扱える推進器』になった感じかな。

 何も握っていない残り2本のアームに何を握らせるのかは未定だけど、安直にスタビライザーソードDFを4本背負っていくのも面白いかもしれない。
 コスト的には大問題かもしれないけど……。

「どう? これが蒔苗ちゃんの専用機だよ」

「なんというか、大切にしないといけないなって気持ちが一番強いです……!」

「ふふっ、まあコスト度外視にもほどがある機体に仕上がってるからねぇ。もちろん大事に使ってほしいけど、気にしすぎて動きがぎこちなくなったらダメよ? DMDに限らず戦うロボットっていうのは傷つくほどに美しいんだから」

「はい! 戦いとなればいつもみたいに限界まで頑張ってもらうことになると思います! それにどれだけ壊しても育美さんが直してくれますもんね!」

「ええ、その通りよ! 壊れるたびに前よりも強くしちゃうんだから!」

 新型機の完全な姿を見たのは今日は初めてなのに、このDMDが自分のものなんだという実感が確かにある。
 でもなんだろう……。
 何か1つ大事なことを忘れているような気がする……。

「それでこのDMDの名前は何にする?」

「な、名前……っ!?」

 そうだ……このDMDにはまだ名前がないんだ!
 そして私は『新型機の名前を考えておいて』と前に言われていた!
 でも、結局思いついていない!

「まさに今は画竜点睛がりょうてんせいを欠いている状態よ。このDMDが蒔苗ちゃん専用機として飛び立つには、竜の瞳たる名前を考えてあげないといけないわ」

「うぅ……。それはわかってるんですけど、『これ!』と言えるようなしっくりくる名前が思いつかないんですよね……。後からコロコロ変えるのもアレですし、自分なりに納得出来る名前にしたいんですけど……」

「まあ、そうだよねぇ。私も少し考えてみたんだけど、これしかないと思えるような名前は思いつかなかった。だから、こればっかりは蒔苗ちゃんが悩みに悩んで決断するしかないと思うわ」

「はい、私の機体ですものね」

 とはいえ本当に思いつかない。
 ネットでカッコいい英単語や漢字を調べてみたり、神話の中にヒントを求めたりして見たけど、考えれば考えるほど決断力が鈍っていく。

「この機体が実戦投入されるまでに決めればいいから、じっくり考えて……と言いたいけど、緊急事態はいつ起こるかわからないからね……」

「な、なるべく早めに決めます……」

 組み立てが完了した新型機はこれから首都第七マシンベースに運ばれる予定だ。
 細かい調整や実戦を想定したテストに関してはマシンベースの設備を使った方がいいからね。

 ということで向こうに機体が運び込まれるまで私にやることはない。
 だからこそ、この隙に名前を考えなければならないんだ……!
 しかし、1人で悶々と考え込んでいても思いつく気がしない!
 相談……誰かに相談したい気分だ!

「あっ、あれは……百華ももかさんだ!」

 物陰に隠れながらこちらの様子をうかがっているのは、黒髪の中に混じる鮮やかな桃色の髪が特徴的な女性、桃園百華さんだ。
 彼女はモエギ・マシニクルの実戦部隊とも評される迷宮探査部『グリームス』の所属で、その中でも成績優秀者のみに与えられる称号『闇を照らす者イルミネーター』を持つ凄腕DMD操者だ。

 蟻の巣抹消作戦の時は私の小隊の一員として戦ってくれたこともあるけど、そういえば最近会っていなかった。
 彼女は普通にモエギの正社員だから、緊急時でもない限りマシンベースに来ることはほとんどないからねぇ。

「百華さん、お久しぶりです」

「蒔苗様……ぐすっ……」

 百華さんは目を赤くらし鼻をすすっている。
 なんだか大泣きした後みたいな感じだけど、何か辛いことでもあったのかな?
 いや、それよりも彼女の場合は……。

「あの『黄金郷真球宮』を抹消したとのしらせを受けてから、私は涙が止まりませんでした……。ああ、ついに蒔苗様が萌葱一族の悲願を成し遂げられたと……! その日を生きて迎えられた私は幸せ者です……! ただ、そんな偉業に挑む蒔苗様をお近くで支えられなかったのが申し訳なく思います……!」

「あ、あはは……気にしないでください。百華さんには百華さんの役目がありますから。日々の仕事をこなしてモエギ・コンツェルンを支えるという役目が……」

 彼女は私を含め萌葱一族を心酔しているのよね……。
 そうなってしまったのには致し方ない理由があるんだけど、こう面と向かって『蒔苗様』なんて呼ばれるのはやっぱり体がむずがゆい!
 昔と比べるとそういう扱いにも慣れてきてはいるけどねぇ。

「ところで百華さん、相談したいことがあるんですけど……」

「はい! 私なんかでよろしければお聞きします!」

「今、新型機の名前を何にするか悩んでるんです。何か良いアイデアないですか?」

「わ、私が蒔苗様の新型機の名前を!? そ、それは少々荷が重すぎます……!」

「別にそのまんま名前じゃなくてもいいんです。こういう方向性が良いとか、こういう言葉を使うのはどうかとか、ちょっとでもヒントが欲しいんです!」

「……蒔苗様がそうおっしゃるのでしたら、僭越せんえつながら少しだけ意見させていただきます。ぜひ、アイオロスという名を受け継いでほしいのです」

「アイオロスの名を受け継ぐ……」

「元々アイオロスという名前に深い意味はないと聞いています。ギリシア神話に登場する人物から取ったのは間違いありませんが、その逸話に沿った願いが込められているというわけではないらしいです。ただ、『ア』から始まって『イ』に『オ』と続くのは五十音順で並べた時にかなり前に来る良い名前だし、勢いもあってカッコいいなとノリで決めたとか……」

「そ、そんな理由だったんですね」

「ですが、今となってはこの名前にも大きな意味があります。迷宮王のDMD、人類を導く機体……。その名は新たな神話になったと言っても過言ではありません。新型機はカラーリング以外アイオロスの面影はありませんが、深層ダンジョンに挑むアイオロス・プロジェクトの終着点として、ぜひともその名を受け継いでほしいのです」

「……わかりました。アイオロスという名前は残す方向でいこうと思います」

「も、もちろん、蒔苗様が気に入らないというのならば無視していただいて構いません! 深層ダンジョンの抹消は実現しました。そういう意味ではもうプロジェクトは終わりを迎えたという考え方も出来ます。これからは新しい時代なのかもしれません」

「そうですね。でも、百華さんの話を聞いていて思ったんです。私にはアイオロスの名を背負ってやるべきことがまだあるんじゃないかって……。だから、アイオロスの名は受け継ごうと思います!」

 これでネーミングの軸は決まった。
 問題はアイオロスの前後にどんな言葉をくっつけるのかだ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

令嬢キャスリーンの困惑 【完結】

あくの
ファンタジー
「あなたは平民になるの」 そんなことを実の母親に言われながら育ったミドルトン公爵令嬢キャスリーン。 14歳で一年早く貴族の子女が通う『学院』に入学し、従兄のエイドリアンや第二王子ジェリーらとともに貴族社会の大人達の意図を砕くべく行動を開始する羽目になったのだが…。 すこし鈍くて気持ちを表明するのに一拍必要なキャスリーンはちゃんと自分の希望をかなえられるのか?!

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...