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第一章 特別推薦入試編

第二十四話

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 「うぅ……」

 「あら、ようやく気が付いたのね、黒幕野郎」

 意識を取り戻すと、心底面倒くさいという様子の、何処か聞き覚えのある女の声が耳に入ってきた。
 そして、俺の事を黒幕野郎などと呼ぶ奴を、俺は一人しか知らない。

 「エセ名探偵……」

 「どうやらもう一回気絶したいようね……」

 「ちょっと待て、すてーいすてーい」

 俺は射殺さんばかりの視線で見下ろしてくるエセ名探偵ことシャーロット・テイラーを制止する。
 ……ってちょっと待て?
 シャーロットが?
 そう言えば、ここはベッドどころか建造物のけの字すら感じない筈の島なのに、俺の頭を包むこの柔らかい感触は何だ?
 
 「ねぇ、目が覚めたのならさっさと起き上がってくれないかしら……」

 シャーロットの言葉を聞いたその瞬間、俺の思考は完全に停止した。
 そして一秒以内に脳を再稼働させて言葉をはじき出した。

 「ごちそうさまでした」

 「……ふんっ!」

 パァン!

 魔獣島の夜の空に乾いた音が響いた。
 ほっぺ痛い……。
 

 *


 俺はジンジンと疼く頬の痛みを感じながら、先ほどからずっとムスッとした顔のシャーロットと向かい合っていた。

 「……で、お前はあそこで何してたわけ?」

 「……あなたと同じよ、Sランククエスト、『魔獣島迷宮を攻略せよ』を受注したの……結果はあのざまだけどね」

 ムスッとした顔を更に顰めて言うシャーロット。
 あのざまってのは俺が気絶した原因となったあれの事か。
 まぁあの事案についてはあの柔らかい太ももに免じて許してやろう。
 俺の心の広さ海の如し。
 てか俺が受注したクエスト、『魔獣島迷宮を攻略せよ』って言うのか、初めて知った。
 
 「でも、寄りにもよってあなたなんかとかち合う事になるとはね。全く、運が無いわ……」

 「え、そこまで言う?」

 「あなた、別れ際にあんな礼儀もへったくれも無いような言葉を吐かれたら、いくら寛大な心を持つ私でも、多少口が悪くなってしまうのは当然の事でしょう?」

 「多少……まぁでも……」

 多少、程度では収まらない口の悪さだが、言わんとしている事は解る。
 思えば、触れられたくない事に触れられたからと言ってあんなに突き放すような話し方をしたのは流石に拙かったか。
 シャーロットは理由は歪でも、態々俺に会いに来てくれたわけだし、あの態度は悪かったかもしれない。
 だが、シャーロットには一つ不審な点がある。
 何故俺が学園島を受験する事を知っていたのかだ。
 間違いなく何らかの異能の力によるものだろう。
 そして、そこまでして成し遂げたい目的とは何なのか。
 それが分からない限り、俺はシャーロットを信用することは出来ないし、ましてや秘密にしたいことを話そうとは思わない。
 なので、流石にシャーロットの問いに答えるつもりは無いが、ここは一度、素直に謝っておこう。
 俺はシャーロットの目を見る。

 「あれに関しては本当にすまなかった」

 俺が頭を下げて言うと、シャーロットは「ふんっ」とそっぽを向いた後、ジト目で俺の方を流し見た。

 「……私の問いに対して答える気は……無いようね」

 「ああ、それは、すまん、言いたくない」

 俺が再度のシャーロットの質問に対して答えると、シャーロットは自分の長い髪を呻きながらわしゃわしゃと搔き乱しはじめた。

 「お、おい、どうしたんだ……?大丈夫か……?」
 
 「うぅー!あぁ!もう!そんなに知られたくないことなら普通にそう言いなさいよ!別にあの質問は……その、なんていうか……最後の疑問を解決して!自分に自分の間違いを認めさせるためだけの質問だったんだから別に教えてくれないなら教えてくれないでそれでよかったのに!」

 沢山の魔獣が住む森にも関わらず顔を真っ赤にして叫ぶシャーロット。
 え、なに、つまりあの質問に答えるか答えないかは大した問題では無かったという事、なのか?
 じゃあシャーロットが俺に会いに来た目的って言うのは何なんだ?

 「じゃあ、お前は一体何の用事があって俺を探していたんだ?」

 俺は戸惑いつつ聞き返す。

 「えっと、私も順序を間違ったって言うか、その、あの、えと……」

 「おーい、大丈夫かー?」

 何をてんぱっているのだか分からないが、何かを言いたいらしいと察した俺は声をかけてみる。
 すると、シャーロットは何かを小声で喋った。

 「……な……い」

 「なんて?」

 声が小さすぎて聞越えなかったため聞き返すと、シャーロットは意を決したように息を深く吸い込んで言った。

 「だから……冤罪を掛けてごめんなさいって、言いたかったの!」

 「え」

 「あなたの冤罪が証明されたって聞いた後、自分の推理が間違っていると認められなかった私は、私の持つ全ての力であなたをクロだと証明しようとしたわ!そのために、あなたが関わったらしき事件、容疑を掛けられた事件、全て調べた!何故か情報が隠匿されていたけど、徹底的にやった……でも、どの事件を調べてもあなたを黒だと証明する証拠は一つも見つからなかった。だから認める事にしたの、あなたはシロだって……って、何よその顔」

 呆然としていると、赤い顔のままむすっとした表情をしたシャーロットがキッと睨んでいる。
 ただ、その目には普段のような鋭さは無い。
 どちらかと言うと不安やら申し訳なさと言った感情がありありと浮かんでいた。
 これは一体どういう事だ?
 つまりシャーロットは俺に冤罪を掛けた事を謝罪する為に俺に会いに来たという事なのか?

 「ぶわははははっははっはははははは!」

 「ちょっ、なんで笑うのよ!私が謝りに来たって言うのがそんなにおかしいっていうの!?」

 「いやすまん!ちょっと自分の馬鹿さ加減に笑えてきてな!そうか!謝りに来ただけか!そうだよな!当たり前の事だよな!はははっ!笑いが止まらねえ!」

 「もうっ!笑わないでよ!」

 そう、すこし考えてみれば何も不思議な事は無かった。

 「それで、どうなのよ……」

 もじもじしながら訪ねるシャーロット。
 悪い事をした、だから謝りに来てくれた。
 謝りに来てくれた子が、ちょっとプライドが高くて、素直じゃないだけで、何らおかしい事なんてなかったのだ。
 疑うべきところなんて、何もない。
 なら、俺がすべきは少なくとも疑う事などでは無い。
 
 「気にしてねーよ」

 俺がそう言うと、シャーロットは安心したようにホッと息をついたように見えた。
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