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第7章 竜を狩る一族
-111- 未知との遭遇
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『……なんだろう。すごい圧迫感を感じる』
七菜さんがそう言ったのはダンジョン・レベル25付近のことだった。
周囲にモンスターの影はなく、チームは順調に帰還への道を進んでいた。
「システムに不具合が出ましたか?」
『いや、そうでもなさそうよ。むしろ、攻撃対象が見当たらないのにシステムは元気にフル稼働してる!』
「……それを不具合と言うんだと思います」
『でも、今までシステムが急停止するような不具合はあっても、常に稼働状態になるような不具合はなかったでしょ? それに育美の調整は完璧よ。ここで疑うべきはシステムじゃなくて人間の常識の方ね』
「人間の……常識ですか」
『そう! 例えばカメラには映らない透明な敵がいるとか、そういうウワサは聞いたことあるじゃん?』
「その可能性もなくはないと思います。ただ圧迫感というのが気になりますね。今回は想定より長時間のテストになっていますし、帰り道はシステムを切った方がいいかもしれません」
『いや、大丈夫よ。確かにちょっとばかし疲れてるけど、まだシステムは切らない方がいい気がするんだよね……』
「わかりました。では、そのまま出来る限り迅速に帰還してください」
『はいよっ!』
ウイニングランのようにゆったりと移動していたチームの移動速度が上がる。
そしてレベル15付近まで戻ってきた時……異変は起こった。
『七菜! 私の隣を走ってたDMDが急に動かなくなったよ!』
「え? ……確認してみますね」
私たちは一応別の研究チームなので、いつも蒔苗ちゃんが使っているような1人用のコントローラーズルームにいた。
すぐさま通信で別チームに状況を確認すると、チームの操者が1人意識を失ってしまったらしい。
DMDの操縦中に意識を失うというのは珍しいわけじゃない。
でも、それはまだ操縦に慣れてない初心者に限られる。
チームのテストパイロットはベテランもベテランだった。
何かがおかしい……。誰もがそう感じていた。
動かせなくなったDMDを一旦放置し、チームの足取りはさらに早くなる。
しかし、すぐにまた1機のDMDが動かなくなり、その操者が気絶するという事件が起こった。
もはやこれは偶然ではない。何らかの未知の現象に巻き込まれている……。
その現象の正体が掴めぬまま、1機また1機と動かなくなっていくDMDたち。
ついに残ったのは七菜さんのスノープリンセスだけになった。
「七菜さん、ブレイブ・リンクを強制切断しましょう! 機体は残していくことになりますが、少なくとも七菜さんの身の安全は……!」
『待って育美! 悪の親玉のお出ましよ!』
「えっ……!?」
『こいつがみんなを眠らせてたのね……!』
当時はダンジョン内部の映像をリアルタイムで地上に届ける技術はなかった。
だから、七菜さんの戦いの様子はのちに回収されたスノープリンセスのデータで知った。
あの時、スノープリンセスの前に現れたのは岩石のような皮膚を持つ竜だった。
姿かたちはまさしく西洋のおとぎ話に出てくる竜だけど、そいつは少し翼が退化していて飛ぶことは出来なかった。
代わりに前足が異常に発達し、獣のような四足歩行を可能にしていた。
のちに与えられたコードネームは『Golem』。
岩石のような皮膚は見かけ倒しではなく、半端な弾丸を無傷で弾き飛ばすほどの強度があった。
そして、翼を犠牲にして得た強靭な足のパワーは、動けなくなったDMDたちを一撃で粉々にした。
今はこうして映像から得た情報を冷静に語れるけど、あの時の私は半分パニックだった。
わからないことだらけだったけど、何か恐ろしいことが起こっているのは理解出来た。
「七菜さん撤退してください! 危険です!」
『ダメよ! やっと私が何をしなきゃいけないのかわかった……! こいつは私の敵だ!』
「やめてください……!」
『大丈夫! ちゃんと機体とデータは残す! あなたたちのために!』
「私は七菜さんさえ無事ならいいんです! 機体なんて捨ててください! リンクを強制的に切断しますよ!」
『そんなことしたら一生口きいてあげないんだから!』
私は……ブレイブ・リンクを切断することが出来なかった。
それは七菜さんの意思を尊重したと同時に、まだパニックになっていない残り半分の私がここで戦う重要性を冷静に計算していたから。
おそらく目の前に現れた竜の攻撃手段は脳波……。
地上からダンジョンへ送れるものが脳波だけであるように、ダンジョンから地上に送れるものもまた脳波だけ。
竜種は脳波を使って操者へダメージを与えているんだ。
七菜さんが未だに無事なのは、彼女もまた脳波で攻撃を行っているから。
脳波と脳波がぶつかり合ってお互いを打ち消すことで、結果として防御兵器としてブレイブ・バトル・システムが機能しているとみて間違いない。
本来想定していないシステムの使い方をどこまで信用していいのかはわからないけど、救援を呼ぶにしても時間稼ぎは必要だ。
七菜さんがここで退いてしまえば竜の前に立ち塞がるものはなくなり、竜が地上に顔を出すまでそう時間はかからないだろう。
相手は未知の攻撃手段を持つ新種だ。
その攻撃がDMDを媒介にしないと行えないのか、それとも何もなしに直接人間の脳に攻撃を行えるのか……。
もし後者だった場合、竜が一般市民に大きな被害を与える可能性もある。
攻撃範囲すら把握しきれていない今は、こいつをダンジョン内部で撃破してしまうのが上策。
ただ、撃破するにしても他のDMDが戦力になるのかという不安がある。
時間稼ぎをして救援部隊が間に合ったとして、果たして彼らは脳波攻撃に耐えられるだろうか?
ブレイブ・バトル・システムを搭載してるDMDはこの世にスノープリンセスのみ……。
ならば答えは1つしかない……!
七菜さんがそう言ったのはダンジョン・レベル25付近のことだった。
周囲にモンスターの影はなく、チームは順調に帰還への道を進んでいた。
「システムに不具合が出ましたか?」
『いや、そうでもなさそうよ。むしろ、攻撃対象が見当たらないのにシステムは元気にフル稼働してる!』
「……それを不具合と言うんだと思います」
『でも、今までシステムが急停止するような不具合はあっても、常に稼働状態になるような不具合はなかったでしょ? それに育美の調整は完璧よ。ここで疑うべきはシステムじゃなくて人間の常識の方ね』
「人間の……常識ですか」
『そう! 例えばカメラには映らない透明な敵がいるとか、そういうウワサは聞いたことあるじゃん?』
「その可能性もなくはないと思います。ただ圧迫感というのが気になりますね。今回は想定より長時間のテストになっていますし、帰り道はシステムを切った方がいいかもしれません」
『いや、大丈夫よ。確かにちょっとばかし疲れてるけど、まだシステムは切らない方がいい気がするんだよね……』
「わかりました。では、そのまま出来る限り迅速に帰還してください」
『はいよっ!』
ウイニングランのようにゆったりと移動していたチームの移動速度が上がる。
そしてレベル15付近まで戻ってきた時……異変は起こった。
『七菜! 私の隣を走ってたDMDが急に動かなくなったよ!』
「え? ……確認してみますね」
私たちは一応別の研究チームなので、いつも蒔苗ちゃんが使っているような1人用のコントローラーズルームにいた。
すぐさま通信で別チームに状況を確認すると、チームの操者が1人意識を失ってしまったらしい。
DMDの操縦中に意識を失うというのは珍しいわけじゃない。
でも、それはまだ操縦に慣れてない初心者に限られる。
チームのテストパイロットはベテランもベテランだった。
何かがおかしい……。誰もがそう感じていた。
動かせなくなったDMDを一旦放置し、チームの足取りはさらに早くなる。
しかし、すぐにまた1機のDMDが動かなくなり、その操者が気絶するという事件が起こった。
もはやこれは偶然ではない。何らかの未知の現象に巻き込まれている……。
その現象の正体が掴めぬまま、1機また1機と動かなくなっていくDMDたち。
ついに残ったのは七菜さんのスノープリンセスだけになった。
「七菜さん、ブレイブ・リンクを強制切断しましょう! 機体は残していくことになりますが、少なくとも七菜さんの身の安全は……!」
『待って育美! 悪の親玉のお出ましよ!』
「えっ……!?」
『こいつがみんなを眠らせてたのね……!』
当時はダンジョン内部の映像をリアルタイムで地上に届ける技術はなかった。
だから、七菜さんの戦いの様子はのちに回収されたスノープリンセスのデータで知った。
あの時、スノープリンセスの前に現れたのは岩石のような皮膚を持つ竜だった。
姿かたちはまさしく西洋のおとぎ話に出てくる竜だけど、そいつは少し翼が退化していて飛ぶことは出来なかった。
代わりに前足が異常に発達し、獣のような四足歩行を可能にしていた。
のちに与えられたコードネームは『Golem』。
岩石のような皮膚は見かけ倒しではなく、半端な弾丸を無傷で弾き飛ばすほどの強度があった。
そして、翼を犠牲にして得た強靭な足のパワーは、動けなくなったDMDたちを一撃で粉々にした。
今はこうして映像から得た情報を冷静に語れるけど、あの時の私は半分パニックだった。
わからないことだらけだったけど、何か恐ろしいことが起こっているのは理解出来た。
「七菜さん撤退してください! 危険です!」
『ダメよ! やっと私が何をしなきゃいけないのかわかった……! こいつは私の敵だ!』
「やめてください……!」
『大丈夫! ちゃんと機体とデータは残す! あなたたちのために!』
「私は七菜さんさえ無事ならいいんです! 機体なんて捨ててください! リンクを強制的に切断しますよ!」
『そんなことしたら一生口きいてあげないんだから!』
私は……ブレイブ・リンクを切断することが出来なかった。
それは七菜さんの意思を尊重したと同時に、まだパニックになっていない残り半分の私がここで戦う重要性を冷静に計算していたから。
おそらく目の前に現れた竜の攻撃手段は脳波……。
地上からダンジョンへ送れるものが脳波だけであるように、ダンジョンから地上に送れるものもまた脳波だけ。
竜種は脳波を使って操者へダメージを与えているんだ。
七菜さんが未だに無事なのは、彼女もまた脳波で攻撃を行っているから。
脳波と脳波がぶつかり合ってお互いを打ち消すことで、結果として防御兵器としてブレイブ・バトル・システムが機能しているとみて間違いない。
本来想定していないシステムの使い方をどこまで信用していいのかはわからないけど、救援を呼ぶにしても時間稼ぎは必要だ。
七菜さんがここで退いてしまえば竜の前に立ち塞がるものはなくなり、竜が地上に顔を出すまでそう時間はかからないだろう。
相手は未知の攻撃手段を持つ新種だ。
その攻撃がDMDを媒介にしないと行えないのか、それとも何もなしに直接人間の脳に攻撃を行えるのか……。
もし後者だった場合、竜が一般市民に大きな被害を与える可能性もある。
攻撃範囲すら把握しきれていない今は、こいつをダンジョン内部で撃破してしまうのが上策。
ただ、撃破するにしても他のDMDが戦力になるのかという不安がある。
時間稼ぎをして救援部隊が間に合ったとして、果たして彼らは脳波攻撃に耐えられるだろうか?
ブレイブ・バトル・システムを搭載してるDMDはこの世にスノープリンセスのみ……。
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