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第7章 竜を狩る一族
-110- 闇の底に眠るもの
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普段は私の言った工程をこなすだけの七菜さんが自分から訓練を……!
その光景に言い表せないほどの感動を覚えた私は、そっとその場から離れようとした。
こっそり1人で訓練している七菜さんの邪魔をしてはいけない。
しかし、そんなときに限って私は足をどこかにぶつけてしまった。
静まり返ったシミュレーターブースに鈍い音が響く。
「おっ、来たんだね育美」
ちょうどコックピットカプセルから出てきた七菜さんに音を聞かれてしまい、私の存在は完全にバレてしまった……。
「す、すいません! 盗み見するつもりはなかったんですけど……」
「気にしなくていいよ。そろそろ来るんじゃないかと思ってたからね」
「あはは……。でも、ちゃんと女子会には行ってきましたよ」
「それもわかってる。ただ、育美のことだから女子会の後にこっちに来るんじゃないかなって予想してたら……案の定来たわね!」
「私の行動パターンなんて七菜さんにはお見通しだったってことですね。逆に私は七菜さんがここにいるとは思いませんでした」
「まっ、普段なら蒔苗のこともあるからね。早め早めに帰ろうとはしてるんだけど、今日はお友達の家にお泊まりに行くんだってさ。そうでなくてもあの子はもう中学生だし、毎日毎日早く家に帰る必要もないのかもしれないけどね。親としては寂しい思いしてるんじゃないかって心配なのよ。あんまり感情を口に出すタイプじゃないしさ……」
「中学生ならまだまだ母親が恋しい時期だと思います。出来る限り一緒にいてあげるのは正しいかと」
「そう……ね。でも、本当は私の方が寂しいのかもしれないな。蒔苗と一緒にいないとさ……」
その時の七菜さんは本当に寂しそうな顔をしていた。
どちらかと言わずともお調子者で明るい雰囲気だった彼女が初めて見せる表情に、私は胸が締め付けられるような思いだった。
「七菜さん、私でよければ今晩そばにいますけど……」
私の口から自然と出た言葉。
それを聞いた七菜さんの顔からは寂しさが消え、みるみるうちに赤くなっていった。
「そ、それは……大胆なお誘いってことで……いいのかな?」
最初はその言葉の意味がわからなかった。
でも意味を理解した瞬間、私の顔も赤くなっていたと思う。
「ち、違いますよ! ただ本当に寂しいんだったら家にでも店にでも付き合いますよってことです!」
「なんだ、そういうことね! いや、私もわかってはいたよ? からかってみただけ!」
それであの反応はないだろうと思いつつ、変な空気になるので突っ込まないようにした。
「ありがとうね育美。でも、今日はお互いおとなしく家に帰りましょう。明日は大事な実戦テストだからね」
「はい……」
「そんな心配そうな顔しないでよ。実戦テストが上手くいったらパーッと羽目を外せばいいのよ。その時は一晩でも二晩でも付き合ってもらうからね! 約束よ?」
「ええ、わかりました」
その約束は3年経った今も果たされていない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
実戦テスト当日、天候はあいにくの曇り空。
マシンベースからDMDを制御し、そのDMDも地上の環境とは関係ないダンジョン内部で活動する私たちにとって天気なんて特に関係のない要素なんだけど、人間である以上どうしても気分はどんよりしてしまうもの。
テストへの影響が少し気になったけど、ありがたいことに七菜さんは絶好調だった。
ブレイブ・バトル・システムはその効果を明確に示し、脳波の放射を食らったモンスターの動きはそうでない時と比べて明らかに鈍っていた。
さらに他のDMDへ送られている脳波と干渉することもなく、私たちのテストは大成功と言えた。
しかし、同行させてもらったチームの方の実験はあまり上手くいっていなかった。
そのチームはダンジョン・レベル40あたりまで人の制御するDMDで向かい、そこから奥へは無人機を飛ばすことでまだ人類が立ち入れない深層の様子を調査することを目的としていた。
でも、いくら出現するモンスターが弱めとはいえレベル40前後はかなり深い場所だし、そこへ到達するにはかなりの苦労を要する。
無人機だって送り込んだ後に回収出来なければデータを持ち帰れない。
当時の無人機はDMDというより偵察ドローンのようなもので、深層のモンスターの攻撃をかいくぐりながら情報を集め、人の元に帰ってくるというのはなかなか難しかった。
チームもダメで元々なのは覚悟していたらしいけど、想像以上に苦戦して焦っているのは伝わって来た。
そこで私たちもその実験に協力することにした。
七菜さんはブレイブ・レベル40を少し超えたところまで進めるし、機体の性能も実験機としては高い。
チームにとって貴重な戦力になるのはわかっていたし、何より実験に同行させてもらったのに困っているところを見て見ぬふりをするというのは私にも七菜さんにも出来なかった。
スノープリンセスをレベル40付近まで移動させ、深層から帰ってくる無人機たちを回収をしているチームを護衛する。
このレベルのモンスターにもブレイブ・バトル・システムが通用したこともあって、そこからは順調に回収作業が進んだ。
私たちは自分の研究に自信を深めつつ、作業を終えたチームと共に撤退を始めた。
その道中、七菜さんは無人機から回収した画像データを他のDMDから送ってもらっていた。
画像には見たこともない鉱石類やモンスターなどがいくつも映り込んでいたらしい。
でも七菜さんが一番気になったのは、まるでドラゴンのように見える岩石の塊だった。
研究チーム曰くドラゴンのように見えるのは岩石の出っ張りや影がそれっぽいから……つまり、気のせいということだったけど、七菜さんはそれが本物にしか見えないとしきりに言っていた。
彼女の直感が間違っていなかったことは……すぐに証明された。
その光景に言い表せないほどの感動を覚えた私は、そっとその場から離れようとした。
こっそり1人で訓練している七菜さんの邪魔をしてはいけない。
しかし、そんなときに限って私は足をどこかにぶつけてしまった。
静まり返ったシミュレーターブースに鈍い音が響く。
「おっ、来たんだね育美」
ちょうどコックピットカプセルから出てきた七菜さんに音を聞かれてしまい、私の存在は完全にバレてしまった……。
「す、すいません! 盗み見するつもりはなかったんですけど……」
「気にしなくていいよ。そろそろ来るんじゃないかと思ってたからね」
「あはは……。でも、ちゃんと女子会には行ってきましたよ」
「それもわかってる。ただ、育美のことだから女子会の後にこっちに来るんじゃないかなって予想してたら……案の定来たわね!」
「私の行動パターンなんて七菜さんにはお見通しだったってことですね。逆に私は七菜さんがここにいるとは思いませんでした」
「まっ、普段なら蒔苗のこともあるからね。早め早めに帰ろうとはしてるんだけど、今日はお友達の家にお泊まりに行くんだってさ。そうでなくてもあの子はもう中学生だし、毎日毎日早く家に帰る必要もないのかもしれないけどね。親としては寂しい思いしてるんじゃないかって心配なのよ。あんまり感情を口に出すタイプじゃないしさ……」
「中学生ならまだまだ母親が恋しい時期だと思います。出来る限り一緒にいてあげるのは正しいかと」
「そう……ね。でも、本当は私の方が寂しいのかもしれないな。蒔苗と一緒にいないとさ……」
その時の七菜さんは本当に寂しそうな顔をしていた。
どちらかと言わずともお調子者で明るい雰囲気だった彼女が初めて見せる表情に、私は胸が締め付けられるような思いだった。
「七菜さん、私でよければ今晩そばにいますけど……」
私の口から自然と出た言葉。
それを聞いた七菜さんの顔からは寂しさが消え、みるみるうちに赤くなっていった。
「そ、それは……大胆なお誘いってことで……いいのかな?」
最初はその言葉の意味がわからなかった。
でも意味を理解した瞬間、私の顔も赤くなっていたと思う。
「ち、違いますよ! ただ本当に寂しいんだったら家にでも店にでも付き合いますよってことです!」
「なんだ、そういうことね! いや、私もわかってはいたよ? からかってみただけ!」
それであの反応はないだろうと思いつつ、変な空気になるので突っ込まないようにした。
「ありがとうね育美。でも、今日はお互いおとなしく家に帰りましょう。明日は大事な実戦テストだからね」
「はい……」
「そんな心配そうな顔しないでよ。実戦テストが上手くいったらパーッと羽目を外せばいいのよ。その時は一晩でも二晩でも付き合ってもらうからね! 約束よ?」
「ええ、わかりました」
その約束は3年経った今も果たされていない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
実戦テスト当日、天候はあいにくの曇り空。
マシンベースからDMDを制御し、そのDMDも地上の環境とは関係ないダンジョン内部で活動する私たちにとって天気なんて特に関係のない要素なんだけど、人間である以上どうしても気分はどんよりしてしまうもの。
テストへの影響が少し気になったけど、ありがたいことに七菜さんは絶好調だった。
ブレイブ・バトル・システムはその効果を明確に示し、脳波の放射を食らったモンスターの動きはそうでない時と比べて明らかに鈍っていた。
さらに他のDMDへ送られている脳波と干渉することもなく、私たちのテストは大成功と言えた。
しかし、同行させてもらったチームの方の実験はあまり上手くいっていなかった。
そのチームはダンジョン・レベル40あたりまで人の制御するDMDで向かい、そこから奥へは無人機を飛ばすことでまだ人類が立ち入れない深層の様子を調査することを目的としていた。
でも、いくら出現するモンスターが弱めとはいえレベル40前後はかなり深い場所だし、そこへ到達するにはかなりの苦労を要する。
無人機だって送り込んだ後に回収出来なければデータを持ち帰れない。
当時の無人機はDMDというより偵察ドローンのようなもので、深層のモンスターの攻撃をかいくぐりながら情報を集め、人の元に帰ってくるというのはなかなか難しかった。
チームもダメで元々なのは覚悟していたらしいけど、想像以上に苦戦して焦っているのは伝わって来た。
そこで私たちもその実験に協力することにした。
七菜さんはブレイブ・レベル40を少し超えたところまで進めるし、機体の性能も実験機としては高い。
チームにとって貴重な戦力になるのはわかっていたし、何より実験に同行させてもらったのに困っているところを見て見ぬふりをするというのは私にも七菜さんにも出来なかった。
スノープリンセスをレベル40付近まで移動させ、深層から帰ってくる無人機たちを回収をしているチームを護衛する。
このレベルのモンスターにもブレイブ・バトル・システムが通用したこともあって、そこからは順調に回収作業が進んだ。
私たちは自分の研究に自信を深めつつ、作業を終えたチームと共に撤退を始めた。
その道中、七菜さんは無人機から回収した画像データを他のDMDから送ってもらっていた。
画像には見たこともない鉱石類やモンスターなどがいくつも映り込んでいたらしい。
でも七菜さんが一番気になったのは、まるでドラゴンのように見える岩石の塊だった。
研究チーム曰くドラゴンのように見えるのは岩石の出っ張りや影がそれっぽいから……つまり、気のせいということだったけど、七菜さんはそれが本物にしか見えないとしきりに言っていた。
彼女の直感が間違っていなかったことは……すぐに証明された。
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