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第2章 騎士改革編
024 反乱分子の帰還
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翌日――。
日の出の前に動き出した銀灰遊撃隊は、朝日と共に領都シルバリオに帰還した。
彼らはいつも帰還時には貧民街のある方角から街に入っていく。そうして貧民街、平民街、城下町、シルバーナ城と順番に通っていくのだ。
こうする理由は英雄の凱旋を民が待ち望んでいるから……ではなく、しょぼくれた民を見て自分たちの優位性を再確認するためだ。
特に平民から騎士団長にまで上り詰めたアッシュにとって、貧民街や平民街を這いずっている負け犬は努力が足りない奴らという認識であり、見下すことで自分の今までの努力をより誇れるようになる。
そして、今回の凱旋前にはパルクス侯爵が死去し、その息子である四男ベリムが次期領主の座に就いているはず。ベリムはパルクス以上の無能で暴君の素質があるというのは、誰もが認めるところ。
そうなると、民のしょぼくれ具合も過去最高になる……とアッシュは期待していた。
だがしかし、現実は彼の想像もしない方向に進んでいた。貧民街に入った銀灰遊撃隊は、そこに住む人々が妙に活気づいていることに気づいた。
「なんだか、みんな明るいっすね……」
騎士の1人がつぶやく。アッシュはその騎士をキッとにらみつけるが、アッシュ自身が一番この街の活気に敏感だった。少なくとも暴君が圧政を行っている気配はない。
ベリムのことだ。次期領主になった初日で景気づけに数十人くらい処刑してる可能性も考えていた。なのになぜか貧民たちが明るい……。
まさか、ベリムが正しき心に目覚めて……。そこまで考えてアッシュは首を振った。それだけはない!
知りたい……。その答えを知りたい……。だが、栄誉あるシルバーナ騎士団の団長ともあろう者が、貧民に教えを乞うわけにはいかない。
アッシュたちは妙な居心地の悪さを感じながら、貧民街を後にし今度は平民街に入った。
「ここも雰囲気が明るいですな……」
アッシュはやけに浮かれている人々をキッとにらみつける。それに対して人々は半笑いで視線を逸らす。普段アッシュににらまれた者は、体をビクッと震わせてうつむく。しかし、今日はその限りではない。
気になる……。なぜこんな反応をするのか気になる……。だが、栄誉あるシルバーナ騎士団の団長ともあろう者が平民に教えを乞うわけにはいかない。
なので、アッシュたちは馬の歩みを緩めて、人々の話に聞き耳を立てることにした。
「まさかラスタ様の方が次期領主とはな……!」
「呪いの子だろ? 最初は不安だったけど、ベリム様よりはずっとマシそうじゃないか」
アッシュたちは目を丸くした。そもそも次期領主は四男ベリムではなく、呪いの子の五男ラスタ・シルバーナだと言うのだ。これは何人もが話題にしている。嘘ではない……。
ただ、アッシュたち騎士団員はラスタがどういう人間なのかまったく知らない。ただ、幼くして城を追い出された呪いの子という一般知識しかないのだ。
それに加えて、平民たちの会話には聞き逃せない名前が含まれていた。
「あのグゲル・ナープラーが捕まったって本当か?」
「ああ、間違いない。昨日、娘を攫われたと騒いでたヴェロキラの旦那が、ラスタ様のおかげで娘が帰って来た。犯人はグゲルだったと言いふらしてたからな!」
「あのヴェロキラ商会の……! あの人は娘に対しては間違いなく誠実と聞くからな……」
「だからこそ、間違いない情報なんだよ!」
グゲル・ナープラー……B級指名手配犯……。
一応は騎士である彼らも当然その名は耳にしたことがある。いや、それどころか銀灰遊撃隊はグゲルの確保に挑んだこともあれば、騎士の1人が自分の娘を手にかけられたこともある。
「グ……グゲル……! うっ、うぅ……そうか……ついに捕まったのか……!」
その娘を奪われた騎士が嗚咽を漏らす。あの時ばかりは本物の騎士として、そして父としてグゲルを追ったが届かなかった。
しかし、まさか今こうして奴が掴まっているとは……。本当に予想外、衝撃的事実だった。
騎士の何人かは涙を流す騎士に寄り添い優しい言葉を賭けている。だが、アッシュと他数名は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「団長……これは……」
「ああ、まずいことになったかもしれん……。お前ら、城へ急ぐぞ!」
今度は馬の歩みを速めて城を目指す。その際に通りかかる城下町で、彼らは聞き捨てならないセリフを聞いた。
「まさか領主様が亡くなった次の日に今年1年の税が3割減になるなんてね! これじゃあお祝いムードになっちゃうよ! あははははっ!」
素晴らしく陽気な民の声だった。だが、アッシュたちはまったく陽気になれない。それどころか背筋が凍るような思いだった。
銀灰遊撃隊によるクーデターは領民の心が侯爵家から離れているからこそ成功する。なのに税の軽減という最強の切り札を切られれば、民の心は大きく侯爵家に傾いてしまう。
それが一時的な影響にせよ、少なくとも次期領主は民の声を聞き、民の人気を得ようとする人物であることは間違いない。つまり、これからも民に向けていろんな手を打つ可能性が高いのだ。
アッシュの野望にとって、とんでもなく強い逆風……。まさに風のように突然現れた存在……。
「お前ら、作戦変更だ。いきなりはことを起こさない。まずは見極めさせてもらおうか……ラスタ・シルバーナという男を……!」
「了解……!」
銀灰遊撃隊は跳ね橋を渡り、シルバーナ城に入っていった。
日の出の前に動き出した銀灰遊撃隊は、朝日と共に領都シルバリオに帰還した。
彼らはいつも帰還時には貧民街のある方角から街に入っていく。そうして貧民街、平民街、城下町、シルバーナ城と順番に通っていくのだ。
こうする理由は英雄の凱旋を民が待ち望んでいるから……ではなく、しょぼくれた民を見て自分たちの優位性を再確認するためだ。
特に平民から騎士団長にまで上り詰めたアッシュにとって、貧民街や平民街を這いずっている負け犬は努力が足りない奴らという認識であり、見下すことで自分の今までの努力をより誇れるようになる。
そして、今回の凱旋前にはパルクス侯爵が死去し、その息子である四男ベリムが次期領主の座に就いているはず。ベリムはパルクス以上の無能で暴君の素質があるというのは、誰もが認めるところ。
そうなると、民のしょぼくれ具合も過去最高になる……とアッシュは期待していた。
だがしかし、現実は彼の想像もしない方向に進んでいた。貧民街に入った銀灰遊撃隊は、そこに住む人々が妙に活気づいていることに気づいた。
「なんだか、みんな明るいっすね……」
騎士の1人がつぶやく。アッシュはその騎士をキッとにらみつけるが、アッシュ自身が一番この街の活気に敏感だった。少なくとも暴君が圧政を行っている気配はない。
ベリムのことだ。次期領主になった初日で景気づけに数十人くらい処刑してる可能性も考えていた。なのになぜか貧民たちが明るい……。
まさか、ベリムが正しき心に目覚めて……。そこまで考えてアッシュは首を振った。それだけはない!
知りたい……。その答えを知りたい……。だが、栄誉あるシルバーナ騎士団の団長ともあろう者が、貧民に教えを乞うわけにはいかない。
アッシュたちは妙な居心地の悪さを感じながら、貧民街を後にし今度は平民街に入った。
「ここも雰囲気が明るいですな……」
アッシュはやけに浮かれている人々をキッとにらみつける。それに対して人々は半笑いで視線を逸らす。普段アッシュににらまれた者は、体をビクッと震わせてうつむく。しかし、今日はその限りではない。
気になる……。なぜこんな反応をするのか気になる……。だが、栄誉あるシルバーナ騎士団の団長ともあろう者が平民に教えを乞うわけにはいかない。
なので、アッシュたちは馬の歩みを緩めて、人々の話に聞き耳を立てることにした。
「まさかラスタ様の方が次期領主とはな……!」
「呪いの子だろ? 最初は不安だったけど、ベリム様よりはずっとマシそうじゃないか」
アッシュたちは目を丸くした。そもそも次期領主は四男ベリムではなく、呪いの子の五男ラスタ・シルバーナだと言うのだ。これは何人もが話題にしている。嘘ではない……。
ただ、アッシュたち騎士団員はラスタがどういう人間なのかまったく知らない。ただ、幼くして城を追い出された呪いの子という一般知識しかないのだ。
それに加えて、平民たちの会話には聞き逃せない名前が含まれていた。
「あのグゲル・ナープラーが捕まったって本当か?」
「ああ、間違いない。昨日、娘を攫われたと騒いでたヴェロキラの旦那が、ラスタ様のおかげで娘が帰って来た。犯人はグゲルだったと言いふらしてたからな!」
「あのヴェロキラ商会の……! あの人は娘に対しては間違いなく誠実と聞くからな……」
「だからこそ、間違いない情報なんだよ!」
グゲル・ナープラー……B級指名手配犯……。
一応は騎士である彼らも当然その名は耳にしたことがある。いや、それどころか銀灰遊撃隊はグゲルの確保に挑んだこともあれば、騎士の1人が自分の娘を手にかけられたこともある。
「グ……グゲル……! うっ、うぅ……そうか……ついに捕まったのか……!」
その娘を奪われた騎士が嗚咽を漏らす。あの時ばかりは本物の騎士として、そして父としてグゲルを追ったが届かなかった。
しかし、まさか今こうして奴が掴まっているとは……。本当に予想外、衝撃的事実だった。
騎士の何人かは涙を流す騎士に寄り添い優しい言葉を賭けている。だが、アッシュと他数名は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「団長……これは……」
「ああ、まずいことになったかもしれん……。お前ら、城へ急ぐぞ!」
今度は馬の歩みを速めて城を目指す。その際に通りかかる城下町で、彼らは聞き捨てならないセリフを聞いた。
「まさか領主様が亡くなった次の日に今年1年の税が3割減になるなんてね! これじゃあお祝いムードになっちゃうよ! あははははっ!」
素晴らしく陽気な民の声だった。だが、アッシュたちはまったく陽気になれない。それどころか背筋が凍るような思いだった。
銀灰遊撃隊によるクーデターは領民の心が侯爵家から離れているからこそ成功する。なのに税の軽減という最強の切り札を切られれば、民の心は大きく侯爵家に傾いてしまう。
それが一時的な影響にせよ、少なくとも次期領主は民の声を聞き、民の人気を得ようとする人物であることは間違いない。つまり、これからも民に向けていろんな手を打つ可能性が高いのだ。
アッシュの野望にとって、とんでもなく強い逆風……。まさに風のように突然現れた存在……。
「お前ら、作戦変更だ。いきなりはことを起こさない。まずは見極めさせてもらおうか……ラスタ・シルバーナという男を……!」
「了解……!」
銀灰遊撃隊は跳ね橋を渡り、シルバーナ城に入っていった。
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