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第8章 第二次琵琶湖決戦
-119- 唯一足りないもの
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腰の両側面にマウントされた2丁のスマートな銃は『Hi-Deマシンガン』だ。
Hi-Deの名の通りヴァイオレット社製の武装で、細かく圧縮された高出力Dエナジーを連続で発射することが出来る。
火力を求めるならライフルやマグナムの方が優れているけど、今回私が求めたのは取り回しの良さだ。
すでに新型機には超火力の武装が満載だから、そこにさらに火力を足すよりはエナジー消費も少なく気軽に撃っていける武器の方がいいかなと思った。
とはいえHi-Deブランドであることには変わりはないし、一般的なDエナジー兵器と比べると十分高火力なんだけどね。
さあ、最後に装備されたのはバックパックだ。
重力制御だけで飛行が可能とはいえ、敵の攻撃を回避したり、移動速度を上げたりする時には推進器の力に頼ることになる。
新型機の各部には無重力の状態でも姿勢を制御出来るように小型のスラスターが散りばめられている。
バックパックにも従来のDMDと同じくメインスラスターとしての機能があると同時に、4本のサブアームが折りたたまれた状態で搭載されている。
このアームはDMDの腕と同じように様々な武器を扱うことが出来る。
すべてに武器を握らせれば、この機体の総火力はとんでもないことになる!
そんなまさに手数が増えるサブアームには現在『スタビライザーソードDF』が2本握られている。
この武器はスタビライザーソードの発展形で『DF』はDフェザーを意味する。
元々スタビライザーソードの推進力は刃がまとうエナジーから生み出されていたので、いわばDフェザーユニットの前身とも言える武器だった。
今回は本物のDフェザーを刃にまとい、鋭い切断力と素早い推進力を得ることに成功している。
Dフェザーを安定させるために元のスタビライザーソードに搭載されていた射撃機能はオミットされているけど、まあ飛び道具なら他にたくさんあるからね。
今までは『推進器としても扱える武器』だったけど、こっちは『武器としても扱える推進器』になった感じかな。
何も握っていない残り2本のアームに何を握らせるのかは未定だけど、安直にスタビライザーソードDFを4本背負っていくのも面白いかもしれない。
コスト的には大問題かもしれないけど……。
「どう? これが蒔苗ちゃんの専用機だよ」
「なんというか、大切にしないといけないなって気持ちが一番強いです……!」
「ふふっ、まあコスト度外視にもほどがある機体に仕上がってるからねぇ。もちろん大事に使ってほしいけど、気にしすぎて動きがぎこちなくなったらダメよ? DMDに限らず戦うロボットっていうのは傷つくほどに美しいんだから」
「はい! 戦いとなればいつもみたいに限界まで頑張ってもらうことになると思います! それにどれだけ壊しても育美さんが直してくれますもんね!」
「ええ、その通りよ! 壊れるたびに前よりも強くしちゃうんだから!」
新型機の完全な姿を見たのは今日は初めてなのに、このDMDが自分のものなんだという実感が確かにある。
でもなんだろう……。
何か1つ大事なことを忘れているような気がする……。
「それでこのDMDの名前は何にする?」
「な、名前……っ!?」
そうだ……このDMDにはまだ名前がないんだ!
そして私は『新型機の名前を考えておいて』と前に言われていた!
でも、結局思いついていない!
「まさに今は画竜点睛を欠いている状態よ。このDMDが蒔苗ちゃん専用機として飛び立つには、竜の瞳たる名前を考えてあげないといけないわ」
「うぅ……。それはわかってるんですけど、『これ!』と言えるようなしっくりくる名前が思いつかないんですよね……。後からコロコロ変えるのもアレですし、自分なりに納得出来る名前にしたいんですけど……」
「まあ、そうだよねぇ。私も少し考えてみたんだけど、これしかないと思えるような名前は思いつかなかった。だから、こればっかりは蒔苗ちゃんが悩みに悩んで決断するしかないと思うわ」
「はい、私の機体ですものね」
とはいえ本当に思いつかない。
ネットでカッコいい英単語や漢字を調べてみたり、神話の中にヒントを求めたりして見たけど、考えれば考えるほど決断力が鈍っていく。
「この機体が実戦投入されるまでに決めればいいから、じっくり考えて……と言いたいけど、緊急事態はいつ起こるかわからないからね……」
「な、なるべく早めに決めます……」
組み立てが完了した新型機はこれから首都第七マシンベースに運ばれる予定だ。
細かい調整や実戦を想定したテストに関してはマシンベースの設備を使った方がいいからね。
ということで向こうに機体が運び込まれるまで私にやることはない。
だからこそ、この隙に名前を考えなければならないんだ……!
しかし、1人で悶々と考え込んでいても思いつく気がしない!
相談……誰かに相談したい気分だ!
「あっ、あれは……百華さんだ!」
物陰に隠れながらこちらの様子をうかがっているのは、黒髪の中に混じる鮮やかな桃色の髪が特徴的な女性、桃園百華さんだ。
彼女はモエギ・マシニクルの実戦部隊とも評される迷宮探査部『グリームス』の所属で、その中でも成績優秀者のみに与えられる称号『闇を照らす者』を持つ凄腕DMD操者だ。
蟻の巣抹消作戦の時は私の小隊の一員として戦ってくれたこともあるけど、そういえば最近会っていなかった。
彼女は普通にモエギの正社員だから、緊急時でもない限りマシンベースに来ることはほとんどないからねぇ。
「百華さん、お久しぶりです」
「蒔苗様……ぐすっ……」
百華さんは目を赤く腫らし鼻をすすっている。
なんだか大泣きした後みたいな感じだけど、何か辛いことでもあったのかな?
いや、それよりも彼女の場合は……。
「あの『黄金郷真球宮』を抹消したとの報せを受けてから、私は涙が止まりませんでした……。ああ、ついに蒔苗様が萌葱一族の悲願を成し遂げられたと……! その日を生きて迎えられた私は幸せ者です……! ただ、そんな偉業に挑む蒔苗様をお近くで支えられなかったのが申し訳なく思います……!」
「あ、あはは……気にしないでください。百華さんには百華さんの役目がありますから。日々の仕事をこなしてモエギ・コンツェルンを支えるという役目が……」
彼女は私を含め萌葱一族を心酔しているのよね……。
そうなってしまったのには致し方ない理由があるんだけど、こう面と向かって『蒔苗様』なんて呼ばれるのはやっぱり体がむずがゆい!
昔と比べるとそういう扱いにも慣れてきてはいるけどねぇ。
「ところで百華さん、相談したいことがあるんですけど……」
「はい! 私なんかでよろしければお聞きします!」
「今、新型機の名前を何にするか悩んでるんです。何か良いアイデアないですか?」
「わ、私が蒔苗様の新型機の名前を!? そ、それは少々荷が重すぎます……!」
「別にそのまんま名前じゃなくてもいいんです。こういう方向性が良いとか、こういう言葉を使うのはどうかとか、ちょっとでもヒントが欲しいんです!」
「……蒔苗様がそうおっしゃるのでしたら、僭越ながら少しだけ意見させていただきます。ぜひ、アイオロスという名を受け継いでほしいのです」
「アイオロスの名を受け継ぐ……」
「元々アイオロスという名前に深い意味はないと聞いています。ギリシア神話に登場する人物から取ったのは間違いありませんが、その逸話に沿った願いが込められているというわけではないらしいです。ただ、『ア』から始まって『イ』に『オ』と続くのは五十音順で並べた時にかなり前に来る良い名前だし、勢いもあってカッコいいなとノリで決めたとか……」
「そ、そんな理由だったんですね」
「ですが、今となってはこの名前にも大きな意味があります。迷宮王のDMD、人類を導く機体……。その名は新たな神話になったと言っても過言ではありません。新型機はカラーリング以外アイオロスの面影はありませんが、深層ダンジョンに挑むアイオロス・プロジェクトの終着点として、ぜひともその名を受け継いでほしいのです」
「……わかりました。アイオロスという名前は残す方向でいこうと思います」
「も、もちろん、蒔苗様が気に入らないというのならば無視していただいて構いません! 深層ダンジョンの抹消は実現しました。そういう意味ではもうプロジェクトは終わりを迎えたという考え方も出来ます。これからは新しい時代なのかもしれません」
「そうですね。でも、百華さんの話を聞いていて思ったんです。私にはアイオロスの名を背負ってやるべきことがまだあるんじゃないかって……。だから、アイオロスの名は受け継ごうと思います!」
これでネーミングの軸は決まった。
問題はアイオロスの前後にどんな言葉をくっつけるのかだ!
Hi-Deの名の通りヴァイオレット社製の武装で、細かく圧縮された高出力Dエナジーを連続で発射することが出来る。
火力を求めるならライフルやマグナムの方が優れているけど、今回私が求めたのは取り回しの良さだ。
すでに新型機には超火力の武装が満載だから、そこにさらに火力を足すよりはエナジー消費も少なく気軽に撃っていける武器の方がいいかなと思った。
とはいえHi-Deブランドであることには変わりはないし、一般的なDエナジー兵器と比べると十分高火力なんだけどね。
さあ、最後に装備されたのはバックパックだ。
重力制御だけで飛行が可能とはいえ、敵の攻撃を回避したり、移動速度を上げたりする時には推進器の力に頼ることになる。
新型機の各部には無重力の状態でも姿勢を制御出来るように小型のスラスターが散りばめられている。
バックパックにも従来のDMDと同じくメインスラスターとしての機能があると同時に、4本のサブアームが折りたたまれた状態で搭載されている。
このアームはDMDの腕と同じように様々な武器を扱うことが出来る。
すべてに武器を握らせれば、この機体の総火力はとんでもないことになる!
そんなまさに手数が増えるサブアームには現在『スタビライザーソードDF』が2本握られている。
この武器はスタビライザーソードの発展形で『DF』はDフェザーを意味する。
元々スタビライザーソードの推進力は刃がまとうエナジーから生み出されていたので、いわばDフェザーユニットの前身とも言える武器だった。
今回は本物のDフェザーを刃にまとい、鋭い切断力と素早い推進力を得ることに成功している。
Dフェザーを安定させるために元のスタビライザーソードに搭載されていた射撃機能はオミットされているけど、まあ飛び道具なら他にたくさんあるからね。
今までは『推進器としても扱える武器』だったけど、こっちは『武器としても扱える推進器』になった感じかな。
何も握っていない残り2本のアームに何を握らせるのかは未定だけど、安直にスタビライザーソードDFを4本背負っていくのも面白いかもしれない。
コスト的には大問題かもしれないけど……。
「どう? これが蒔苗ちゃんの専用機だよ」
「なんというか、大切にしないといけないなって気持ちが一番強いです……!」
「ふふっ、まあコスト度外視にもほどがある機体に仕上がってるからねぇ。もちろん大事に使ってほしいけど、気にしすぎて動きがぎこちなくなったらダメよ? DMDに限らず戦うロボットっていうのは傷つくほどに美しいんだから」
「はい! 戦いとなればいつもみたいに限界まで頑張ってもらうことになると思います! それにどれだけ壊しても育美さんが直してくれますもんね!」
「ええ、その通りよ! 壊れるたびに前よりも強くしちゃうんだから!」
新型機の完全な姿を見たのは今日は初めてなのに、このDMDが自分のものなんだという実感が確かにある。
でもなんだろう……。
何か1つ大事なことを忘れているような気がする……。
「それでこのDMDの名前は何にする?」
「な、名前……っ!?」
そうだ……このDMDにはまだ名前がないんだ!
そして私は『新型機の名前を考えておいて』と前に言われていた!
でも、結局思いついていない!
「まさに今は画竜点睛を欠いている状態よ。このDMDが蒔苗ちゃん専用機として飛び立つには、竜の瞳たる名前を考えてあげないといけないわ」
「うぅ……。それはわかってるんですけど、『これ!』と言えるようなしっくりくる名前が思いつかないんですよね……。後からコロコロ変えるのもアレですし、自分なりに納得出来る名前にしたいんですけど……」
「まあ、そうだよねぇ。私も少し考えてみたんだけど、これしかないと思えるような名前は思いつかなかった。だから、こればっかりは蒔苗ちゃんが悩みに悩んで決断するしかないと思うわ」
「はい、私の機体ですものね」
とはいえ本当に思いつかない。
ネットでカッコいい英単語や漢字を調べてみたり、神話の中にヒントを求めたりして見たけど、考えれば考えるほど決断力が鈍っていく。
「この機体が実戦投入されるまでに決めればいいから、じっくり考えて……と言いたいけど、緊急事態はいつ起こるかわからないからね……」
「な、なるべく早めに決めます……」
組み立てが完了した新型機はこれから首都第七マシンベースに運ばれる予定だ。
細かい調整や実戦を想定したテストに関してはマシンベースの設備を使った方がいいからね。
ということで向こうに機体が運び込まれるまで私にやることはない。
だからこそ、この隙に名前を考えなければならないんだ……!
しかし、1人で悶々と考え込んでいても思いつく気がしない!
相談……誰かに相談したい気分だ!
「あっ、あれは……百華さんだ!」
物陰に隠れながらこちらの様子をうかがっているのは、黒髪の中に混じる鮮やかな桃色の髪が特徴的な女性、桃園百華さんだ。
彼女はモエギ・マシニクルの実戦部隊とも評される迷宮探査部『グリームス』の所属で、その中でも成績優秀者のみに与えられる称号『闇を照らす者』を持つ凄腕DMD操者だ。
蟻の巣抹消作戦の時は私の小隊の一員として戦ってくれたこともあるけど、そういえば最近会っていなかった。
彼女は普通にモエギの正社員だから、緊急時でもない限りマシンベースに来ることはほとんどないからねぇ。
「百華さん、お久しぶりです」
「蒔苗様……ぐすっ……」
百華さんは目を赤く腫らし鼻をすすっている。
なんだか大泣きした後みたいな感じだけど、何か辛いことでもあったのかな?
いや、それよりも彼女の場合は……。
「あの『黄金郷真球宮』を抹消したとの報せを受けてから、私は涙が止まりませんでした……。ああ、ついに蒔苗様が萌葱一族の悲願を成し遂げられたと……! その日を生きて迎えられた私は幸せ者です……! ただ、そんな偉業に挑む蒔苗様をお近くで支えられなかったのが申し訳なく思います……!」
「あ、あはは……気にしないでください。百華さんには百華さんの役目がありますから。日々の仕事をこなしてモエギ・コンツェルンを支えるという役目が……」
彼女は私を含め萌葱一族を心酔しているのよね……。
そうなってしまったのには致し方ない理由があるんだけど、こう面と向かって『蒔苗様』なんて呼ばれるのはやっぱり体がむずがゆい!
昔と比べるとそういう扱いにも慣れてきてはいるけどねぇ。
「ところで百華さん、相談したいことがあるんですけど……」
「はい! 私なんかでよろしければお聞きします!」
「今、新型機の名前を何にするか悩んでるんです。何か良いアイデアないですか?」
「わ、私が蒔苗様の新型機の名前を!? そ、それは少々荷が重すぎます……!」
「別にそのまんま名前じゃなくてもいいんです。こういう方向性が良いとか、こういう言葉を使うのはどうかとか、ちょっとでもヒントが欲しいんです!」
「……蒔苗様がそうおっしゃるのでしたら、僭越ながら少しだけ意見させていただきます。ぜひ、アイオロスという名を受け継いでほしいのです」
「アイオロスの名を受け継ぐ……」
「元々アイオロスという名前に深い意味はないと聞いています。ギリシア神話に登場する人物から取ったのは間違いありませんが、その逸話に沿った願いが込められているというわけではないらしいです。ただ、『ア』から始まって『イ』に『オ』と続くのは五十音順で並べた時にかなり前に来る良い名前だし、勢いもあってカッコいいなとノリで決めたとか……」
「そ、そんな理由だったんですね」
「ですが、今となってはこの名前にも大きな意味があります。迷宮王のDMD、人類を導く機体……。その名は新たな神話になったと言っても過言ではありません。新型機はカラーリング以外アイオロスの面影はありませんが、深層ダンジョンに挑むアイオロス・プロジェクトの終着点として、ぜひともその名を受け継いでほしいのです」
「……わかりました。アイオロスという名前は残す方向でいこうと思います」
「も、もちろん、蒔苗様が気に入らないというのならば無視していただいて構いません! 深層ダンジョンの抹消は実現しました。そういう意味ではもうプロジェクトは終わりを迎えたという考え方も出来ます。これからは新しい時代なのかもしれません」
「そうですね。でも、百華さんの話を聞いていて思ったんです。私にはアイオロスの名を背負ってやるべきことがまだあるんじゃないかって……。だから、アイオロスの名は受け継ごうと思います!」
これでネーミングの軸は決まった。
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