上 下
73 / 140
第5章 蟻の巣抹消作戦

-73- 蟻の巣抹消作戦Ⅲ〈魔蟲〉

しおりを挟む
『……先頭を務めるのは私だ!』

 チーム単位で動く時、その先頭に立つのはやはりアイオロス・ゼログラビティだ。
 なぜなら、他の機体は基本的に中距離および遠距離からの支援をメインにしているからだ。
 このチームにおいて機動力に優れる近接戦闘型の機体を操る私の責任は大きい。

 移動を始めて最初の内は敵も出てこずスムーズに進むことが出来た。
 先行している部隊が上手くやってくれているおかげだろう。
 しかし、しばらくすると通路にDMDの残骸がちらほら見え始めた。
 これがその先行している部隊の機体かはわからないけど、少なくともここからは機体を壊せるくらいの敵が出てくるということか……。

『全員、気を抜かないでね』

 説明通りダンジョン内は分かれ道が多い。
 通り過ぎた道からモンスターがやって来て、背後を取られる可能性だって十分にある。
 とにかく素早く進むことでそのリスクは軽減できるけど、やはり敵に遭遇すること自体は避けられそうにない……!

『前方に敵! なんかボールみたいなのがこっちに跳ねてくる!』

 あれも虫型モンスターならモデルはダンゴムシかな?
 丸まったそれは通路の壁で不規則にバウンドしながらこちらに接近してくる!
 しかも数は5! 接近して1体1体槍で串刺しというのも面倒そうだ!

『マシンガン!』

 シールドの裏に取り付けられたDエナジーマシンガンで排除を試みる。
 しかし、ダンゴムシの外皮はDエナジーの弾丸を弾いた!
 この武器ではダメか……!

『蒔苗、私が狙撃する! 射線を開けて!』
『頼みます!』

 ゼログラビティを天井付近に移動させ、葵さんが操るポラリス・グリントの狙撃に任せる。
 新型のスナイパーライフルは連射することは出来ないが、1発の威力は十分!

『……っ!』

 ライフルのトリガーが引かれ、光の弾丸が放たれる。
 それはちょうど位置が重なっていたダンゴムシ3体を貫き消滅させた!

『よっしゃ、3枚抜き!』
『残りはわたくしがやりますわ!』

 今度はグラドランナのストーク・キャノンが光を放ち、残り2体のダンゴムシを消し飛ばした。
 やっぱり高威力エナジー兵器は頼りになる!

『蘭、葵さん、ありがとうございます』

『どういたしまして! でも、いきなりDエナジー兵器を使っちゃったねぇ』

『正しい判断だと思います。頑丈そうな相手でしたから』

 虫型モンスターの中には今のダンゴムシのような頑丈なタイプもいれば、脆い代わりにすさまじいスピードを誇るタイプもいる。
 そのスピードタイプの中でも典型的なのがトンボ型だ。
 遠くにいても正確に私たちを認識し、脆い体で体当たりを仕掛けてくる。
 胴体は爆発物になっているようで、直撃を受ければ無傷では済まない。
 対処に神経を使う……!

『蒔苗様、背後からまたトンボ型です。私が落とします』
『お願いします』

 百華さんのディオス・ロゼオの頭部から細かな桜色のエナジーが発射される。
 ロゼオエナジーバルカン砲、略してREバルカン砲はまるで桜の花びらを飛ばしているような美しさがあるけど、威力は相当なものだ。
 正確にトンボ型モンスターの翼を撃ち抜き、地面に落としていく。

『虫型モンスターというのもなかなか厄介なものです。本物の虫のように種が多彩で、それぞれがまるで洗練されたシステムのように動く。先ほどのダンゴムシ型やこのトンボ型などはまるで最低限の知能を持たされた弾丸……。かと思えばムカデ型のような巨大な個体や、知恵が回る個体もいる。モンスターのモデルとしてこれほど厄介な生物はありませんよ』

 虫は今でも毎年大量の新種が発見されるらしいからなぁ。
 それだけ短期間で進化を繰り返しているということなんだろう。
 でも、もしその進化の早さがモンスターにも適応されていたら……。
 日を追うごとにこのダンジョンの攻略は難しくなっていくのかもしれない。
 まあ、私が今日でこのダンジョンを消すんだけどね。

『そろそろレベルでいうと20くらいの深さに来たかな』

 全体の半分のちょっと手前といった感じだ。
 破壊されたDMDを見る頻度が増え、モンスターも機械体が多くなってくる。
 それに通路を塞ぐように蜘蛛の巣が張られているのをよく見るようになった。

『フレイム・シューター! サンダー・シューター!』

 蜘蛛の巣を2種のシューターで燃やして道を開く。
 しかし、肝心の蜘蛛そのものは見つからない。
 この蜘蛛の巣は頑丈で物理的に排除するにはかなり時間がかかる。
 Dエナジー兵器なら斬ったり燃やすのは簡単だけど、それをやるたびに機体本体のDエナジーが消費されていく。
 巣がかなり分厚く張り巡らしてある通路もあるし、そろそろ本体を叩かないと時間とエネルギーのロスがバカにならないことに……。

『育美さん、蜘蛛の巣がかなり多いです。クモ型モンスターの目撃情報はありませんか? 出来れば先行している部隊に排除してほしいんですが……』

「今、その巣を張ってる小型のクモ型モンスターを生み出してる女王みたいな個体を発見したところよ。場所はレベル25あたりにある広い空間ね。これから3部隊で攻撃を仕掛けるから、蒔苗ちゃんたちはそのまま進んで」

『了解です』

 各DMDには出撃前の時点で判明している部分を記録したダンジョンマップがインストールされている。
 レベル25付近の広い空間というと、ちょうどこの先か……。
 その女王みたいな蜘蛛との戦闘が長引きそうなら迂回ルートを探すか、それとも加勢して倒してしまうか……。
 とりあえず、今は行く手を塞ぐ蜘蛛の巣を焼き払おう。

『育美さん、その蜘蛛との戦いに何か変化があったら報告をお願いします』
「わかったわ」

 育美さんからの報告は、ほどなくして届いた。

「蒔苗ちゃん、女王蜘蛛に攻撃を仕掛けた3部隊は全機行動不能になったわ」

『行動不能……。全機破壊されたということですか?』

「いいえ。なぜか全機壊されることなく、糸で絡めとられて動けない状態なの。まるでエサを保存しているように……」

 エサを保存……DMDを捕食……。
 つまり、その中のDエナジーも一緒に……。

「でも、女王蜘蛛はかなり巨大らしいから通れない通路がたくさんあるわ。ルートを変更して細い通路を移動すれば、こいつをスルーして進むことも可能なはずよ。巣が張られているのもこの女王を中心とした一定の範囲内だけだから、しばらく進めばそのうち邪魔な巣もなくなるはずよ」

『……育美さん、その女王蜘蛛は機械体ですか?』

「ええ、混成機械体みたいよ」

『そうですか……。では、マキナ隊はその女王蜘蛛の撃破に向かいます』

 育美さんの驚いた声が聞こえる。
 チームのみんなの機体も私の方を見ている。

『コアの破壊が優先だということはわかっています。でも、DMDを壊さずエサのように保存しているというのが気になるんです。ヤタガラスは工場に保管されていた濃縮Dエナジーを飲んで進化しました。同じようにDMDの中にも濃縮Dエナジーが入っています。女王蜘蛛が機体を壊さず置いておく理由がもしそのDエナジーだったら……』

「また進化した個体……覚醒機械体が生まれるかもしれない……」

『はい。流石にあの強さのモンスターが生まれる可能性は見過ごせません。マキナ隊はこれより女王蜘蛛に攻撃を仕掛け、標的を撃破後は当初のルートでより深い場所へ進み、コアの探索を行います』

「了解よ、蒔苗ちゃん。隊長であるあなたの判断を信じるわ。頑張って」

『ありがとうございます。あ、他の部隊にも気を付けるように言っておいてください。根拠はありませんけど、DMDの捕食を狙っているモンスターは女王蜘蛛だけではない気がするんです』

「うん、全体に通達しておくわ」

 もしかしたら、私たちは自分から巣穴に入っていくエサなのかもしれない。
 私の考えがすべて杞憂きゆうで済めばいいけど、こういう悪い想像ほど当たるのが人間ってものだ。
 気合入れて女王様のお食事を邪魔しにいかないとね……!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...